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灼熱の犬飼さん ~おおかみむすめの高校生活~(龍焔の機械神)  作者: いちにちごう
変形少女(仮)~東京湾物語3・龍焔の機械神~
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三章05

 報告を終えたスズは、機械使徒が格納されている秘密施設を抜けて第参東京海堡を歩いていた。


『すぐ帰っちゃうのももったいないから、第参東京海堡ここでも散歩して、色々見てから帰りなさい』と雪火に言われたので、色々見て回っている。


 まずこの第三東京海堡に降り立って目立つのはその風車だろう。


 鉄車帝国とチャリオットスコードロンの戦いの最中、強引に引き起こされた火山活動によって生まれた火山島が第三東京海堡ここの基となっている。


 戦いの負の遺産として残ってしまった新島を造成してこの第三東京海堡は作られたのだが、その設計においてもっとも問題となったのが排水であった。


 現代科学の粋を集めれば地面をかなりの高所に埋め立てることも可能ではあるが、地盤沈下などの影響も考えられ、また第一の目的である水の魔物をおびき寄せる巨大トラップとしての効果が薄れるとのことで、平均的な土地の高さとなっている。そう、この第三東京海堡そのものが罠として機能しているのだ。


 しかし東京湾湾口に近い地形から高波の被害を恒常的に受けるのは避けられないので、その排水目的として多くの風車が立てられることとなった。


 当初は電動式ポンプなどの設置も考えられたが、水の魔物というものは科学技術に囲まれた近代的な場所よりも、比較的のどかな地域に現れる傾向が強いと調査結果が出ているので、水の魔物をあえておびき寄せるために作られているこの第三東京海堡には、その運用の殆どを人力で行う排水装置である風車が多く立てられることになった。


 そういったアナログな部分に水の魔物は好んで寄ってくるらしいので、第三東京海堡では風車以外でも人力で行える部分は極力人力でまかなうようになっていて、アナログな生活自体も推奨されている。


 話を風車に戻すが、風車には保守保全を行う風車守という職が必要で、基本的に風車守というものは自分が見守る風車そのものに住むものである。


 つまり風車を運用するには風車守が必要で、風車守は人間であるから生活を循環させる拠点が必要である訳なので、この第三東京海堡にも風車を中心とした生活のための町が作られることになった。本土から風車守たちのために物資の専用輸送も考えられたが、そのような味気ない生活では成り手もいないだろうという考えからでもあり、この場所が最初から住処そのものでもある水上保安庁隊員の娯楽や保養も含めてのことである。


 規模的には水保の施設を優先しなければならないのでかなりこじんまりとした街並みではあるが、それでも造成から15年経った今ではそれなりの規模に発展している。


 スズはその第三東京海堡内の町の中を歩いていた。


「こういうのを可愛い町と言うのでしょうね」


 街並みをキョロキョロと見回しながら確認するようにスズが言う。


 風車施設に合わせた統合建設計画とは言われてるこの街並み。疾風弾重工が開発してる、この国の風土にも強い建築素材の実験場という意味もある。


 この国の多くの街並みは常襲的に起こる台風や地震を考慮して殺風景な作りの物が多いが、この第三東京海堡の町はそれとはかなり異なり、欧州地域のような家々が立ち並ぶ。多分最新技術を応用した地震にも強いレンガ(に見える物)や、台風にも強い木壁(に見える物)などが使われているのだろう。


 しかし本当のところは、水保の出資元の疾風弾財団の上役の趣味であるとか、造島計画に加わってる旧貴族の有締栓うていせん家の思惑でもあるとは言われている。


 水上保安庁はもちろん国家直属組織であるが、その出資の殆どは日本有数の財団連合である疾風弾財団が行っていて、旧貴族の一つである有締栓家もそれに一枚噛んでいる。


 そのような背景があるので国から独立している(国から口出しできない)部分も多く、軍隊らしからぬ雰囲気が多く散見されるのはそのためである(厳密には陸保や海保同様軍隊ではないのだが)。


 そしてこの場所は水路も多い。


 スズは北端にある機械使徒の格納施設から南端に向かって歩いているが、ここに来るまでかなりの本数の橋を渡ってきた。スズは正確な数を把握しながら来たが、普通の人間であれば数えるのもうんざりする程である。


 この第三東京海堡が水の魔物を誘い込むためのものであるので、必然的に水路の数は多くなる。


 そしていたるところに整備された水路は、もちろんそれは水の魔物をおびき寄せるためにであるが、この場所で暮らす者たちは物資や人員の輸送に役立てて有効活用している。この国の本土でも水路や運河を荷運びや人を運んだりに利用している場所はあるが、ここは町全体がそうなので規模が違う。


 ちなみにこんな見た目のスズが歩いているといやがおうにも目立つと思われるが、水保の根拠地でもあるので「疾風弾重工の新型機械が動作試験でもしているのだろう」とでも思われているのか、余り気にされている様子も無い。良いのか悪いのか。


「……あれ、スズさん?」


 そうやって第参東京海堡の南端(もの凄く巨大な空母型巡視船の係留桟橋があった)に辿り着くと、そこにある建物前広場にいた女性から声をかけられた。


「――あれ、リュウガさん?」


 昨日委員長の実家に行く前に砂浜で会った、水上保安庁から疾風高校への出向生徒、村雨龍雅だった。スズと同じ疾風高校の女子制服を着て、脚には何故か水保の女子用制服の一部であるオーバーニーブーツを履いている。


「どうしたんですかスズさんこんなところで?」

「母さん――疾風弾雪火の下に参った帰りに、散歩しているのです」

「そうですか」

「リュウガさんこそどうしたんですかこんなところで?」

「わたしの場合はこの場所が仕事場と現自宅をかねているので第参東京海堡ここにいるのが普通なんですよ」

「それは失礼しました」


 スズはそう言いながら龍雅の下に行ってみた。彼女は建物前(彼女の所属する隊の詰め所と格納庫である)の広場に戦車を出して、色々と準備の真っ最中であったらしい。ちなみにスズはどんな場所へも入れる許可証を持たされているので、第参東京海堡内であればどこでも出入り自由である(隣に浮いている超巨大空母型巡視船の中も入れるはず)


「これからどこかに行かれるのですか」


 彼女たちの常用装備である水陸両用戦車の出撃準備中なのになぜかセーラー服(一部違うが)というアンバランスさに疑問を持ったスズが尋ねた。


「明日は高校への登校日なんですけど、ムムさんが『せっかくだから今日から行ったら』と言いましたので、今から女子寮の方に泊めてもらいに行くんです」


 確かに昨日本人が来週月曜日が登校日であると語っていたのを、スズも記憶していた。龍雅は本日はシフト上の休日であったらしいので、そのまま休みの日から登校日に移行しなさいという処置なのだろう。


「そうですか、私ももうそろそろ女子寮の方に帰るところです」


 第参東京海堡の端から端までしっかり歩いたので、ちゃんと散歩は終了したと判断して、スズも寮の方へと帰還しようと考えていた処だった。


「じゃあせっかくなんで乗ってきます?」


 目的地は一緒ということで、龍雅がそう誘う。


「いいんですか私が乗っても?」

「一般の人を車内に乗せるには何か許可がいりますけど、スズさんは一般の人ではないですし、いいんじゃないんですかね」


 ここで龍雅が言っているスズさんは一般の人ではないというのは、スズが人ではない自動人形オートマータである事実ではなく、疾風弾財団の関係者――何しろ総帥の養女である――であるということを言っているようであるのはスズ自身にも分かった。


「じゃあお言葉に甘えまして」


 スズの方も帰寮の際は再びパワードリフト機を使う予定にはなっていたが、見聞を広めるためにも雪火の方から「自分で他に使いたい移動手段があったら率先して使ってみて」とは言われているので、戦車に乗せてもらっても大丈夫だろう。


「じゃあわたしもちょっとやってみたいことがあるので、ちょっと待っててくださいね」

「はい?」


 龍雅はそう断りを入れると、車体右上面のハッチを開けて中に潜り込んだ。そして上半身だけ出して、親指を戦車の方に向ける。


「へい、そこの彼女、乗ってく?」

「――」


 スズはそれを見て聞いた瞬間、口に手を当てて首の間接をカタカタと小刻みに動かす謎の動作を始めた。


「……だめでしたか」

「いえ――笑いたいんですけど、私の発声機構からどうやって笑い声を出せば良いのかわからなくて」


 清楚な感じの龍雅がそんな言葉遣いとか、戦車が車代わりとか、自分を彼女でナンパしてくれたとか色々可笑しい要素があるので、相手に対する対応として笑えば良いのだろうが、感情の無いスズには非常に難しく変な動きになってしまった。


「……喜んでくれたようでなによりです」


 龍雅はぽつりとそう言うと、再びハッチから抜け出して出発準備を再開した。

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