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泰皇国立皇統学院記 〜 一年目 夏 〜  作者: 都月 敬
3 日目
13/17

朝_大通


 通学も三日目ともなれば、嫌でも緊張は解けてくる。

 その上、ここまでの二日間で、大人数生活での精神的疲労は溜め込んでいるし、予習が間違っていなかったという安心感も得られたし、寮の食事は朝から豪華で美味しいし。


「ふわぁ、あぁぁ。。。」


 そりゃ、大きなあくびも出ようというものだ。


「――――ずいぶんと、爽やかな朝だな」


 気を抜ききっていた碧流は、背後から突然差し掛かった大きな影に、思わずびくりと身をすくませた。


「そんなに驚くことはないだろう。油断しすぎだな」


 苦笑混じりで隣に並んできたのは朱真だった。並ぶと言っても、碧流は大きく見上げなければ顔も見えないが。


「おはようございます、朱真さん。朝に会うのは初めてですね」

「今日はたまたまだ。珍しく、早くから鍛錬にでも出ようと思ってな」


 そう言って、手にした果実にかぶりつく。碧流は見たことのないものだったが、薄赤い果肉からは瑞々しい果汁があふれ、漂ってくる甘酸っぱい芳香も、いかにも爽やかな朝に相応しい。


「鍛錬ですか。この間は、もう出ないと言っていたような」

「指導から得られるものがなくとも、興味を引く相手がいるなら話は別だ」

「へぇ〜。朱真さんの興味を引く相手、ですか」


 そう言われれば、碧流にも興味が湧く。あの剛力あたりでは役者不足なのは間違いないが。


「お前も知っているはずだぞ、お前が飛んでいた時にもいたからな。青い髪の女だ」


 青い髪の、女性。

 あの澄んだ声が脳裏に蘇ってくる。


「その人が、あの時、僕に助言をくれた人ですよ」

「そうか。それはますます興味深いな」


 あの人も、受講するのか。そう思えば、碧流の興味もさらに増した。かと言って、また鍛錬を受講するかと言えば、それはまた別の話だったが。

 それをよそに、朱真は食べ終えた果実の種を道端のゴミ箱へと放る。


「昨日は、うちのじゃじゃ馬が世話になったようだな」

「じゃじゃ馬?」

「紅兎 (コウト) と言うが、アイツのことだから名乗りもしていないだろう。紅色の髪に褐色の小娘だ。背格好は碧流に似ているな」


 紅色の髪で褐色の肌、同じくらいの背格好といえば。


「あ〜、あの泥棒の」


 屋台で肉系の串物ばかりを狙う怪盗フードマント。

 南須国出身の学院生であれば、公子の朱真が知っていてもおかしくはない。


「そこは、小声にしてくれると助かるな」


 思わず出てきた物騒な単語に、さすがの朱真も苦笑を浮かべる。


「なんで食堂が無料なのを教えない、とかわけのわからんことで怒鳴られたから、詳しく聞き出してみれば、随分と馬鹿なことをやっていたようだ。黒髪のチビに二回も続けて邪魔されたとも言っていたが」


 思い出したのか、朱真がガシガシと朱色の頭を掻いた。


「それこそ、たまたまです。邪魔はしましたが、お世話したというほどのことは」


 今度は碧流が苦笑する方だった。

 朱真もそれ以上突っ込まず、ただいつになく渋い顔で。


「どうにも落ち着きがなくて、手に負えない。居候で、居心地が良くないのもわかるが」


 珍しく愚痴をこぼす。いや、珍しいと言うほどは知らないが、愚痴を言うタイプには見えない。それからも、心労のほどが察せられた。

 南須公家ともなれば泰陽にも屋敷の一つくらいあるのだろうが、それは特殊な例だ。通常は学生寮に入るところをわざわざ屋敷に居候させているということは、よほど可愛がっているか、逆に目を離せないか。あの紅兎なら、明らかに後者だろう。どこへ預けようと大人しくしていないのは容易に想像がつく。せめて他人様に迷惑をかけないでいてくれれば、少しは安心できるのだろうが。


「ところで、南須国には、紅兎さんのような肌色の方は多いんですか?」


 話のついでに、気になっていたことを訊いてみた。

 しかし朱真はからからと笑って。


「あれは孔 (ク) 族だからだ。山の中に住んでる狩猟民族だよ。南須がいくら南にあるからと言って、あそこまで日焼けはせん」


 孔族。日頃、流族と呼ばれる碧流からすれば、少なからず親近感も湧く。同時に、なかなか尊重されることのない少数部族の者が、どうして学院生に選ばれたのか、という別の疑問も湧いた。だが、それを訊くのはまだ尚早だろう。他国の事情に首を突っ込むほど朱真とも紅兎とも親しくはなっていないし、南須国の事情に明るいとも言えない。


「もし知り合いになったのなら、ついでに友だちにもなってやってくれると助かる。では、な」


 朱真が歩く速度を上げた。そもそも学院まで一緒に行くつもりはないらしい。


「がんばってみます」


 碧流は正直にそう答えた。なろうと思ってなれる相手だとも思えない。

 朱真は去り際、小さく振り返ると。


「ああ、オレには『さん』はいらんぞ。呼び捨てでいい」


 そう言い残して、大股で歩き去った。


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