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灼熱の犬飼さん ~おおかみむすめの高校生活~(龍焔の機械神)  作者: いちにちごう
変形少女(仮)~東京湾物語3・龍焔の機械神~
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二章06

 絶叫する委員長とゼファー。本来は作業用の機械であろうスズがあんなものに噛み付かれたら、一瞬でバラバラに――


「――」


 しかし、何かを覚悟した委員長とゼファーの下には、何時まで経ってもその獰猛な歯の租借音は聞こえてこず


「やっぱりお手伝いいたします委員長さん――いえ、ドロシーさん」


 代わりに最近聞きなれてきた機械音声が帰ってきた。


 思わず目を瞑っていた委員長が瞼を開くと、機械仕掛けの彼女が、今まさに振り下ろさんとしていたイルカ型怪生物の下顎を右腕一本で受け止めていた。


「す、スズ!?」

「スズどの!?」


 ゼファーもかなり強力な風術の発動準備をしていたのだが、スズが見せた怪力に思わず集中力が切れて途中で止まってしまっていた。ボフンと練っていた風の塊が霧散する。


「多分私が参戦した方が効率良く敵を殲滅できると思いますので、独自の判断により加勢いたします」


 スズはそう言いながら空いている左手で首から提げたカメラを外すと、ぽいっと投げる。それは見事にゼファーの首の部分に紐が引っ掛かった。自動人形らしい見事なコントロール。


「とりあえず必要分の撮影は完了したと判断しますのでお返しします」


 スズはそのまま相手を押し込むようにそのままの姿勢で前進を始めた。小柄な少女からは考えられない怪力に、相手は何が起こっているのか分からないまま、踵を滑らせて後退していく。


 背後の委員長との距離をある程度稼いだスズは、手を離すと今度は自分が相手と対峙した。


「相手の硬度の計測は完了――腕部指部の打撃で破砕可能と確認。その際の腕部指部へのダメージは軽度なれど、戦闘終了後の要整備を求む」


 相手への接触によって、その体組織の硬さを測ったスズは、武器の携帯は無くとも自分そのものの機体強度のみで倒せると判断した。


「戦闘モードへ移行――周囲に与える被害は軽度――いきます!」


 スズは身を低くすると、そこから飛びかかるように右拳を振りかぶりながら地面を蹴った。蹴られた地面が抉られ、砕かれた土がつぶてとなって飛び散る。


 爆発並みの衝撃波を残して飛んだスズは、そのまま右拳を相手へと叩きつける。


 それを右胸の辺りに食らった相手は、スズが削った地面以上の破裂を起こし、右肩から先が砕け飛んだ。


「えええええぇーっ!?」


 一瞬で相手の半身をごっそり奪ったスズの驚異的力を見て、思わず委員長が叫ぶ。むしろ叫ばないといられない。 


 スズはそのまま初撃を見舞った反動を利用して体を回転させると、今度は左拳で裏拳を放った。それが命中した相手の左わき腹辺りが大きく砕かれる。


「――このまま胴体を真っ二つに破砕する予定でしたが――さすがゴーレム、硬いですね」


 スズはそう相手の硬度を評価すると、その高い防御力を崩すために、両の拳による連打を見舞い始めた。


 容赦も何も無い。削岩機で壁を解体するかのような勢いで、相手の体が崩れてゆく。しかも両腕なので削岩機並みの破壊力で二刀流である。


 夜の町並みに岩を砕く音が轟く。


 そして、圧倒的パワーを正面から食らったイルカ型怪生物は、ものの数分でただの固い土がごろごろと転がるだけになってしまった。


「――状況終了を確認――戦闘モード解除――強制冷却開始」


 土塊へと戻ってしまったイルカ型怪生物を見下ろすように立ち尽くすスズの体からブォーンと言うファンが回る音が聞こえてくる。加熱した機体を冷却しているのだろう。


「え、えっと……スズって説明では作業用の自動人形じゃなかったっけ?」


 押し潰されていたブロック塀からなんとか這い出してきた委員長が、恐る恐る近づいてくる。彼女自体その150キロという大重量を動かせる関節のパワーでぶん殴ったら、凄まじい威力であろうとは委員長も前から思っていたが、イルカ型怪生物を破壊したこの力は、自分自身を動かす間接の耐久力以上のものを発揮しているうように見受けられた。


「確かに私達自動人形オートマータは、基本的には常態維持の作業用にいる訳なのですが、常駐している場所そのものが戦闘フィールドになる可能性もありますので、私達一体一体にはそれなりに敵を排除できる程度の戦闘能力は持たされています」


 機械神と言う最狂の戦闘兵器の内部に突入して破壊しようと企む無鉄砲者などは普通いないのだが、それでも機械神が何らかの事情で停止した場合を強襲される可能性はあるので、オートマータ一体一体に高い戦闘能力も付与されている。


「私の飛行形態への可変能力は基本的には内部での高速移動のためなのですが、いざとなったら背面などに増加装備を装着して、戦闘機として空戦もできるんですよ」

「……そうなんだ」


 スズの凄まじい告白を聞いて、とりあえずなんとかそれだけ口にする委員長。委員長もゼファーも開いた口が塞がらない。


「うーん……これからはスズに魔法少女をやってもらえば良いような気がしてきた」


 魔法少女と名がついていても、魔法は変身時くらいで後は腕力勝負の殴り合いが殆どだから、それならば大パワーを見せてくれたスズでも出来るのではと委員長は思う。


「それは駄目ですぞ」


 首からカメラをぶら下げたゼファーが冷静に突っ込む。


「……やっぱり」


 スズに鉄塊マジカルステッキだけ渡して、後は別に変身しないでそのまま戦ってもらえば良いのではと思うが、やはりそうはいかない様子。やはり正当に継承されたものでないと務まらない血の掟があるのだろう。


「スズ殿ですと重すぎて我輩が風を当てても浮き上がらないかも知れませぬゆえ」

「そっちの理由かい!」


 単純に戦闘補助役の問題であるらしい。確かにスズは高速で動いたり空を飛んだりも出来るが、それは重量級兵器が内装された機能により一時的高機動を発すると言うことなので、身軽さとは異種のカテゴリーであるから、持ち上げ係のゼファーも困るのは仕方ない。


「まぁその話は置いといて、それにしてもなんでスズまで襲われたんだろう?」


 今回はスズの隠された力(本人はずっと大公開だったのだが)により危機は脱したが、スズが本当に無力な作業機械であったら凄惨な結果になっていたのかと思うと、委員長は胸のした辺りの骨に嫌な痛みを感じる。


「我らが、三人組みの攻撃隊と思われたのかも知れませぬな」


 現状から推測して、もっとも無難な答えをゼファーが出した。


「……そうなのかな?」


 その予想を聞いて委員長も、心半分は納得した。いつもはゼファーと二人組みだが、見た目が全く人間には見えないスズが、今回から加わった追加戦士のように判断されたのかも知れない。


「……最初に突撃した私をまずは封じて、次に物陰に隠れていた補完要員っぽいスズを倒して、最後にゼファーと差しで勝負を着けるって魂胆だったか……って、それって何気にゼファーが一番強くて総大将っぽくなってないっ!?」

「違いますのか?」

「キサマーっ! 私の苦労も知らんとーっ! 今度本当に水保から火炎放射戦車借りてきて薪にしてやるからね!」

「火炎を使う戦車いくさぐるまとの決戦、風使いとして望むところですぞ」

「――あの、残った破片が砂になっていますが」


 言い合いに興じる二人に、その後の状況を観測していたスズが、機械人形らしく冷静に告げた。


 魔法少女以上の破壊力を見せたスズに壊されて、体を維持できなくなったイルカ型怪生物が、砕かれた土塊より更に細かくなっていっていた。


「元々が土や粘土ではなく、この砂で作られていたのかも知れませんな」

「てことはサンドゴーレムってこと? 砂でなんて作れるの?」

「作れないことはないですが、凄まじい魔力が必要ですな。普通はそれだけの魔力があれば最強のアイアンゴーレムを作る訳ですし」

「じゃあ、この砂にも何か意味があるってことなのかな?」

「そういうことなのかも知れませぬ」

「一応この砂も写真に撮っとくか。後はサンプルに少し回収してと」


 壊してしまったブロック塀など残りの後始末は陸保に連絡してやってもらうことにして、とりあえず当初の任務は完了した委員長一行は帰宅の徒に着くことにした。


「すみません、まずは学校の方に行っても良いでしょうか」

「学校? なんでまた? もう夜だけど?」

「結構硬いものを粉砕しましたので、腕部と指部の負荷等を常駐の作業員の方に検査してもらいませんと」

「ああそうか、最後は全部スズがやっつけてくれちゃったんだもんね。よし、まずは学校だ。陸保とかの連絡はそこでやってもらえば良いね」

「娘殿、その格好のまま再登校されるのですか」

「……へ? ああ、忘れてた変身解除しなきゃ」

『――』


 また再びにぎやかな足音を響かせながら疾風高校への道を歩き始めた三人の後姿を、とある人物が見つめていた。


『既ニ護衛ヲ着ケテイルトハ、疾風弾モ中々ヤル。シカモソレガ我ラガ仇敵、魔法少女トハ。サスガ疾風弾ト言ウベキカ』


 それは東京湾の底でスズが潜水艦に回収されるのを遠くから見ていた、フード付きマントで体を覆った彼だった。


 今回は陽動を起こして、疾風弾財団所有物件の多いこの町を混乱させ、疾風弾所有のどの施設に自動人形はいるのかと判断するための策略だった。あの女総帥のことだから時期的に考えて隔離された重要施設から、民生施設へ移しての幅広い情報データ収集に切り替える頃だと踏んだのだ。


 そして今夜、その謀に乗って向こうの方から出てきてくれた。しかも仇敵を従えて。陽動作戦に投入した刺客は倒されてしまったが。


『向コウカラ最高ノ舞台ヲ整エテクレタノダ。此方モ最高ノ演技デ返ストシヨウ』


 本日生成に成功した砂のゴーレムの実力では、自動人形の捕獲は難しいことが分かった。多分護衛の魔法少女があのまま戦い続けたとしても、何れは砂のゴーレムの方が倒れていただろう。更なる高い能力を持つモノを作り出さなければ。


『シカシ――自動人形単体ガアレダケ強イノデアレバ、護衛ナド必要無イノデハナイカ? ダガソレモ疾風弾ノ思惑カ』


 彼はそう納得すると、その場から姿を消した。

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