朝_自室
――――わしらはこの地の族ではない。闖入者であり、異物だ。
ああ、夢だ。僕は、夢を見ている。
――――わしらは海の族。お前は、海から来た子どもだ。
知らない。こんな声は覚えていない。
――――この地で、お前が、わしらを導いてくれ。
やめてください、長老。僕は――――
ゆるゆると意識が覚醒していき、碧流はぼんやりと目を開いた。
慣れない寝床で眠ったせいか、眠りは浅く、疲労は薄れた気もしなかった。その上、夢の内容までしっかりと覚えている。
長老は碧流が物心つく頃にはもう亡くなっていた。もちろん声など覚えていない。なのに、夢の中の碧流は、あの声を長老の声だと認識していた。
たぶん、族を出る前に教えられたからだろう。長老のあの言葉を。
碧流には両親がいない。流族では、子どもは分け隔てなくまとめて育てられるから、困ったことも、淋しかったこともない。それでも、大人たちの見る目が少し違っているように感じられたことはあった。
長ずるにつれ、どうしても大人たちの言葉も耳に入るようになる。
碧流が流族に現れた経緯。預言めいた長老の言葉。周囲の期待と、反発。
海から来た子ども。
でも、誰が何と言おうとも、碧流は普通の人間で。神通力も千里眼も使えない。力が強いわけでも、足が速いわけでもなく、身体は族で一番小さいくらいだ。
だけど、こういう使命を与えられたからには、精一杯やり遂げる。
拾われなければ、海を漂ったまま、乾いて死んでいたのだろうから。
なんの力もなくたって、恩返しくらいはしなければ。