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勇者チーレム(偽)  作者: 花蔵
4/7

異世界トリップ

BL表現あります

雷門(カミナリモン)ゲンタはごくごく普通の家庭に生まれ、ごくごく普通の人生を過ごした、ごくごく普通の男子二年生だ。

サラリーマンの父に専業主婦の母、家を出て独り暮らしをしている大学生の姉がいる。


学校の成績は中の上。

好きな科目は国語と生物。

170センチちょいで止まった身長がもう少し伸びて欲しいと思ってる。

朝、寝癖を直す時間が勿体ないので、髪は短く刈り込んでいる。

友達に誘われてバスケット部に所属してるが、そんなに強い部でもないし真面目に活動はしていない。

ただ多少は体を鍛えておきたいと思っているので、他の部員が嫌いな基礎トレーニングの方が好きだったりする。

それに筋トレは成果が目に見えて好ましい。

どうせやるなら報われたいと思っている。


雷門ゲンタはそんなごくごく普通の人間だ。


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3月も半ばを過ぎれば冬も終わり。

気温も徐々に上がってきて、ニュースでは桜の開花予想が話題になってきた。

この短い春休みが終わって4月になれば、ゲンタは高校三年生になる。

自室の窓から外を眺めていたら、高校二年生の3月は今この瞬間のみだという実感が唐突に襲ってきた。

なんだか時間がとても勿体ないような気持ちになり、ゲンタはふらりと出掛けることにした。


何の予定もない日に、何の目的も持たずにフラフラするのがゲンタは好きだった。

このご時世、ネットだSNSだと常に誰かと繋がっていなければならないことが、たまに少し嫌になることがある。

だから自分が行きたい時に、行きたい場所へ、行きたいように、行くことができる、または行かないことができるのはとても贅沢なことだとゲンタは思っている。


とりあえずいつもとは違う道を使って学校まで歩いてみる。

ブロック塀の上で野良猫が惰眠を貪っているのが見える。

民家の間に隠れるように存在する路地を、気の向くまま進んでいた時だった。

両側を壁に挟まれた薄暗くて狭い空間の向こう、路地の出口を二人の男女が楽しげに横切るのが見えた。

ゲンタは思わず息を潜めた。

どちらもとてもよく見知った顔だったからだ。

二人組が通り過ぎた後、ゲンタは路地から顔だけを覗かせて遠ざかる二人の背中を見つめた。


(ヤマムラとアキバ、相変わらず仲いいんだな・・・)


野球部のヤマムラは運動部繋がりで仲良くなったクラスメイトだ。

四角い顔の素朴な雰囲気の大柄な男だ。

控えめな性格だが気遣いのできるやつで、一緒にいると居心地がいい。


アキバも同じくゲンタのクラスメイトで、バレー部所属の活発な少女だ。

ゲンタとは、入学当初に近くの席に座ったことがきっかけで仲良くなった。

いつも朗らかに笑っていて、クラスの中のムードメーカー。

でも、本当は結構寂しがり屋だってことをゲンタは知っていた。


二人はゲンタを介して知り合い、ほどなくして付き合うようになった。

活発なアキバとおおらかな性格のヤマムラは相性が良かった。

アキバがヤマムラを振り回すような関係だが、ヤマムラはそんなアキバが可愛いと感じるらしい。


そんな二人の楽しげな後ろ姿を見つめていると、ゲンタの胸に唐突に激しい焦燥感が沸いてきた。

その強烈な自分の感情にゲンタは戸惑う。

路地の陰に引っ込んで胸を押さえる。


(なんであいつの隣に俺がいないんだ!)

(あいつのこと、俺の方がよく知ってる!)

(その笑顔を俺に向けて欲しい!)

(その腕に触れていいのは俺だけだ!)

(そいつは、俺のものだ!)


油断していた。

もう忘れたはずだった。

過去のことだと割り切ったと思っていた。


でも違う。

見ないようにしてただけだ。

醜い自分に気付きたくなかっただけだ。

あいつとの関係を崩したくなかった臆病な自分と向き合いたくなかった。

春の陽気と予想外の遭遇が、閉じていた心の蓋を緩めてしまったようだった。


薄暗い空間のなかで空を見上げる。

長方形に切り取られた透明な青空が目に痛い。

太陽の光の下にみじめな自分を晒したくなくて、空を見つめたままゲンタはそこから動けなかった。

だからゲンタは気付けなかった。


その足元から黒い靄と白い靄が絡み合うように湧き出していたことに。

二つの靄がゲンタの全身を取り囲むように渦を巻いていたことに。

気付いた時には周りの景色も見えないくらい、自身がその靄の中に閉じ込められていたことに。


目の前が真っ暗になった瞬間、ゲンタの脳裏にはあの後ろ姿が浮かんでいた。

広い背中、シャツから覗く日焼けした首筋、アキバに握られた太い手首とその先に続くゴツゴツした手のひら。

いつも穏やかに笑っているあの四角い顔。


(やっぱ、言っときゃ良かったな・・・好きだって・・・)


後悔が胸の中で渦を巻く。

意識を失う最後の瞬間、ゲンタは叫んだつもりだったが、それが声になっていたのかは分からなかった。


「ずっと好きだったんだ!!ヤマムラ!!!!」


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雷門ゲンタはごくごく普通の家庭に生まれ、ごくごく普通の人生を過ごした、ごくごく普通の男子二年生だ。

サラリーマンの父に専業主婦の母、家を出て独り暮らしをしている大学生の姉がいる。


雷門ゲンタはそんなごくごく普通の人間で、ごくごく普通の男性同性愛者だった。


週末に続きを書き上げられたら投稿予定

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