終章
「うぁあぁぁああ!!」
かつてスズであった自動人形の頭部を抱えた委員長――堵炉椎が、泣き叫んでいた。
「スズ! 起きてよスズ!」
何度も語りかけるが、光を失った瞳に輝きが戻る気配は無い。
「あんた自動人形なんでしょ!? 首だけになったって生きられるんじゃないの!? スズ!!」
「間に合わな……かった?」
スズの頭部を抱えて泣き叫ぶ堵炉椎の背後から、愕然とする誰かの声が聞こえた。振り向くとそこにはスーツ姿の女性。スズの養母である疾風弾雪火がそこにいた。
そして彼女の背後にはスズと同じ形をした自動人形が数体付き従っていた。しかし堵炉椎にはそれがスズではないのはすぐに分かった。あまりにも動きがぎこちない。
6体もの水の魔物に似て非なる負の魔法生物かもしれない何かが現れたのは、もちろん雪火も報告を受けていた。そしてそれだけの数が現れたら、水上保安庁と陸上保安庁の駆逐隊を総動員しても手一杯であるのは分かっていた。
だからこの状況でスズが襲われたらどうなるか。そしてこれはそもそもがスズを奪取するための陽動ではないのか。雪火もそう考え至っていた。
村雨龍雅というカトルデキム隊長から推薦された強力な力を持つ護衛は着けていたが、それでも胸騒ぎは晴れなかった。彼女でも防ぎきれない敵が現れたら、応援を呼ぶのは絶望的。
だから雪火はなんとか稼動状態までこぎつけたスズの複製品たちを連れて、急いでやってきた。
機械使徒の中で働く作業能力はまだまだだが、単純な戦闘力に関してはスズから得られた戦闘情報によって、簡単には壊されない作業機械を超えたレベルまでは仕上がっていたからだ。
しかし、後一歩のところで間に合わなかった。
だが、例え間に合っていたとしても、スズはみんなを守るために自壊を覚悟で戦って行ったのだろう。全ては終わってしまったことだ。
「……」
雪火はスズの頭部を抱いたままの堵炉椎の隣にしゃがんだ。
「雪火……さん?」
雪火とは初対面の堵炉椎がそう尋ねると、雪火は無言で頷いた。
「スズが……スズが……」
堵炉椎がそう言いながら差し出す養女の頭部を、雪火も一緒に抱いた。
「スズ……」
変わり果てた娘の名を、雪火が涙を零しながら呼ぶ。
「……」
何とか動けるようになった龍雅は、重くだるい体を引き摺って倒れたままのゼファーの所に行くと、まだ効力が残っていたアミュレットの鎖を掴み、無言のまま引き千切った。
聖遺物級の魔法道具と言う強化アイテムを素手で破壊するというのは、普通の人間には不可能な行為であるはずだが、ゼファーは何も言わなかった。ただ一言「かたじけない」と告げただけだった。
魔力が戻ってきたゼファーは風を起こして元の姿勢に戻ると、静かに立ち尽くす龍雅の隣りに並んだ。
「ゼファーさんは、涙を流すことはできますか?」
頭部だけになったスズを抱いて泣き続ける二人を静かに見守りながら、彼女はそんなことを訊いた。
「さすがにそこまでの作りは、この体には施されておりませんな。リュウガ殿は?」
「遠い過去に妹と離れ離れになってから、泣くという行為ができなくなりました」
「そうでしたか」
それから二人はまた黙った。
涙を流せないもの同士、せめて自分の代わりに泣いてくれている者たちを、泣き止むまで最後まで見ていようと。
「スズさん……いえ、スズ、これで良かったんですか?」
龍雅がスズの敬称を外して呼んだ。それが、彼女に対する友情の証だと思ったから。
龍雅は最後に、自動人形の少女が涙をひとしずく残していったのを、知っていたのだろうか。
人の心を持って消えていった彼女。
「スズ……」
泣くことができない者たちの前で、女たちの啼泣は続いていた。何時果てるとも無く。
「目を覚ましてよスズー!!!!!」
この日、疾風弾重工の議事録に、先日入手に成功した機械神の付属物が破壊されたことが記録される。
それから得られた解析技術は、まだ未習熟なれども、複製品の量産は決定済みであるので、その後の技術推移により足りない部分は補えるであろうと予測される。
オリジナルが失われたのは多大なる損失に違いないが、計画進行上の大きな妨げにはならないだろう。
我々重工が目指すのは機械使徒の起動であるのだから、その為の部品が一つ失われたに過ぎない。
議事録にはそう記載され、本日限りを持って、総帥によってスズと名付けられた自動人形の観察記録は終了する。
しかして、周りの者に様々なものを残していった機械の少女の想いに関しては、どこにも記載されていない。
――― 終 ―err-
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