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灼熱の犬飼さん ~おおかみむすめの高校生活~(龍焔の機械神)  作者: いちにちごう
変形少女(仮)~東京湾物語3・龍焔の機械神~
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四章07

 と言うわけでゼファーも加わった四人(二人と二体の内訳だが)は、決戦場――疾風高校の校庭までやって来た。


 内陸で広い場所といえば、やはりここくらいしか思いつかないので、ある意味一番の選択肢である。


 今はその校庭に煌々と灯りが灯っていた。


 常駐している警備員に事情を説明して、夜間用のスポットライトを全部点けてもらった。もちろん警備員は危なくなったら退避して下さいとは告げてある。ここから先に起こることは普通の人間では間に合わない領域。そして校庭の中央に佇むのは普通の人間を超えた四人。


「ちゃんと来るかな」

「ここまでお膳立てしているのですぞ、ちゃんと来ますとも」

「来ないでくれたほうがありがいたいのですけど、そうも行きませんよね」


 委員長とゼファーと龍雅の三人は、お互い背中を向けた状態で三方を見張っていた。委員長は既に変身を終えていて魔法少女の姿となっている。龍雅もいつでも艦颶槌かぐづちを抜き放てるように油断を怠らない。ゼファーは相変わらずだが、警戒の目を周囲に放っているのは確かだ。


「――」


 そしてその中心にはスズの姿。


 今さら自分も前線に出て戦いますといっても止められるだけだと思考したので、スズは自分の役目――守られる役に徹している。いざとなれば自分も矢面に出て戦闘参加するつもりだが、今はその時ではない。


 そうやってジリジリと時間だけが過ぎて言った時


『ココマデ丁重ナオ出迎エヲシテイタダイテ、来ナイ訳ニモイキマスマイ』


 突然校庭に、四人以外の誰かの声が響く。


「!?」


 全員が声のした方に振り向いた。


 5メートル程の距離を離れた場所に、その者は居た。


 全く気配を感じることが出来なかった。いきなりそこに湯気が吹き上がるようにいきなり現れた。


 フード付きマントで全身を覆った人物がそこに居た。後ろには烏賊の姿をした水の魔物に似て非なる負の魔法生物かもしれない何か――烏賊型怪生物が1体、着き従っている。多分これと同型の物が、今町中で暴れまわっているのだろう。一日1体ずつ、一週間で7体揃えたのは本当らしい。それだけでも凄まじい力の片鱗を見せ付けられた。


「そっちの方こそ、もう逃げられないわよ」


 しかしそれに臆することなく(少し膝が震えていたが)委員長が叫んで返した。

 それに合わせてまとまって立っていた四人はさっと広がると、委員長を中心にして右に龍雅、左にゼファーが並び、委員長が背後に守るようにスズの姿を隠す。敵出現の際に予めフォーメーションを打ち合わせしていたのだろう。


『逃ゲル? 何ヲ莫迦ナコトヲ』


 相手はそう言いながら、ゆったりとした動きでフードを脱ぐとマントを解いた。


「そちらこそ自動人形を置いて逃げるのなら、今の内だよ」


 マントを脱いだ瞬間、くぐもった声がクリアに聞こえるようになった。そしてその瞬間、魔力を溜め込んでいるゼファーには、強烈な嫌悪感が見舞われた。


 今までマントに遮られていた魔力が一気に放出され、それに混じる意識――悪意が、一気に叩き付けられたからだ。委員長も魔術の使い手としてはまだ未熟だが、それでもビリビリとした何かは感じる。


「我が名はアインツ、お見知りおきを」


 ふてぶてしい態度のまま、彼が名乗る。名前と共に正体を現した彼の一番の特徴は、やはりその頭部だろう。


 左右のこめかみの辺りから、山羊を思わせる太い角が曲がりながら前に突き出している。綺麗な銀髪に、病的なまでに白い顔。


 首から下は漆黒の全身を覆うボディスーツのように見えるが、血管や筋肉組織のようなものが表層に見えるので、それが素肌のようにも見える。背中に羽でも生えていれば悪魔と形容するのが相応しいと思うが、残念ながらそのようなものは無い。


 だがしかし、これが人間ではないのは確かだ。


「……あんたが、負の魔法生物……アインツ」


 27年前に母とゼファーが何とか殲滅させた筈なのに、まだ一体残っていた。先代が残してしまっていた者の名を、委員長が思わず口にする。


「二代目よ、しかしてこの名もこの場に居る御三方はすぐに退場されるわけですから、あまり意味の無い物ではあります。ですが、冥土への土産物としてお納め下さい」


 そしてアインツはただの名乗りを最高の贈呈物だと言う。しかしそれだけの異常な雰囲気が醸し出されているのは分かる。スズも感覚器センサーに、好ましくないノイズの反応が出ているのは感知した。


「よもや再び、負の魔法生物と対峙する時が来るとは思いませんでしたぞ」

「ゼファー卿におかれましては、我が同胞が随分と世話になりましたな」

「ゼファー、卿?」


 アインツが発した言葉を、委員長が思わず口にしながらゼファーの様子を伺う。相変わらず適当な造形の作り物の顔であるが、何かいつもと雰囲気が違うのは委員長も感じた。


「何故あなたのような至高の風使いが、いまだに魔法少女程度のしもべをしているのか解せませぬが」

「それは我輩の勝手ですぞ」

「まぁよろしいです。世界に轟きし風使いゼファーの名も、今日で終わりですし」


 アインツはそう言いながら一歩後ろに下がった。


「さて、無駄にお喋りで時間を過ごすのは本意ではありませんので、回収作業を始めますか」


 それと同時に烏賊型怪生物が前へと出てくる。それを見たスズの前に並ぶ三人がザッと音がしそうな勢いで構えを取った。


「やっぱり烏賊型怪生物あれが一番手で出てくるのか」


 真ん中の委員長がこれから起こる状況を考える。


「あれを倒さなきゃ親玉に近づけないってことなのね」


「自分が仕掛けるための防御壁ガードという意味もあるのではないですかな」


 ゼファーが相手が考えそうな戦略を判断する。三人が怪生物と戦っている隙にスズに何かをしようとする。それは確かに考えられる。


「よし、私とゼファーで左右からかかって撹乱しつつ攻撃する」


 ゼファーがそれを聞いて少し体を傾げる。心得ましたという意味だ。


「村雨さんはその間はスズをガードしながら、アインツと怪生物の動きを窺っていて。アインツが何かやろうとしたらスズを守って。そして怪生物に隙ができたら一撃をお見舞いして」

「了解です」


 艦颶槌を鞘から抜き放ち遠くに投げ捨てながら龍雅が答える。剥き出しになった対艦兵装を両手で正眼に構える。


「それでダメージを与えたら、そのまま一気に三人がかりで倒して次はアインツに向かう」

「そんなに上手くいきますかな」

「いくんじゃなくていかせるのよ!」

「はっはっは、娘殿も先代に似てきましたな」

「うるさいわね! 行くわよ!」

「承知!」


 委員長とゼファーが地面を跳ね、敵怪生物へと跳びかかった。残された龍雅はスズの前に移動してガードに徹する。


「はぁ!」


 委員長の大釘抜マジカルバトンが唸り、敵怪生物の右側から攻撃を与えていく。しかし相手も10本ある触手の半分を使い、巧みに防御する。


 ゼファーも反対側から風塊を何十発と放つが、これも残りの5本でかわされていく。


 さすが負の魔法生物であるアインツが自ら出陣の供として連れて来ただけはある、強力な相手だ。これと全く同じ物が町中に放たれ、それと水保と陸保が戦っているのだとしたら、かなり面倒な相手になる。やはり応援は期待できない。


「……」


 何十発と連撃を食らわせる委員長が一瞬だけゼファーの方を見た。「風ちょうだい、何でも良いから!」委員長の目がそう語っていたのをゼファーも見逃さない。風塊の連射の合間に、ゼファーが地面に叩きつけるように風を撃った。スズはその時、自分の中の地磁気感覚器センサーが狂うのを感じた。


 衝撃で魔法少女のコスチュームのフレアスカートが翻り、それを引っ掛かりにした委員長はまるで階段を上るかのように風の上に上がると、風船に針を差したように一気に暴発するよう吹き上がった。


「――!」


 その勢いで委員長の体はくるくると舞い上がったが、突然相手の片方が視界から消えた敵怪生物はさすがに混乱した。委員長の居なくなった場所に、5本の触手が虚しく空を打つ。


 ゼファーの風に乗って体を舞わせることには慣れている委員長は、そのまま体を捻って姿勢制御すると、落下しながら両手持ちにした大釘抜マジカルバトンを振るった。


「やー!」


 それが見事に触手の一本を叩き落した。もがれた触手がゴトンと地面に落ち、ひび割れて砕ける。敵怪生物はそのダメージで一瞬たたらを踏んだ。今が好機!


「いま!」


 着地した委員長はそのままバックステップを行い間合いを離す。ゼファーも今がチャンスと少し離れる。それと同時に、正眼で構えていた艦颶槌を右顔前に刃を構える左受け流しの構えにした龍雅が突っ込んだ。


 しかし相手も黒幕アインツが直接連れてきただけあって、ただでは終わらなかった。突然口(漏斗)から白い墨のようなものを吐き出した。それは蛸型怪生物がスズと龍雅に見舞った速乾性ゲル状物質に酷似している。


「村雨さん!?」


 自分たちとの戦いでも出さなかった奥の手の披露に委員長は慌てる。委員長もゼファーも、蛸型怪生物とは対戦していないので、蛸と烏賊が等しく行う防御攻撃の存在に気付かなかった。生物的に共通するなら怪生物となっても共通する攻撃はあるはずなのに。


「……」


 しかし龍雅は臆することなくその中へと飛び込む。そして艦颶槌の刀身を大きく左から上方へと旋回させる。大重量物を振り回した際に起こる剣圧により白い墨はいくらか切り払われたが、それでも大部分は龍雅の体に付着した。しかしそれをものともしないで更に突き進む。自分の顔と剣を振り下ろす導線にかからなければ構わないと言う壮烈な状態のまま大上段へ刃を持ち上げ、旋回の勢いのまま右斜めから斬り降ろす。


 そのふねを斬りし剣、振り下ろすだけで颶風ぐふう巻き起こり、既にそれは剣を越えた槌としての破砕。


「は!」


 裂帛の気合の元に振り下ろされたそれは、敵怪生物の肩口に当たり、そのまま右わき腹へと一刀の下に切り裂いた。


「!!」


 そのあまりの威力に委員長は目を剥いた。ゼファーも一驚いっきょうしているのが分かる。


 ここで敵の隙を突いた龍雅がダメージを与えた後に、三人がかりで一気に倒そうと思ったら、その一撃で相手は倒れてしまった。斜めに両断された敵怪生物の上半身が落ちて、残った下半身も後ろに倒れて、二つともバラバラに崩れた。


 艦颶槌も確かにふねを斬るというくらいなのだから凄い威力の武器なのだろうが、それを振り回す腕力も体力も必要なので、龍雅は上背はあるがこの細い体のどこにそんな力が詰っているのだろうと、委員長もゼファーも唖然となった。


「な、なんつーバカヂカラ……」


 委員長が思わず呟く。


 委員長がそう口にした直後、龍雅の体に付着した白い墨も、硬化したものや半硬化のものもまとめて、彼女の体から剥がれ落ちた。本体が倒されれば付着物も無くなるという、この特性を龍雅は知っていたからこその突貫だったのだろうが、確かに「二度は同じ技は受けない」とは語ったが、その回避方法が少し強引過ぎである。


「……次は」


 龍雅も一呼吸入れるように、まだ服に付着する硬化した白い墨の残りを払う。


 そうして、敵を一体倒し全員が安心して少し脱力してしまった――その時


「!?」


 怪生物を倒して残りの負の魔法生物の方へ注意を向けようと龍雅が振り向こうとしたその時、左肩に刺すような強烈な痛みが走った。


 気づいた時にはアインツの右手には銃が一丁握られていた。それは信号弾を打ち上げる銃のように野太いパイプ状の銃身をしている大型銃。


 どこにそんなものを持っているのか分からないような表層の体の、どこからかそれを出し、早撃ちの名手も斯くやという動きで引き金を引き、狙い違わず龍雅の左肩に何かを命中させていた。


 今度はこちら側の隙を突かれた。この隙を生み出すために怪生物一体を犠牲にしたのだとしたら相当な策士だ。


「……」


 龍雅が被弾した左肩を恐る恐る見る。あの銃口の大きさであれば擲弾グレネードである可能性は高い。左肩から先が吹き飛ばされたかと龍雅は覚悟したが、その目に映ったのは無事な左肩に突き刺さる針とシリンダーだった。


「な!?」


 それは注射器のような形状をした弾丸だった。既に押子プランジャ部分が弾着の反動で奥まで押し込まれている。


 しかし通常の弾丸ではないととりあえず安心した龍雅は、注射器状の何かを掴んで引き抜き投げ捨てた。だがその直後


「――かはぁっ」


 何かを吐き出すような悲鳴が漏れ、龍雅がいきなり膝を突いた。


「リュウガさん!」「村雨さん!」「リュウガ殿!」


 三人が思わず呼びかけるか、それも聞こえないかのように脱力していく龍雅が、艦颶槌を取り落とす。


「象を横転させる程の麻酔薬スリープポーションだ」


 今まで静かに動向を窺っていたアインツが久しぶりに口を開いた。出した時と同じように、一瞬にしてどこかへ大型銃をしまいながら言う。


「通常の人間が食らったならば即死級の威力なのだが、まだ意識を保っていられるとは、やはり危険な女だ」

「……なら、さっきの弾丸を普通の弾にして、最初から即死を狙えば良いのに……わざわざこんなこと」

「あなたを封じるなら、動きを止める手段を考えた方が良い。いたずらに速攻死を狙って火電重砲デミフレアなど出されたらたまりませんからな。あなたは極限状態になれば普段は使えぬものも使用可能になるようですし」

「くぅ……」

「多分あなたは致死性の毒を持ってしても、仕留めることはできないだろう。あなたにはそれだけの危険性があると見た。だが、睡眠とは人間が抱える三大欲望の一つ。幾ら人を超えた強力な力を持っているとしても、あなた自身が自分を人間であると認識しているのなら、人間という生物が抱える根源的構造問題からあなたは逃れられることは出来ない」

「……」


 麻酔が全身に回ってきた龍雅が地面に手を突いた。それだけ強力な薬を食らっても彼女はまだなんとか意識を保っているが、目を閉じないようにするだけで精一杯だった。苛烈過ぎる睡魔が朦朧とさせる。


「さて、次は――ゼファー卿、あなたにはこれを差し上げよう」


 怪生物を一撃で倒した龍雅がいきなり戦闘不能にされて混乱する間隙を縫って、アインツがゼファーに向かって何かを投げた。ゼファーも同じように動揺していたので対応が遅れ、それは首にかかった。


「こ、これは、魔封じの首飾りアミュレット!」


 自分の首下に強制的に下げられた金属を見て、驚愕する。そしてその直後、ゼファーがぱたりと倒れた。


「ゼファー!?」

「ゼファーさん!?」

「魔封じの首飾りアミュレット……その力は、対象となるものの魔力を強制的に異空間に廃棄させる……、地下迷宮の永久魔法罠パーマネントマジックトラップを強制破壊するですとか、地獄から現れた魔王を倒す補助ですとか、それだけの用途に使う決戦兵器ですぞこれは」


 大魔導師級の風使いからいきなりただの喋るカカシになってしまったゼファーが、魔封じの首飾りに秘められたその恐るべき効果をなんとか口にする。魔法道具マジックアイテムに近いゼファーがそんなものを食らったら、体を維持するのは元より意識を保っているのですら困難なはず。


「これは聖遺物級の道具……世界に百とは現存しない希少な物をなぜ我輩などに!?」


 アミュレットに埋め込まれた魔石を燃焼させることによってこの道具は効力を発揮する。つまり強力な力の引き換えに使い捨ての類いの物。


「それだけあたなも危険と言うことだよゼファー卿。だからその程度の品、ただ一つしかないモノを得るために使うのであれば、当然の使い道だろう?」


 一を得るために百の一つを使ったまでとアインツは言う。そして強者であろう二人を一瞬にして封じたアインツが、最後の守り手の方に顔を向ける。


「さて、場所を空けていただきましょうか次代の魔法少女よ」


 しかし委員長に対してはそんな面倒な手段を使わなくても対処できると思っているのか、無防備なまま近づいてくる。


「我が同胞を殲滅してくれた礼も兼ねて、じっくり嬲り殺しにして差し上げたいところだが、本日は生憎と先約があるのでね」

「殲滅したのは母さんよ! 今は私が相手でしょ! 無駄口はいいからとっととかかって来なさいよ!」


 二人が一瞬にして倒されるのを間近で見てしまっていた委員長は、怖くて膝が震えそうなのをなんとか我慢していた。大声を張り上げてようやく覇気を保っている。


「もちろん、目的のものを手に入れた後は、まずあなたを始末し、次には仇敵である先代魔法少女をぶち殺しに参りますよ」

「話にならないわ! こっちから行くわよ!」


 相変わらず食えない態度を見せる相手に、さすがに怖さが突き抜けて我慢ならなくなったのか、委員長がマジカルバトンを両手で握り締めて突っ込んだ。そのまま大きく振りかぶり脳天から叩きつける。委員長の一撃は、強い衝撃を持って相手に見舞われた。


 しかしその衝撃は激突ではなく、相手に受け止められての衝撃だった。委員長の両手がぶるぶると震える。


「!?」


 アインツは委員長の全力の一撃を片手で受け止めていた。


「……くっ」

「魔法少女とは、まず負の魔法生物こちらが攻撃してから反撃するのがハウスルールではなかったですかな」

「ルール破ってでも守りたい子がいるからよ!」

「!」

「笑止」


 アインツは空いている左手で委員長の首を鷲掴みにすると、そのまま持ち上げた。


「……離、せ」


 委員長はマジカルバトンから手を離してしまう。掴んできた相手の手を何とか振りほどこうとするが、アインツの腕の中で委員長の体がぶらぶら悲しく揺れるだけ。


「余興にもならん」


 アインツは掴んでいた委員長の体をそのまま放り投げた。委員長はそのまま10メートル以上飛ばされ、校庭に叩き付けられる。


「委員長さん!」


 地面に落下した委員長はスズの声にも全く反応を示さず、ピクリとも動かない。


「時代が変わり、魔法少女の腕も落ちたのか。先代の方が強く、面白みもあったのだろうな」


 委員長が残していったマジカルバトンを詰らなさそうに見ると、もう興味を失ったのか投げ捨てた。校庭に鉄の塊が転がる。


 一瞬にして三人が戦闘不能にされた。


 烏賊型怪生物とは次元の違う、圧倒的な強さを見せた相手の前に、スズだけが残った。


「さぁ自動人形よ、我が手に」

「私にも戦闘能力はあります。簡単には行きませんよ」


 スズが腰を少し落として戦闘モードの起動を行おうとするが


「お前につどっていた三人をただ地面に転がしているだけなのは、お前なら分かるだろう」

「――」


 今の三人は動くことも喋ることもできないが、ちゃんと生きている。しかしそれはいつでも生命が奪われる無防備な状態を晒していることでもある。


 スズは相手の意図を悟ると、姿勢を元に戻して戦闘モード起動をキャンセルした。


「私があなたの物になれば、ここにいる他のみなさんは助けてもらえるのでしょうか」


 スズは自分以外の全員が倒れてしまった絶体絶命のこの危機を脱するために、一つの案を出した。自分がこのアインツの予定通りに彼の物となれば、三人は解放されるはず。


「なぜ道具がそのようなことを気にする?」


 しかしそのスズの提案を、相手は一蹴した。


「我は自動人形という一つの道具を入手しにこの場に現れたに過ぎない。その道具の所有者が代わるだけであるのに、なぜ道具に意向を聞かねばならぬ?」

「ならなぜ三人を生かしたまま!」

「お前にも人間を対象とした防護機能は付いているだろう、製作者たる人間を守らなくてならないという自動人形の根源的役目。それを発揮させるための材料でしかない」


 スズをこの場から逃がさないためだけに、三人は動きを奪われている。それがスズの中に悔しさ、というものを覚えさせた。自分ひとりだけでこの場に居たならば、こんな状況は回避出来たのかも知れないのに。


「これはお前の前所有者を全員排除した副産物に過ぎん。所有物はそれをただ受け入れれば良いのだ」

「なるほど――あなたにとっては私はあくまで意思の無い道具なのですね」

「くどいぞ。もの風情が、何時までも新たな所有者に意見するな」

「――」


 その最後通牒のような言葉を受け、スズの中の何かが動いた。


「ならばどうぞ、この体、御自由に」

「スズ!」


 遠く離れたところから声がする。意識を取り戻した委員長が顔をだけを上げて叫んでいた。


「ダメよスズ! 逃げるのよ!」


 全身を襲う激痛のために身動きは取れないが、それでも叫ぶ。声を出すたびに痛みが走るが叫ぶ。


「スズ殿……逃げるのですぞ」


 倒れたまま全く動けなくなってしまったゼファーが、なんとかそれだけ言葉にする。


「スズさん……逃げて……」


 強烈な睡魔と闘い続ける龍雅も、朦朧とした意識の中、口を動かす。


「……」


 その三人の言葉。


 機械神より落ちてきた直後の彼女が聞いたならば、その言葉に従ってこの場から全力を持って離脱していたことだろう。彼女の最初の目的は機械神の中へ戻ることであるのだから、まずは身の保全を最優先にしなければならない。自身が破壊されては最優先事項が達成できない。


 事実、龍雅と二人で怪生物に遭遇した時は、その言葉を聞いて逡巡した。


 しかし


「皆さん――ありがとう」


 彼女は、その言葉を聞いて、笑った。


 彼女の中で動いた何かが、笑わせた。


 その顔は表情が変わらない筈だが、それでも笑ったように見えた。


 とても清々しい貌で彼女は笑った。


「これで私は、どこへでも行ける勇気がもらえました。機械神の中に戻らずとも、新しい自分の居場所へ行くための勇気を」

「スズ!?」

「さぁ、新しい秩序の始まりだ」


 アインツが右手をパチンと弾いた。それに応えて、砕かれた烏賊型怪生物が更に粉々になった。粉々に――元の砂へと戻ったそれは、何本もの細い竜巻状の螺旋を描き、一瞬でスズに襲い掛かった。


 砂へと戻った怪生物が、スズが着ていた制服を粉微塵にするようにバラバラに裂きながら、間接と言う間接の隙間から体内に入り込む。


「スズ!?」


 委員長の叫びなど無視するようにバキリという嫌な音がして、スズの背中が割れた。その隙間から白い固まりかけの砂が四本飛び出してくる。頑丈なはずの背中の装甲を割って出てきたそれは下に生える一対がどんどん肥大化していき、先端が更に五つに割れて伸び、手のような形になった。本体もどんどん大きく鋭利な形になり、巨大な腕となる。上から生えた一対は翼の形状へと成長する。


「自動人形とは機械仕掛けのからくりのみで人間とほぼ同じ動きをこなす魔的要素を一切含まないもの。生物的要素が一切皆無であるのに、生物と同じだけのことが出来る。それすなわち、魔的生物を生み出すには最高の純粋さを持つ、至高の触媒となるのだ!」


 砂に侵食され形態を変えつつあるスズを見ながら、詠うようにアインツが言う。


 確かに動く彫像ゴーレム程度の物を作るのであれば、鉄や希少金属レアメタルを求めた方が容易く作ることは可能なのだろう。事実彼は砂を使ってアイアンゴーレム級の強兵器を作り出せる力がある。しかも何体も。


 しかし彼はそこで満足は出来なかったらしい。だからこそ求めたのだ、自らが本当に求めるものを具現化できる最高の素材を。


「スズ!!」


 何もできない委員長から遠く離れた場所で、機械の少女の変異は止まらず続く。


 太腿の外側面も割れると、中から同じように半凝固状態の砂が飛び出し、脚の側面を覆うように肥大化すると、竹馬のような長靴のような巨大な脚部になった。


 胸からはフィン状の鋭利な突起が生え、硝子の青い瞳が紫色に侵食され、最後に血のような赤色になる。


「スズ……」


 スズの体を依り代にした、スズではない何かが生まれた。


「これぞ最強の怪生物! 否、神の怪生物!」


 アインツが絶対の破壊者の誕生を高らかに宣言する。彼にとっては新たな神の降臨に等しいのだろう。


「神の、怪生物……」


 変わり果てたスズの姿を見て、委員長が絶望の顕現を口にする。


「フハハハハ! 待った! この時をどれだけ待ったことか! 魔術の触媒、それも自分の思い通りになるものを作り上げたければ、それは全くの無機物であるのが好ましい。機械神の体内で作業する自動人形の存在を知ってから、それこそ最高の触媒となると確信したのだ!」


 自ら動く人形である自動人形オートマータは、純粋に科学技術・機械技術によって動く物。


 しかも人間のように動けるのに意思というものが存在しない。


 これほど魔生物を生み出すのに適任な触媒など、他に探すのが難しいだろう。


 彼自身も人間とは違う独自の進化を遂げて、今手にしている魔術を得たのだろう。その彼固有の魔術の触媒として最高の素材に選ばれたのが、意思を持たない機械仕掛けの人形。


「さあ行け! 神の怪生物よ! この世界に秩序ある混沌を巻き起こせ!」


 アインツはこの場を引き払い、更なる混乱の拡散を促した。


『イエス・マスター』


 そしてスズもそれに従う声を発する。


 それは今までスズが発していた機械音声ではなかった。


 くぐもった地の底から染み出してくるような声が神の怪生物から聞こえた。神の怪生物は主の意向を実行するため、その身を動かそうとする――が


『――と、言うとでも思いましたか?』

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