お茶会にて下
美しいものとおいしいものの組み合わせは大好きだ。
チョコレートでコーティングされたケーキの表面はまるで鏡のようにすべすべしていて、フォークを入れたら真っ赤ないちごジャムが黒のスポンジの中に映える。
口に入れれば、生地はしっとりしていて、甘酸っぱい。
セフィーヌは頬に手を当てて目を瞑り、じーんと感じ入る。
何という名のお菓子なのかと主催者のマゴット夫人に聞くと、
「これは『淑女の恋心』と言うのです。ファルセット公国で有名なパティスリーにお願いして取り寄せましたわ。お味はいかが?」
「『淑女の恋心』……。きっとこの『淑女』は、それはもう幸せな恋をしているのでしょうね……」
「恋」。それはかの『失恋姫』の心を燃え立たせる魔法の言葉。彼女の頭の中では勝手にチョコレートといちごを人間に見立てためくるめく愛の劇場が開かれようとして……。
「セフィーヌさま」
はっとマゴット夫人の声に引き戻される。
「気に入っていただけて何よりですわ。ほかにも今日は同じパティスリーのパイやカップケーキ、フィナンシェや花弁入りのババロアなども用意しています。遠慮なくお召し上がりになって?」
「まあ! それはぜひ!」
そわそわとテーブルに並べられたお菓子の皿を眺めているセフィーヌを、夫人は微笑ましく見つめる。
ふとセフィーヌはほかの参加者にあいさつ回りをするはずの夫人が一向に離れていかないことに気付いた。
「夫人はもう、すべての方への挨拶がお済みなのですか?」
だから一人でいるセフィーヌの相手をしてくれているのだろうか、と首を傾げる。
「ええ、そうね。男性陣にはあらかた声をかけさせていただきましたけれど、ねえ。固まって萎縮しているだけで不甲斐ないばかりですから。それだったらセフィーヌさまとお話していた方が楽しいでしょう?」
「なるほど」
そういいつつ、再びフォークでケーキを一口。たまらぬ美味しさよ、と彼女は内心で身もだえした。
「……そういえばセフィーヌさま」
「はい?」
「少し話は変わるかもしれませんが、本日の茶会で気になることはございましたか?」
彼女は「本日の茶会で……」と夫人の言葉を復唱し、考えあぐねた挙句、やっぱり首を傾げて、
「美味しいお菓子以外に何か?」
夫人はきょとんとした顔になり、たまらない様子で吹き出した。
「ふっ。ふふふふ……。確かにお菓子以外に何もなかったようですね。あぁ、おかしい」
彼女はなぜかほかの令嬢たちがほとんど集まる庭の一角を一瞥するが、セフィーヌにはその意図がわからない。
――まあ、いいか。
セフィーヌはケーキの最後の一欠けらを口に入れた。
※
「……」
「ジドレルさま、何をご覧になっていらっしゃるの?」
「木の上の子リスが頬をかわいらしく膨らませていたのですよ」
【気まぐれ人物紹介】
セフィーヌ・フラゴニア
家族に愛されて育った恐るべきお嬢様。
何度失恋してもへこたれない。
怖いものは同性からの恨みと嫉妬。