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灼熱の犬飼さん ~おおかみむすめの高校生活~(龍焔の機械神)  作者: いちにちごう
灼熱の犬飼さん1 ~おおかみむすめの高校生活+鬼ムスメ~(東京湾物語1・龍焔の機械神)
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灼熱の犬飼さんその2 02 ~乳首見える!?~

「なんだか今日、転校生が来るって話だね」

「てんこーせー?」


 授業開始前のホームルームの時間。


 今日も今日とて「あぢーっ」と言いながらぱたぱたをしている陽子に、前席の女の子が話しかけている。


「こんな時期に?」

 自分達は新一年生であり、まだ夏休み前の一学期である。教室内の空気もクラスメイト全員が、全てのクラス内の人間とはまだ馴染めていない状態。だから今は初期状態で出来た仲良しグループ内でのみしか会話が弾んでいない時期。


「というかヨーコってばまた今日もノーブラ?」


 ぱたぱたの最中にたまに毛の生えた胸が大きく覗くのを前席の女の子が突っ込んだ。


「今日は陸上部の練習休みでさ、やっぱり下着の方が楽だからね。夏場は下着仕様の場合は上部パーツは無しなのだよ基本的に」

「はぁ? ていうかまだ初夏にもなってないような気がするけど」


 衣替えを済ませているのは陽子のみであり、まだまだ肌寒い日は多い。


「それはそうと休みなんだ陸上部? 陽子の楽しみが減るね?」

「まぁそうだけど今日は先輩たちの遠征準備とかで。明日はその遠征日なんでまた休み」

「へー、二日連続? でもそれとは別に中が下着じゃ暑くなったら制服脱げないじゃん? なんのためにいつも制服の下がユニフォームなんだか」


 前席の女の子はそう言いながら、陽子の制服の少し開かれた襟の裾をつまんでぐいっと広げた。


「乳首見える!?」


 さすがに陽子も飛び退くようにして開かれすぎた上着を両手で押さえる。「乳首」と言う単語に多くの男子生徒が反応して声の発生源の方に顔を向けたが、それが銀狼娘だと知れると「なんだ灼熱の犬飼さんか」と、全員が何事もなかったかのように元に戻る。


「なによ、今さらそんなもん見えてビクつくタマか、あんた」

「そんなもんって……ていうかセクハラだぞーっ!?」

「同姓同士ではセクハラは適用されないのだよヨーコくん」

「じゃあ痴女!」

「いつもは中にユニフォーム着てて隙あらばどこでも脱げるようにしている女に痴女呼ばわりされたくないな」

「そういわれると言い返せないねこんちくしょーっ」

「それに陽子の胸を見て嬉しがる人間がどれほどいるのか」

「なぬ? それは聞き捨てならないな、狼女の毛の生えた胸じゃそんなに不満かね?」

「だってヨーコと同じくらい胸に毛の生えてる人ってたまにいるじゃない男で」

「うぉーうっ」

「おーい静かにしろー、ホームルーム始めるぞー」


 陽子の手刀が前席の女の子の脳天に決まったところで担任教師が入ってきた。クラス内の喧騒が一気に静まる。もちろん陽子と前席の女の子も元に戻る。


「今日は転校生を紹介する」


 担任のその一言で一端静かになった教室内が再びざわつき始めた。


(あ、そういえば転校生来るって話だったっけ)


 今は背中を向けている彼女の話の出だしがそんなんだったと、陽子は思い出した。多分職員室の前を通りかかって聞いたとかなのだろう。


「みんな静かにしろと言っただろ? おーい、入って来い」


 担任教師は教室内を再び注意すると、開かれたままの扉から廊下に声をかけた。


「……」


 優雅に厳かにまるで忍び寄る影のようにその生徒は入ってきた。


「……」


 一歩進むたびに短いスカートが静かに揺れる。この高校指定の女子用制服に身を包んだ女の子。転校生特有の制服が間に合わなかったということは無いらしい。そして手足の長さで長身であるのがすぐに分った。このクラスにも犬飼陽子という背の高い女生徒はいるが多分彼女と同じくらいの上背はある。


 しかしそう言った部分よりも、まず全員の目に飛び込んできたのはその肌の色だろう。


 真っ赤。肌の弱い者が日焼けしたかのような赤。長袖の上着から覗く手も、スカートの裾から伸びる健康的な太さの脚も、そして顔も首元も、赤。


 だが、そのように日焼けした者の肌は、色素の足りない薄く透けた赤色のはずだが、彼女の皮膚は染色のごとくしっかりと色づけされた赤。


 次に飛び込んでくるのが髪の色。綺麗な金髪。ハニーブロンドと言われる濃い目の金色。しかも彼女の髪には脱色特有の頭頂部に残る黒髪の部分がない。脱色直後で染髪直後かとも思われたがどうもそんな雰囲気でもない。それにこの国で生まれた人種であるならば、染めてもあんなに綺麗な金色にはならない。この国の人間でも陽子のように生まれながらの銀髪か、年老いて白髪になったならば綺麗に染められようが、それもありえない。


 そうして最後に気付く、頭の上にある一対のもの。


 角。


 誰しもそう形容するだろう黄色い三角錐型のあれである。


 最近では猫耳の生えた帽子を被っている者など普通に歩いている時代なので(これが男子でもいるのだから困った時代である)ヘアアクセなのかとは最初は思うが、やはりどうも違うらしい。


 そしてその三つを体に揃えた彼女をその場にいた全員がこう思った。


(……赤鬼)


 この国の人間なのかそれとも外の国から来たのかとか、そんな疑問を全部すっ飛ばして全員がそう思った――ただ一人を除いて。


(……あれ? あの赤鬼さん前にどっかで見たことあるような……?)


「では名前の紹介を」


 陽子は角付きの赤い彼女になんともいえない既視感を感じたのだが、担任教師の言葉にそれ以上は遮られた。指示された彼女は、チョークを手に取ると背後の黒板に字を書き始める。


 読めない謎の異国の言葉でも書くのかと思ったが、普通にみんなが読めるこの国の言葉で、彼女はこう書いた。


 鬼越魅幸。


 それは人の名前のようでもあり四文字熟語のようでもあり、クラス内の全員が読める言葉で構成された四文字のはずなのにそれが一瞬分らなかった。そして彼女はチョークを置いて振り向いてこう言った。


鬼越魅幸おにごえみゆきです」


 それは声に出してみると意外にも普通の音感の名前であり「みゆき」と言う下の名前も女の子らしくて可愛い名だ。それに始めて耳にした彼女の声が意外に可愛いかったので、聞いていても聞き心地が良かった。


 しかし――「なにかおかしい」とは、それでもクラスの全員が思った。その名前はこの国の人間であるならば標準から逸脱していない国字の組み合わせだが、それでもなにかがおかしい。そして陽子もその声を聞いて(あれ、この声もどこかで聞き覚えあるような?)とおかしく思っていた。


「新しいクラスメイトの鬼越だ、みんな仲良くしろよ」


 教師だけが一人この「何か分らないけど異常」に気付いていないのか、型通りの言葉で場を濁す。


「で、鬼越、その頭のものは?」


 更には「それは訊いちゃいけないのでは?」といった事まで、ずけずけ訊く。やはりこのクラスには陽子と言う少し変わった女の子がいるからか、それなりに体性が出来ているのかも知れない。それともそれを本当にヘアアクセサリーだと思って注意しようとしているのだろうか。


「胼胝が凝固したものだと医師には言われました。診断書もありますが見ますか?」

「いや、結構」


 鬼越に質問を軽くかわされると、教師は別に気にした風でもなく教室内を見回す。髪の色と体色はスルーらしい。


「さて、席だが――鈴木の後ろが空いてるな。鬼越の席はそこだ」


 教室内の全員がその空席へと顔を向ける。


「……」


 陽子が軽く息を呑む。


 なぜかと言うと、陽子の前席は直前まで話していた女子生徒の席であり、鈴木という名前の生徒は彼女の隣なのである。それはつまり――


 教室内を堂々とした足取りで進んできた鬼越が、鈴木の後ろの席に着いた。


 そして優雅に金髪を揺らしながら隣の席の者――陽子へと顔を向ける。


「よろしく」

「は、はぁ……」


 厳かに簡潔に放たれたその挨拶に対して、陽子はそれだけしか返せなかった。




「犬飼さん」


 五時間目と六時間目の間、午後授業の狭間に遂にそれは起こった。


 本日は体育も無ければ家庭科も無くその全てが個人プレイで済む授業内容ばかりだったので、鬼越魅幸は特に誰かとの接触も無く転校初日をこなしていた。


 転校生が来ればとりあえず休憩時間ごとの質問攻めと相場は決まっているのだが、彼女から放出される雰囲気を越えてまでそれをしようとする者は遂に現れなかった。このクラスにも何人かいる、怖いもの知らずの軽率系男子も、さすがに彼女が相手では接触を躊躇した様子。


 だがしかし、その重苦しい雰囲気は彼女の方から破られた。


 そしてこのクラスのほぼ全員も、予想はしていた。時期はずれもいい処のこの時期に転校してきたあの鬼女の目的は狼女(犬飼)なのだろうと。そうでなければなんなのだと。


 そうして鬼越女史はお約束を果たしてくれたのだった。


「放課後、顔を貸してもらえないだろうか?」


 更にはお約束な台詞まで披露してくれた。ある意味彼女はサービス精神旺盛なのではないだろうかと、その言葉を聞いた一部の生徒は思った。


「ほ、放課後でスか!?」


 それに対して陽子もお約束な噛み噛みで応える。


 いつもであれば「部活の練習があるので」と断れるものだが、今日はたまたま陸上部の練習も休みの日である。それでも「部活があるから!」と嘘をついて逃げるのも手だが、どうせ翌日以降も同じように「放課後は空いているか?」と訊いてくるとは予想できる。それに陽子自身嘘をつくのが非常に苦手である。だからここは正々堂々と


「い、いいですよ?」


 と、少しドモっての疑問符系で答えたのであった。

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