二章03
それから委員長はスズが着替えるのを待つと、一緒に寮から出てきた。スズは委員長と同じく疾風高校の女子用セーラー服。私服は今のところ無いので外出着はこれしかないのであるが。
スズの重量では窓から出たら大変なことになりそうだったので、出てきたのは普通に正面玄関からである。もちろん寮母にはちゃんとおことわりを入れて、理由もちゃんと説明して出ることにした。剥き身の大バールも、寮母も何に使うのかは分かっているのでそのままスルーである。
「……」
寮の玄関から表に出ると、門の脇の花壇に一体のカカシが刺さっているのが目に入る。畑でもないのに何故? とみんな思うが、委員長が母から魔法少女を継承した直後から、このカカシはこの場所に刺さっている。
「……」
何故か強烈な存在感を放出しているそのカカシを極力無視するように、委員長が務めて平静のまま門まで歩く。感情の無いスズはそのまま後に続く。
その時
「――んっ」
突然不自然な風が吹き、委員長もスズも下から煽られるような風を受けた。制服のスカートが見事にめくれ、委員長は黒いオーバーパンツ、スズは腰部が曝け出された。スズは制服は着ているが下着の必要性は感じられないので未着用である。
「そちらの人形のお嬢さんも良いおヒップの造形をしておりますな。しかも剥き出しとは!」
どこからかロクでもない台詞が聞こえてくる。その発声源はカカシの刺さっている場所辺りなのだが、委員長はかたくなにそちらの方を見ないようにしている。
「出撃でしたら我輩も連れて行きませんとなりませんぞ娘殿」
「あの、今カカシが喋りましたが?」
自分の感覚器の反応からすると、その声の発せられた場所はカカシのいる所であるのは間違いないのだが、多分同じように聞こえているだろう委員長が、かたくなにそちらの方を無視するような態度を示しているので、確認のため尋ねた。
「スズ」
「なんでしょう?」
「聞かなかったことにしよう」
「それが最良の判断であるならば私は委員長さんに従います」
風にスカートをめくられたくらいなんでもないと、二人は何事もなかったかのようにすたすたと門へと向かうが
「ちょっと待つですぞ! 我輩がいないと魔法が使えませんぞ!」
委員長はそれを聞くと「チッ!」と盛大に舌打ちしながら、遂にカカシの方へと振り向いた。
「……アンタがいなくてもバールさえあれば、変身くらいは自力でできるんじゃなかったっけ?」
「それはそうなのですが、今の娘殿の経験値では無理ですぞ。母殿並の魔力の強さを持たねば」
委員長はそれを聞いて再び「チッ!」と盛大に舌打ちする。それとは別に自分の母が魔法少女としては意外に凄い人だったと改めて知って違う意味で感心してしまうが、その代償が腰破壊であるのも知っているので複雑な気持ちにはなってきてしまう。
「委員長さん、あのカカシさんは?」
「……私が魔法少女として戦う時のパートナーよ、不本意ながら」
スズの質問に委員長が苦虫を噛み潰したような顔で答えると、そのパートナーはスポッと花壇から抜け出て、片足跳びで二人の前までやって来た。
「改めて御挨拶させていただきまする人形の淑女よ、我輩は風使いのゼファーと申しますれば、以後お見知りおきを」
ゼファーが自己紹介しながら体全体を傾がせて頭を下げると、スズも「はじめまして」と頭部と腰部を動かしてお辞儀をしている。
「娘殿、この素敵な人形のお嬢さんはどうされたのですかな? 我輩にも紹介してくださらずに」
「キサマのようなド変態に、純真無垢なこの子を紹介したらこの子が汚れるわ!」
スズはある意味素直な女の子(破損している記憶回路の修正のために、多くの人と触れ合い、ある意味人間のような情緒をやしなう学習中でもあるので)であるから、ゼファーのロクデナシぶりを嫌と言うほど知っている委員長にとっては、一番近づけたくない相手であるに違いない。
「委員長さんはなぜそこまでゼファーさんを敵視するのですか? 一緒に戦うパートナーではないのですか?」
「……コイツはね、女の子のケツにしか興味がないのよ」
「ケツ?」
その意味するところが分からないスズは少し動きを停止した。人間で言えば首を傾げているという処か。
「ケツとはなんですか? 締結とか決議とかですか?」
「……お尻のケツよ」
そう説明されてスズは自分の記憶領域にある言葉から検索してみる。
「それは臀部の名称の一つとして見つかりましたが、ずいぶんと下品な言葉に該当します。委員長さんのような年頃の女の子が使うべき言葉ではありませんが」
「……良いのよ、コイツと付き合ってるとケツって言った方が精神的にも安定するのが分かってくるから」
「そうですか」
スズはそう返しながらも、自分のような自動人形にもケツとお尻の違いが分かってくるのだろうかと、少し考えてしまう。人間とは複雑な生き物だなと改めて記憶する機械の彼女であった。
「ゼファーさんは何を動力にして動いているのでしょうか?」
現状においてもう一つ分からないことがあるスズは、それを本人(?)へと尋ねた。
「動力?」
それを聞いた委員長とゼファーが声を合わせるように同時に聞き返した。
「私達オートマータであれば燃料電池、人間であれば心臓等。しかしゼファーさんには起動の要となる機構が私の感覚器からは感じられないのです」
「……そういえばゼファーって魔法生物なんだっけ?」
このロクデナシとパートナーとなって数ヶ月、その辺りの話は全くしていなかった(というよりもしたいとは微塵も思わなかった)委員長は、改めて訊いてみた。
「魔法生物というよりは魔法道具に近いですな。無機物に精神体が憑依しているような状態でありますし」
「え、じゃあこの鉄塊と同じ?」
右手に持っている大バールを委員長が左指で指し示す。
「マジカルバトンの方には我輩のような精神体は入っておりませぬが、同じか違うかを問われますれば同じと答えるしかありませんな」
「ではゼファーさんは魔法が動力ということになるのでしょうか」
「そうなりますな」
スズの問いにゼファーはそう答えた。
「私が以前常駐していた場所は、魔的な要素も加味して作られたものだったのですが、私自身はほぼ全てが機械仕掛けなので、魔的装備が未装備な私ではゼファーさんのような存在を感覚器で感知することができなかった様です」
スズ自身が機械神から落ちてきたとはあまり言わない方が良いとは雪火から言われていたので、その部分はぼやかして説明している。スズ自身も機械神がこの国では災害の一つとして指定されているのを教えられたので、無駄に混乱させてはいけないとその名称を出すのは控えている。
「でも今は視覚情報でゼファーさんを確認できていますので、ちゃんと動的個体として認識できています」
「すごいですな」
「一応私も学習進化型の機械ですので」
「何ごとも勉強ですぞ」
「はい」
「淑女たちの形の良いおヒップを見定める審美眼を鍛えるのも勉強ですぞ」
「はい」
「そこははいって言わなくて良いから!」
委員長はそう絶叫しながら右手の鉄塊でゼファーの頭を思いっきりぶん殴った。




