第四章
「しっかし、相変わらず凄いメンツでの下校だわよね」
本日の授業が終わり疾風高校の正門を抜けた委員長は、後ろに続く二人を見て半ば呆れたように言う。
ゴツ、カシャン、ゴツ、カシャンと重厚な歩行音を奏でながら歩く機械な(奇怪な?)女の子に、自分の身長と同じくらいある大振りな得物を携えた長身の女の子。
これだけ特徴的な面子を揃えていれば他人の目が気になって仕方ないと思うが、意外にも目立っていないのは、機械神やら水の魔物やらなんらやが跋扈するご時世だからだろうか。
「委員長さんもバッグを開けたら中身がバールとか中々ですよ」
「……それも含めてのメンツってことよ」
一番まともそうに見える委員長ですらそれである。
委員長が今の状態で一人で歩いていたら巡回中の陸上保安庁の隊員に呼び止められたら言い訳のしようがないが、とりあえず委員長が首から下げてる公認魔法少女としての許可証を見せれば素通りで大丈夫なのは良いのか悪いのか。
委員長が魔法少女であることは学校関係者も含め、近隣住民にも知られているのだが、それでも女子高生が大バールを剥き身のまま持ち歩くのも色々と無理があるので、普段は隠して持ち歩いている。
あれから一週間、スズを中心とした世界はごく平穏に過ぎて行っていた。
「また襲われたのスズ!?」
蛸型怪生物の強襲をなんとか撃退した二人は、一旦学校に戻ってお互いこなすべきことを済ませると、いま一度寮へと向かった。
往復の途上で再び襲われる可能性もあったが、学校に戻った際に怪生物出現の報告は入れているので、今は陸保の後詰の戦車隊が警戒に走り回っている状態であり、さすがに再強襲はないまま無事に戻れた。
そうしてようやく帰ってきた(何しろ二人は日中は第参東京海堡にいたのだ)スズと龍雅を迎え入れた委員長が、説明を聞いた第一声がそれである。
「もう、心配させないでよ」
「ご心配をおかけしました。体に特に破損箇所はありません」
「……まぁ無事だったのは何よりなんだけど……ていうかなんで村雨さんがいるの?」
とりあえずスズが無事で安堵した委員長だったが、安心したら安心したでなんで隣に水保の出向生徒がいるのか気になってしまった。彼女の登校日は確か明日ではなかったか?
「明日は登校日で今日がシフト上の休日だったので『今日から行ってくれば』とムムさんが言ってくれましたので」
「ああ、そういうこと」
「リュウガさんの操縦する戦車に乗せてもらいました」
「そうなの? なんか良いなぁ~、スズってば行きは疾風弾の専用機で飛んでったし、すごい色々体験してんじゃない、お世辞抜きで羨ましいな」
「でもスズさんは帰りも空路を使えばそのまま安全に帰ってこれたとは思います。スズさんを危険に晒してしまったのはわたしの責任です」
頭を軽く下げたままにして、申し訳なさそうな口調で言う龍雅。自分が一緒にと誘わなければこんなことにはならなかったのかも知れない。
「そう? でも相手も実は空が飛べたりして、ヘリくらいだったら軽く落とせるくらいだったのかも知れないよ。空の上だと逃げようがないし」
沈んだ顔を見せる龍雅に、委員長がそんな風に言って励ました。
「……その可能性もあることはありますが」
龍雅が難しい顔のまま応答する。
スズの乗った機体を海上で撃墜し、落ちてきたスズだけを回収する。委員長が指摘するようにそんなことが出来る相手だったのかも知れない。
スズも単体で飛べるのだが、現状では数秒が限度。本当にスズが狙いであるなら、撃墜して後の回収は確かに良い手だ。実は水路と陸路を併用して帰ってきたからこそ、この程度で済んだのかも知れないと考えると、何が一番の判断だったのか良く分からなくなってきてしまう。
「まぁ二人とも無事だったんだからもう良いじゃない。村雨さんも明日は学校でしょ? ご飯食べてお風呂入って、今日はもうゆっくりしなよ」
委員長が委員長らしくまとめ役的に気遣った台詞を龍雅に言い、龍雅も「ありがとうございます」と答える。
「でも明日一日だけとかもったいないよね。でもそれが水保の仕来たりなんだから仕方ないか」
「実は明日以降もしばらくはこちらにお世話になると思います」
「へ? そうなの? なんでまた?」
「さっき水保の方に連絡を入れた際に、スズさんの護衛役を仰せ付かりましたので」
「リュウガさんが護衛になってくれるんですか」
「ええ、ムムさんの方にも辞令が来たようで、そう説明されました」
それを聞いたスズは、雪火が色々手を回してくれたのだろうと思考する。顔見知りであり同級生で同じクラスなので適任といえば適任である。しかも一番の問題になる強さにしても先ほど証明されたので、これ程うってつけの人物は早々見つからないだろう。
「というわけなので、今回の一件が収束するまではスズさんの傍にいますので、わたしもしばらくは寮生です」
「そうなんだ、ちょっと楽しくなるね」
それを聞いて委員長が少し心躍らせる顔になる。女子とは何時いかなる時も、同性の友達が増える時は妙に嬉しくなるものだ。
「いやー、それにしても水上保安庁の現職隊員がいてくれるなんて心強いね。スズのお母さんは良い人だ!」
「はい」
「……えーとね、スズさん」
なんの躊躇いもなく「はい」と答えたスズに、少しガックリ来た様子の委員長。
「はい?」
「あなたの同部屋の人は、一応魔法少女っていうそれなりに強いお人なんですよ。だから『委員長さんが居てくれるから大丈夫ですよ』とか、お世辞のひとつぐらい良いかなーって」
「ああ、そうでした――委員長さんが居てくれるから大丈」
「いや、コピペは良いから」
うな垂れる委員長。
「……っていうか魔法少女で思い出したけど、やっぱりスズが私たちの仲間の一人だと思い込んで、一人でいる所を狙ってどうにかしようとしたのかな」
姿勢を元に戻した委員長が、スズと龍雅の方を交互に見ながら言う。相手はスズのことを連れ去ろうとしていたのだ。
「スズのことを連れ去って人質として使う……アナログな手だけど、そういうことをするような敵なのかな」
大変なことになってきたと腕組みして考える委員長。
「ごめん、私がスズのことを連れ出したばっかりに、こんなことに」
「いえ、一緒に連れて行って欲しいと願ったのは私の方ですし」
「……」
両者ともに責はあるが、まさかこんな事態に発展するとは思わなかったので、どちらが悪かったとも決定付けられない状況でもある。
「いいですか」
それまで黙っていた龍雅が口を開いた。
「はい、村雨さん」
それを聞いて委員長がまるで学級会のように名を呼ぶ。
「わたしは、相手がスズさんそのものを狙っているのではないかと思うのですが」
「スズそのものが狙い?」
龍雅の意見を聞いて、委員長が当惑するように言う。
「私ですか」
「はい。スズさんは疾風弾重工の最新鋭の試作品……それは他の者にとっては超越技術の塊とも言えます。だからその技術を手に入れようと」
龍雅は「疾風弾重工の最新鋭の試作品」と言う時に、目配せするようにスズの硝子の瞳を見た。龍雅はスズの出自を聞いたのだ。その意見も加味されている彼女の考えなのだろう。そしてそれはもう一人ここいる委員長はまだ知らないことであり、知らせるべきではないことかも知れない。だから龍雅はこの場では言葉を濁したのだが、スズもそれで構いませんと言う風に頭部を少しだけ上下させた。
機械神から落ちてきた稼動する個体。彼女の希少性を知っているのならば、彼女の捕獲を目的にして狙ってくるのも分からないでもない。
「だからスズの体に詰ってる超技術を手に入れようと? スズを使ってゴーレムでも作ろうってのかね?」
スズが二回も襲われたのは偶然ではなく、最初から疾風弾重工製自動人形の捕獲が目的であったのか?
しかし龍雅の予想(自分はスズが機械神から落ちてきた者だと知らないことを除いても)だけでは、その目的がいまいち分からず、委員長が首を捻る。
疾風引重工の最新試作品(厳密には違うが)と、魔術を操る負の魔法生物。なにか繋がらないような気もする。
「私も、素材としては自動人形などよりも、精錬された鉄ですとか希少金属の方が良いと思うのですが」
「だよね」
スズも自分が襲われるのであれば、その目的が何なのか判断つきかねているらしい。魔術の触媒にするのなら、自分はあまりにも科学技術が詰りすぎているので、反発反応が起きてしまうのではなかろうかと思考する。
進みすぎた科学は魔術と同義と言うのならば、高度な科学技術の塊へと魔術を侵食させるのは高度な魔術が必要である筈で、それができるのならば魔術のみで目的のものを作り出した方が効率が良いのではないのか?
「まぁそれはそうとして、スズが狙いなんだったら寮にいるのは危ないんじゃないの? もっと疾風弾重工の奥の方でかくまってもらってた方が良いんじゃ?」
本当にスズの捕獲が目的であるのならば、こんな場所に居て良いのかと、
委員長はごく当たり前に考える。
「そのためにリュウガさんが護衛に来てくれましたので」
しかし水保からの守り手である彼女が居れば大丈夫とスズは言う。
「村雨さんってば、実は超強いの?」
「超強いですよ」
自動人形から称嘆の声が上がる。自分を守るために使ったあの力の発現をスズは実際に見ているので、その意見は揺るがない。
「……超強いかどうかはわからないですけど、今回は遅れをとりましたが、さすがに同じ手を二度は受けません。それは約束します」
龍雅が少し頬を赤くしながらそう答える。
「えーと、詳しく聞いてなかったけど、今回現れた負の怪生物はリュウガが倒したんだよねぇ? どうやって倒したの?」
「……まぁ、ギリギリの局面でしたので普段はあまり使いこなせていない電磁誘導と重力制御が使えるようになって、その二つの組み合わせでできる火電粒子というものをぶつけて倒したんで、いつもそれが出来るかというとちょっと……」
「なんぞそれ!?」
あまりの言葉の羅列に委員長も言葉使いが少しおかしくなった。
一番最後の火電粒子というものは良く分からないが、戦いに身を投じるようになって電磁がどうのとか重力がどうのとかは学んできたので、その意味は判る。
「え? 村雨さんって魔法少女なの? 母さん以外にも居たってこと?」
「いえ、私の場合は魔力ではなくて自分の体から直接発現させているので魔法少女ではないです。それにこんな背のでっかい魔法少女が居ても困ると思うんですけど」
「うちの母さんなんて37歳まで現役魔法少女だったわよ! そっちの方が問題多いわよ!」
「そうですか」
「というかその電磁なんたらとか重力なんたらとかって、練習すれば使えるようになるもんなの? 私も魔法少女なんだからちょっとは普通の人とは違うし、使えるんだったらさっさと覚えてあのロクデナシ無しでいいように独り立ちしたいんだけど!」
「さぁ、どうでしょ? わたしのは生まれつきですし。それに委員長はせっかく魔法少女なのだから、もっと魔術の方を覚えた方が良いと思いますけど」
「私はどうですか?」
スズが自分の機体構造でも出来るものなのだろうかと訊いてきた。
「スズさんの場合は電磁誘導だったら、練習したら案外どうにかなっちゃいそうですよね」
「とにかく一晩じっくり聞こうじゃないの! 夜は長いわ!」
「消灯時間がありますが」
「電気消して喋ってる分には怒られないわよ!」
「わたしは多分違う部屋だと思いますが」
「村雨さんはスズの護衛でしょ! 何なら今日から三人部屋でも良いわよ!」




