8-5
「ふぁ・・・んっ」
私は目を覚ますとぼやけた視界を治すために軽く目を手で擦る。視界が整うと部屋には自分以外居ないことがわかる。
「何処に・・・」
とりあえず着替えることにした私は用意してもらった寝巻を脱ぎ、自分の着ていた服を着直す。
寝巻と布団は整え、部屋の戸に手をかけようとすると笛のような音が微かに聞こえて手を止めるが確認のために戸を開けた。
『・・・19,24だよ。ますたー』
「ふぅ・・・そうか。次、同じように20増やしてみるか」
『は~い』
客間の部屋から少し歩いて、綺麗に整えられた庭が見えるとそんな話し声が聞こえてきた。
こっそりと見ていると彼の周りに丸い板のような物がかなりの数、宙へと現れた。その丸いものは彼の
を動かない物から早く動くものまで様々あった。
それを開始の笛の音と共に彼は次々に持っていた鉄の槍を自在に操り、次々とその板を攻撃していく。
攻撃が当たった板は色が赤から青に変わって消えていき、そして1分も経たずにその全てを当て終えた。
『はいっ。32,51だよ。ますたー、やっぱり剣が一番いいんじゃない?』
「ふぅ。やっぱそうなるよな・・・ってかあいつら無しだとこんなもんか」
『それってクイックって人とウィングって人の事?今はますたーの力になってくれてるっていう』
「ああ。あいつらの力の有無の差を知っときたかったからな」
『それなら次はそれ有りで試さないと検証できないんじゃない?』
「そうだな。そんじゃ、今って数50だっけ?」
『そだよ~』
「んじゃ、もっかい」
再度持っていた鉄の槍を構える。そして再びあの板が現れる。
『は~い!それじゃあ!よ~い・・・』
そして笛の音が鳴る。
『はいっ!』
そして笛の音の鳴り止むとほぼ同時に終了の声。気付けばもうすべての板が青になって消えていった。だが彼の構えが変わっている。それは攻撃を終えた後の姿だった。何が起こったか解らない私は呆然としていた。
『2,12。・・・十分にチート主人公だよ。ますたー』
「・・・いやいや。俺より上はいっぱいいるだろ。頭のおかしい能力持ってるくせにメチャクチャ頭良すぎて、気転がすごくて、自分の世界にあった物を作ったら色々大成功したり、ちょっと困ってる人を助けたら富や名声。ハーレムっ!とか築いて。そんでそんな奴らが決まって言う台詞が」
「シュウイチさーん。朝ご飯できたー・・・って、クーラ?」
通路を歩いてきたアイリスがそう声をかけると呆然としていた私に気付く。そして彼らも私を呼ぶ声に反応した。
「『・・・・・・』」
私の顔を見た後、2人は互いの顔を見合う。そして私に顔を向き直すと。
「俺、なにかやっちゃいました?」
『私、なにかやっちゃいました?』
と同時に同じ事を言ってきた。
「え、えーと。今の・・・」
どう言ったらいいか自分の中で整理がつかない。でも言葉にするなら、そう。
「今のがシューイチの力なのですか?」
「クーラ。シュウイチさんが何かしたの?」
「何かしたか?」
『んーん。ますたーは?』
「いーや」
アイリスの質問に合わせて思い当たることがあるか互いに聞いたがもちろん身に覚えは無い。
「だって一瞬でっ!?」
「『あー』」
「ん?どういう事?」
「クーラ。さっきのは俺の力じゃない」
【いや、お前の力だ】
「そんな!あんな事が普通の人に出来るわけが!」
「ああ。出来るわけがないからな」
【私達の力を扱えてるだけでも十分すごいんだよぉ】
「ではさっきのはっ!?」
「俺達の力だからだ」
「・・・はい?」
【・・・・・・】
【ほんとーにキミは変わってるねぇ】
これはクーラだけでなく、俺の中にいる奴らにも向けて言った。その反応はなんとなくだが嬉しそうに思えた。
「・・・それは、イリスのことですか?」
『んーん。私じゃないよ。ますたー、説明してあげたら?』
「いや、理解できると思うか?」
『でも私じゃ説明できないでしょ?私はクイックって人は知ってるけどウィングって人は見た事も聞いた事も無かったんだから』
「俺だっていまいち理解出来てねー・・・あ!だったら本人達に聞いてみるか」
【【え?】】
「ちょっと待ってな」
目を閉じて集中する。
「(・・・って訳でだから)」
【いや。どういう訳だ】
「(話はお前達にも聞こえてるんだろ?だったら解ってるだろ)」
【だからと言って】
【ん~、そうだねぇ。簡単でいいならぁ~】
【む・・・勝手にしろ】
「(ああ。ありがとう。・・・ってクイックは教えてくれないのか?)」
【ごめんねぇ。クイックは誰かに私達の存在を知られるのを嫌がってるから】
「(なんで?)」
【私達、[絶対兵器」(アブソリュートウエポン)はその名前に関する全てにおいて頂点に立つ存在なの】
「(クイックも、始めて会った時そんな事言ってたな)」
【私達の力の使い方はもう解っているでしょお?】
「(ああ。関連やイメージ。ようは連想出来る物なら力として使えるってやつだろ)」
【そぉー。だからこそ私達は人、いいえ。人だけでなく全ての生物にとって危険な存在。例えば、クイックの力を使って人の認識すら出来ない速さをイメージ。惑星を一瞬で何百周も出来ちゃうくらいの速さを。それをその辺にあるような大きな石に与えて、そのイメージの力を地面へ向けて落としたらどうなるとおもぉー?】
「(大きさにもよるが石が粉々なのは確かだな)」
【石だけならまだいいけどぉー。場合によっては惑星も木っ端微塵よぉ~】
「(マジで?)」
【マジマジ~。確かに大きさ次第ではだけどぉー。簡単に言うと地上で惑星同士がぶつかる程の衝撃を作る事だって出来ちゃう】
言われてなんだが、想像出来ない。
【他にも、ね。やり方次第で簡単に世界を終わらせられる力。それが私達なのよぉ】
「(なるほどな。それじゃあそのことを言わずに説明でもするか)」
それならクイックが言いたく無いのも納得できる。言えばそのようにしか使われないからだ。私を使えば世界終わらせられます。なんて。力を欲しがる奴なら手を出したくなるだろうし。感じからして似た出来事があったのかも知れない。・・・って俺、今そんなヤバイのが体の中にあるの!?
「(ちなみに、ウィングは?)」
【うふふ。知りたいのぉ?】
「(・・・いや、いい。ま、ありがとな)」
【・・・キミは間違えないでね】
「(ん?)」
【ほ~らぁ~。そろそろ説明してあげたらぁ?】
そうだった。
目を開けて見るとアイリスとクーラは通路に座ってじっと待っていた。
「・・・さてさて。どう説明すっかな」
腕を組みながらアイリス達のいる通路へ向かう。
『ん?考える必要があるの?』
「ああ。オブラートに包む必要があってな」
『何で?そういう力が使えるって言えばいいだけなんじゃないの?』
「そっか。それもそうだな」
アイリス達の前に立つと今テキトーに考えた説明を言う事にする。
「聞いた結果な、あんま話さないで欲しいって言われたんだ。だから俺の解釈で簡単に言うと、素早く動ける力と風の力。その意思を持った力たちの結晶体が俺の体の中にあるってぐらいだ、そんでその力を使ってるだけ。悪いがそれくらいしか言えないんだ」
嘘は言っていない。だが明確に言っても証明方法が無い。あったとしても最悪利用される可能性がある。
「・・・その結晶を見せる事は?」
どうやらそれを見せないと納得してもらえないらしい。むしろそれで納得してくれるなら安いものだ。
【イメージしてみて。私達の形を】
「ああ」
ウィングに言われた通りにあの時授かった結晶体を思い出して左手の平の上に浮くようにイメージする。すると緑の結晶と水色の結晶が現れる。その結晶の中には輝く光が灯っていた。
「こいつらだ」
「っ!?」
「これが・・・ありがとうございます。もう結構です」
クーラが納得したところで再度、結晶を俺の体の中へと戻す。だが納得したクーラとは別に、アイリスが驚きの表情をしていた。
『アイリス?』
「えっ!?何かな?って、そうだった!ほら。朝ご飯だから早く、ねっ」
アイリスは朝ご飯で呼びに来たことを口実に素早くこの場を離れた。
「・・・私達も行きましょうか」
「ああ。俺は玄関から向かう。靴だしな」
「解りました。先に行っていますね」
クーラも少し距離を置いた喋り方になっている。ブリズで会った時とは大違いだ。
『ますたー』
庭に2人だけになったあと、イリスが呼ぶ。
「ああ。アイリスは知ってたみたいだな」
【あの子。なにものぉ~?】
【さあな】
『聞くの?』
「いや、聞いてきたら。だな」
『そっか』
「さて、動いて腹減ったから早くメシにすっか」