神(偽)と巫女(偽)
どこが(偽)なのか全く分からないですね。
遠く、暗闇の奥から声が聞こえる。
『聞くが良い』
体全体に響くような、性別の分からない声だ。
『聞くが良い』
上から目線で話しかけられると応えたくなくなるよな。
『聞いた方が良いが、聞かなくても良い』
じゃあ、聞かない。
『わかった』
静寂と共に、再び暗闇。
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「って!!まじ放置かーい!!!!」
思わず叫びながら目が覚めた。
と思ったが目の前は暗闇のままだ。
目を開けている感覚はあるのに何も見えない。
目が覚めた、よな?
『こうすれば起きると予想していた』
またあの、体全体に響くような声だ。
誰だ?
『私は神と呼ばれている』
カミ?神?神様?
『お前の思う神とは違うが神と呼ばれている』
よく分からん。
『お前の思うような全知全能の願いを叶えるような神ではないが、こちらの世界の人類から神と呼称されている。こちらの世界の人類を導くという役目をもつという点ではお前の思う神と同じ役割をもつ』
新興宗教のインチキ神様みたいなもんか?
『こちらの世界には私以外の神はいない』
・・・さっきから連発している『こちらの世界』ってのは、何のことだ。
『こちらの世界に名前は無い。お前の認識の中においても世界に明確な呼称はないように見受けられる』
俺の世界は地球だ。
『それはお前の世界におけるお前が生存していた惑星の呼称であり、世界の呼称ではない』
さっきから人の揚げ足ばかり取りやがって。結局何が言いたいんだ!
『お前と取引がしたい』
取引?
『そうだ。取引だ。承諾しても良い。承諾しなくても良い』
この流れ・・・嫌だといえばまた放置か・・・
『承諾しても良い。承諾しなくても良い』
・・・承諾した。
『良し。以降の対応は我が端末が実施する』
自称『神』はその声を最後に沈黙を守り、俺はそのまま再び暗闇に呑まれた。
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目が覚めたが、知らない天井は見えなかった。
俺はうつ伏せで寝るタイプだからな。
体が重い。
二度寝をキメようと落ちてくる目蓋に対抗するように頭を振る。
荒い生地のシーツが俺の鼻を擦る。
土曜日の午後に昼寝した後のようにボンヤリしたままでいたら、予想外に近い距離から声が降ってきた。
「取引をしまショウ」
うつ伏せのまま肩ごしに振り返って見れば、白いワンピースみたいな服を着たスキンヘッドの幼女が俺の背中にまたがっているのが見える。
甲高い声と抑揚のない話し方のせいで、肉声なのに某音楽ソフトの電子合成音のように耳に響く。
「取引をしまショウ」
先程と一言一句変わらぬ言葉を、変わらぬ抑揚、変わらぬ声音でスキンヘッド幼女が発する。
俺は腕立て伏せの要領で勢いよく上半身を起こす。
スキンヘッド幼女は簡単に俺の背中から床へと転げ落ちた。
結構な勢いだったはずだが幼女はうめき声一つあげなかった。
「取引をしまショウ」
床に転がったままのスキンヘッド幼女が、やはり同じ声音と抑揚で呼びかけてくる。
そんな幼女を見つめる俺の意識はハッキリしていた。
この手の展開でよくあるような記憶の混濁もない。
最後にヤマムラへ向けて叫んだ言葉も覚えている。
・・・ヤバイ・・・思い出したら恥ずかしくなってきた・・・。
はあ、でもスッキリしているのも確かだ。
「取引をしまショウ」
四度目。
こいつはきっと、あの自称『神』が最後に言ってた端末ってやつなんだろう。
この、こちらが反応しない限り同じ反応を繰り返すところは、確かに端末っぽい。
こいつにあるのはインプットに対してアウトプットする機能だけなんだろう。
「取引の内容を言え」
「コチラの要求は、"アナタが『勇者』として『魔王』を討伐する"デス。コチラがアナタに支払う対価は、"アナタの元の世界への帰還"デス」
倒れたままスキンヘッド幼女が言う。
『勇者』に『魔王』と来たか。
定番だな。
現代の男子高校生のたしなみとしてライトノベルもRPGも一通り経験済みだ。
定番と言えば、異世界トリップした主人公はだいたいこう思うんだよな。
これってドッキリか何かだろ?って。
でも俺はそういうことは思わなかった。
なぜかっていうと、俺がいるこの場所が、目の前に広がる景色がそう思わせなかったからだ。
遥かな高み、足元に雲を見る、空に浮かぶ四畳半ほどの広さのパネル、その上に無造作に敷かれたシーツの上。
そんなとこに俺はいる。
冷たい風が頬を撫でるし、上を見上げれば濃紺の宇宙の色が見える。
こりゃ仰向けで寝てても知らない天井は見えなかったな。
こんなドッキリ、ねえだろ。
「では、チュートリアルをハジメます」
スキンヘッド少女がそう言った途端に感じる浮遊感。
俺は寒気のするほど広大な空間へと放り出された。
次回は説明回の予感