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灼熱の犬飼さん ~おおかみむすめの高校生活~(龍焔の機械神)  作者: いちにちごう
変形少女(仮)~東京湾物語3・龍焔の機械神~
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第 章(下)

 負の魔法生物の生き残りとされる敵は、自動人形オートマータの活躍により敗れ去った。


 しかしそれは負の魔法生物アインツが用意した力を取り込みつつも、それを逆用しなければ勝てなかった――そうとも言える。アインツはそれだけ強大な敵対者だった。


 しかしそれを達成するには、機械神から落ちてきたスズが偶然にも人の心を宿して相手に立ち向かうという、あまりにも不安定すぎる因果が必要になる。


 そしてそれを送り込んだのは、この国・この世界では災害と呼ばれる脅威、機械神。


 機械神は、こうなる結果を分かっていて、彼女を送り込んできたのだろうか。


 機械神とは、因果すら捻じ曲げる存在なのだろうか。


 神とは確かに創造主によって作り出されたもの。しかし作った創造主すら越えてしまったものが神と呼ばれるもの。


 機械仕掛けの神とされる、大災害と同義に扱われる存在。


 機械神とは、一体何なのだろうか。




 ―― ◇ ◇ ◇ ――




「きゃあっ」


 何らかの用事を済ませに行くのだろう生徒の一人が、寮の玄関から出てくると、その直後に不自然な風が地面から空に昇るように巻き起こり、その導線にあった彼女のスカートは見事に翻った。


「え、予報ではこんなに風が強いはずじゃなかった、の……に――」


 一応ここは海に近い場所なので多くの人間は波浪注意報にも気をつけて生活しているのだが、玄関先の花壇に突き刺さるソレを見た瞬間に、この風が自然の猛威ではないのに気付いた。


「もうゼファーさんったら!」


 乱れたスカートを直しながら、犯人であるド変態カカシを恨みがましい目で見る。


「いやー、今日も風が強いですなぁー」


 白々しくとぼける大魔導師級風使い。


「ゼファーさんが起こしてるんでしょ!」

「自然に吹いた風かもしれませぬぞ」

「もぅ!」


 実はゼファーにそう言われてしまうと、一般生徒では証拠を見つける方法が無い(通常の人間には魔力というものが無いので)。


 そのため「本当にゼファーが起こしているのか?」というのは、普通には分からない。


 しかし女子生徒が通るたびに、偶然に突風が起こり続けるのはさすがにありえないので、ゼファーの処遇は「いつの日か薪にする」という意見で、寮生全員の合意を得ている。


「今度こそ本当にみんなでゼファーさんをキャンプファイヤーの材料に……って、なんでスズちゃんが隣にいるのよ!?」


 そのド変態カカシの隣りに、何故か自動人形の姿がある。


「いえ、お構いなく」


 自分がここにいるのは特に不自然ではないですよ、といった風にスズが答える。


 普段は寮の下駄箱の隣に置いてある箱(通称スズの箱)を、ゼファーの刺さる花壇の隣りにおいて、その持ち主である本人がそこへ腰掛けていた。


「そこにいたんなら、ゼファーさんが風起こすのを止めてよ!」

「いえ、自然に吹いた風かもしれませんので」

「へ?」


 意外な返答にその女生徒は変な声が出てしまった。


 高性能感覚器センサー満載のスズが言うことなのだから、間違いは無いのかも知れない。


「うーん、スズちゃんが言うんならそうなのかな……」


 女生徒は納得しかねる顔のまま、寮の門から外に出て行った。


「あの方のサイズは89センチですね」

「あの方の身長からすると少し出っ張りすぎかもしれませぬな。だが、それもまた良し」


 その女生徒が行ってしまった後、スズとゼファーがこそこそとなにやら話し始めた。


「しかしスズ殿は凄いですな、見ただけでサイズまで分かるとは。さしもの我輩も無理でございます」

「目視情報による測量です。寮の玄関の寸法は分かっていますので、あとは目標との距離を計測すればほぼ分かります」

「さすがですな。そうやって基本に与えられた機能だけでは満足せず、自分に持たされたもので出来る新機能を探求するのも、また偉い」

「しかし、その形状に秘められた評価などは、長年積み重ねた審美眼によるものですので、その経験値が不足している私では、その一番重要な部分がゼファーさんには敵いません」

「何ごとも勉強ですぞ」

「はい」

「なにロクでもないこと話しあっとんじゃこのド変態コンビーっ!」


 突然玄関口から体操着姿の女の子が一人飛び出してくると、右手に持った大振りな釘抜きを振り回し、いきなりゼファーとスズの頭をぶん殴った。ゼファーの場合は布と藁なのでボフンですむが、スズの場合は鋼鉄製なのでヒットした瞬間に金属同士がぶつかる派手な音と共に、大釘抜マジカルバトンを掴んだ手が思いっきり痺れた。


「いたーっ!?」


 殴ったほうの手をぶんぶん振りながら体操着姿の生徒――委員長がお約束のように悲鳴を上げる。


「我輩も痛いですぞ娘殿!」

「通常状態の委員長さんの戦闘力であれば頭部に打撃を受けても傷は付かないので私は構わないのですが、多分そのうち委員長さんの手首の方が捻挫しますよ」


 衝撃で少し斜めになってしまった首間接から上を手で元に戻しながらスズが言う。


「うるさいわね! それでも殴らなくちゃならないのよ! なにキサマら聞いてるこっちが恥ずかしくなってくるようなケツトークしとんじゃ!」


 しかも二人とも人間ではないという、ある意味天井知らずな恐ろしい状況である。


「委員長さんは本日は股関節部分がブルマ装備なのですね」


 委員長は何故か寮内で体操着、しかも下半身装備がハーフパンツではなくブルマであるのをスズが突っ込んだ。


「……ゼファーがあんなこと言うからちゃんとブルマ穿いてきてやったわよ! ちゃんとぴっちりのハミケツ上等仕様だからね! 感謝しなさい!」


 委員長はそう言いながら、既に少しはみ出してしまっている尻の肉をしまうために食い込みを直した。


 最後の決戦時、ゼファーは魔封じの首飾りアミュレットをかけられていきなり戦闘不能となっていたのだが、それは委員長も同じことなので、スズも含めて全員が無事に帰ってこれた約束として、委員長はこの格好になっていたのだった。


「こんなに良いおヒップを一日観賞出来るとは、試しに言ってみるものですな」


 そう、約束では委員長はこの格好で一日ゼファーの前をうろうろすることになっているのである。委員長は今から頭が痛い。


「委員長さんの臀部は部屋の中でいつも見ていますが、やはり良い形をしていますね」

「改めてそんな風に言われると超恥ずかしい!」

「我輩も自慢のおヒップでございます」

「私のケツがいつからキサマのものになった!」

「多分ゼファーさんに幼少時からずっと見られていたので、自然と臀部が鍛えられていたのでは」

「それは私が一番言われたくなかったことだーっ!?」


 スズの指摘に、委員長が心から絶叫する。


 人間とは誰かに顔を見続けられていると、形が微妙に変わってくる生き物である。人前に出るのが基本の仕事である俳優や役者が「顔つきが目に見えて変わった」と言われるのはそのような理由。


 だからそれが顔以外の部分、例えば尻をずっと見られていたのだとしたら、自然と引き締まった良い形になっていてもおかしくない。そして委員長は小さい頃から、正体は知らなかったとは言え、ずっと見られていた訳である、このド変態カカシに。


「というかゼファーはともかくとして、なんでスズまで隣りで女の子のケツ見てんのよ」


 喋るカカシの隣りで自動人形が一緒に女子たちの尻を観賞しているという、何故こんな異次元空間になっているのか、そもそもの原因を委員長は問うた。


「寮生の皆さんの形の言い臀部を見定める審美眼を鍛えるのも学習ですので、まずはそれをゼファーさんの下で学ぼうかと」

「何ごとも勉強ですぞ」

「はい、師匠」


 どうやら随分前に言われたゼファーからのロクでもない教えを、スズは実践しているらしい。


 しかもこのド変態カカシを師匠などと呼んでいる。委員長は違う意味で頭が痛くなってきた。


「とりあえず他のたちが迷惑してるでしょ!」

「自然に吹いた風かもしれませぬぞ」

「私にそれが効くか! こちとら魔法少女だぞ!」


 といいつつも、昨今の少女たちは制服も私服もスカートが短いので、不自然な風が吹いても、捲れるのは最初から仕方ないと思っているのか、気にせずそのまま行ってしまう女子生徒も多い。そのような御時勢なので、委員長と同じようにオーバーパンツを常着している女の子も増えた。


「いえ、自然に吹いた風かもしれませんので」


 そして弟子がフォローを付け加える。


「……スズはもう一度首だけになって、何も出来ない状態で床に転がされるとか、そんな酷いお仕置きをしてあげた方が良いみたいね、教育上」


 そのスズの態度を見て委員長は、危険な方向に片脚――既に両脚かもしれない――を、突っ込んでいるこの自動人形の矯正には、それくらいの猟奇的仕置きが必要なのではないのかと真剣に思ってきた。


「でもそれですと、視線が必然的に下に下がりますので皆さんのスカートの中を覗き放題ですね。臀部がいっぱい見れます」

「ぎゃふん!」

「みなさんどうされました?」


 自動人形らしい返しを食らって悶絶する委員長の後ろに、長身の女生徒が一人やって来た。


「ん? あ、村雨さん、もう帰るの?」


 通学鞄に艦颶槌を入れた長袋という見慣れた格好に、少し大きめのバッグが追加されている。寮で短期間暮らすために用意した彼女の私物を入れたものだ。


「ええ、お世話になりました」


 スズの護衛役を終えた龍雅は、本来の任務に戻るべく第参東京海堡に帰るのだ。


「リュウガさんがいなくなると寂しくなりますね」


 スズが箱から立ち上がって龍雅の前に行きながら言う。脅威はもう去ったので、ずっと護衛してもらうわけにもいかない。さすがにこれは養母(雪火)の力でもどうにもならない。


「でもスズの自宅は第参東京海堡(同じ場所)にありますし、わたしたちある意味ご近所さんですよ」

「そういえば、そうでしたね」


 そう指摘されて自分には帰る場所がもう一つあるのをスズは思い出した。それも龍雅が戻る場所と同じ場所にあるものを。


「え? スズってば家持ってんの? しかも第参東京海堡って!?」

「説明してませんでしたか」

「初耳よ!」


 スズは雪火から所有権を渡されている第参東京海堡にある商店街内の自宅のことを説明した。


「えーすごい! じゃあ今度みんなでスズんちまで遊びに行こうよ!」

「実は私も自宅に行ったことがまだ無いのですが」

「あははは、じゃあそれも含めて今度みんなで行こ! 村雨さんもね」

「了解です。……ああ、そうでした、これを委員長に渡しておくのを忘れてました」


 龍雅は急に何かを思い出したように懐に手を入れると、一通の封書を出した。


「どうぞ」

「はい?」


 龍雅はそれを手渡す。「なんだこりゃ?」と言う感じで、委員長が渡された封書を見回すと、裏に封蝋がされていた。何か重要な物が入っている様子。


「……なんぞ?」

「水上保安庁配備の火炎放射戦車の一日貸与券です」

「マジで!?」

「マジです」


 委員長はダメ元で――、いや、殆ど冗談に近いお願いだったのだが、先方では正式に受理されてしまった様子。


「事が終わった後に今回のことをムムさんに報告していたんですけど、わたしが委員長から火炎放射戦車のことを頼まれたことを言うと『じゃあ私が本庁の方に行って頼んできてあげるよ』と言いまして、それがこれです」

「……ムムさんって何者なの?」

「水上保安庁戦車小隊一番隊隊長ですよ」

「……実はムムさんが水保の長官ってことはないよね」

「わたしはそんなところまで訊いたことが無いので分かりませんが、全く無い……とは、言えませんよね」

「……だよね」


 なんだか怖い考えになってきてしまったので、それ以上の詮索は止めることにする。


「それとこの券なんですけど、スズのお母さん(疾風弾雪火さん)の直筆サインも入ってますので、問答無用でどこにでも持って来てくれますよ」


 この貸与券を見て水上保安庁長官(今のところ誰だか分からないが)が難色を示したとしても、出資元の総帥が直々に戦車を運べる大型輸送機を用意してくれるだろう。雪火のサインとはそれ程のものである。


「で、どうやって使うのこれ?」

「水上保安庁の人間であれば誰でも良いので、これを見せればすぐに用意してくれます」

「村雨さんでも良いの?」

「そうですよ。今ここで使うと仮定すると、わたしがムムさんの方に連絡を入れてムムさんの方から本庁の方に出撃要請が行きますから、最短で一時間くらいでやってくると思います」


 委員長はそれを聞くと、ギラリと目を輝かせて風使いのカカシの方を見た。


「フフフ、ゼファー、あんたの天下も終わりのようね!」

「何を言いまする娘殿! 文明の利器との風炎対決なぞ、我輩の方も望むところですぞ! 風使いのゼファーの名に懸けてその火炎、吹き消し去って御覧に見せますぞ!」

「まぁ今の内に精々減らず口叩いておきなさい」


 委員長はそう言いながら、蝋で封がなされた封書を、折らないように大事に握った。これをもし使うとしたら、一体どういう局面なのだろうと考えながら。


「ではわたしはこれにて」


 龍雅はそう言って荷物を抱えなおすと、寮の門へと歩いて行った。


「うん、また学校でね」


 委員長もさよならは言わない。また会えるのだ。別れの言葉は必要ない。後ろでゼファーも「お元気でですぞー」と言っている。


 スズは門のところまで着いていくと、そこで龍雅を見送った。


 スズが「お元気で」と伝え、龍雅も「スズも元気で」と返した。


 そうして一人の友達が離れて行った。


「――」


 学校に置いてある通学用戦車に戻るため、寮の前の道を歩いていく龍雅の背中を、スズは静かに見つめていた。


 少し寂しい。スズの機械の体も、今はその寂しさを感じている。そして受け止めている。


 でもだいじょうぶ。


 どこにいても繋がっている。それが友達というものだから。


 そしてこれからも新しい友達はどんどん増えていくに違いない。


 新しい未来は、まだ始まったばかり。


 私はみんなに降りかかろうとしていた災いを打ち滅ぼすために、機械神から使わされた使者だったのかも知れない、使い捨ての。


 でもそうして使用済みになって廃棄されたとしても、まだ命が残っていたら。


「もう役目は果たしたのだから、そこから先の人生は自分の思うとおりに生きてみても、良いですよね」


 スズは小さくそう言うと、二人の下へと戻った。




 ――Fin――


 ――and――Now you will also go to the new story!――

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