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灼熱の犬飼さん ~おおかみむすめの高校生活~(龍焔の機械神)  作者: いちにちごう
変形少女(仮)~東京湾物語3・龍焔の機械神~
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一章03

 艦体と桟橋の間に設けられた敷板の上を、スズが乗った車椅子を雪火本人が押して渡ってくる。オートマータであるスズの体自体は細いので大柄な人間用の大型車椅子では座席スペースが余ってしまってなんだか変な印象である。


 桟橋にいた臨検の者も完全に顔パスのまま、雪火はスズと共に目の前にあるパイプやら機器やらが複雑に絡み合った建物の中に入っていく。


「私はこれからどうなるのでしょうか」

「あなた自身はどうしたい?」


 スズの質問を、雪火は逆に質問で返した。


「――私が機械神から零れ落ちてきたのなら、そこへ戻るのが私の求める最良の選択肢だと思います」

「証拠隠滅のために自壊とかするって言い出したらどうしようかと思ったけど、ホッとしたわ」

「とりあえずそのような選択肢は私の記憶領域には見つかりません」


 軽く胸を撫で下ろす雪火にスズが付け加える。


「で、今のあなたが一番やるべきことなんだろうけど、あなたは機械神あそこへどうやって戻るか分かるの?」

「――……?」


 スズはそう問われて、自分の記憶領域から帰還の方法を取り出そうとしたが、その領域が空白なのかブロックがかかっているのか、必要な情報が分からなくなっていた。


「この脚部以外にも、記憶回路へかなりの損傷を受けた様子です。以前なら持っていた記憶が現状では取り出せない事柄が多量にあります」

「機械神へ戻る方法も?」

「そのようです」


 そう会話を続けながら雪火は車椅子を押してどんどん進んでいく。


 かなりの重要施設であるらしく、要所要所に警備の者が配置されていて、その都度ロックのかかった扉が立ち塞がっていた。どうやら潜水艦が帰還したこの場所自体が極秘に作られた場所であったらしい。もちろん雪火の姿を確認した瞬間、警備員がロックを開き、スズを連れた雪火はそのまま進んでいくのだが。


「機械神が毎回どこから現れてどこへ向かっているのか、あなたたちオートマータにはわかるの?」

「わかりません」


 内部で常態維持を任されているだけの機械仕掛けの群体たちには、そこまでの情報は知らされていない様子。だから重要機密破棄のための自壊も考慮されていないのだろう。


「じゃあ、機械神がまたいつ現れて……ってのもわからないってことなのね」

「そういうことになります」


 何度目かのロックつきの扉を潜り抜けた二人は、通路の奥にあったエレベーターへと乗り込んだ。もちろんここも警備付きである。


「そういえば『ようやく出会えたあなた』とおっしゃってましたけど、私のような個体が存在することを前から御存知だったのですか」


 エレベーターを降りて、自動人形を乗せた車椅子は最奥へと進む。そこには最後の扉。


「端的に言うと――そうよ」


 潜り抜けたそこは、建物中とは思えないほどの広大な空間となっていた。


「あれは」


 感情の無い自動人形であるはずの彼女が、思わず質問した。会話によって新たに情報を入手しなければならないと思うほどのものがそこにいる。


 巨人が立っていた。


 壁から突き出した何本もの支柱に支えられ、巨人はそこに固定されるように立っていた。


 サイズとしては東京湾に現れるスズを落としていった機械神に比べれば一回り小さいのだろうが、それでも80メートルはあっただろう。あっただろうと言うのは頭部が失われており、その分更に低くなっているからだ。


 しかしそうはいってもこれだけの巨体が目の前にいる威圧感は凄まじい。


「何百年と昔に、我が疾風弾重工の創始者が発見した機械巨人」


 スズの問いに答えるように雪火が詠うように語り始めた。


「長い時間をかけた解析を経て、機械使徒ディサイプルギアと呼ばれることだけはわかった」

「機械使徒……」


 スズはその名を聞いて少し記憶を探るように動きを止めると


「その名称だけは私の記憶領域に同名のものがあります」


 そう答えた。


「ほんと! いや~うちの解析班もちゃんと良い仕事してたのね、今度臨時ボーナスでもやるかな」


 スズの言葉を聞いて雪火は少女のように小躍りしながら喜んだ。


「それ以上のことはわかる? 用途とか?」

「――……すみません、記憶回路が欠損しているのかわかりません」

「まぁ今は良いや。それは記憶の欠損の他にも重要な機密を喋らないように頭の中にロックがかかっているのかも知れないし」


 雪火はそういうと、壁に固定された巨躯を見上げた。支柱に設けられたキャットウォークでは数人の作業員がなんらかの作業を行っている。解析作業は昼夜問わず続行されているのだろう。それも発見されたその日から。


「これがあなたが落ちてきた機械神の代替品なのか量産品なのかわからないけれど、たぶん機械神あれに似た物であるのは確かなのはわかっている。内部に入り込んでの解析もずいぶん進めたからね。私も何度か入ったことはあるけど、ホント凄いね。まるっきり地下迷宮みたいだったわ」


 解析というよりも探索よねと雪火が付け加える。そんな考古学の発掘を超える大掛かりな調査により機械使徒の中には、機械使徒の常態維持のために何らかの小型機械が数百体は常駐しているだろう痕跡は発見されていた。


 雪火の説明を聞いて、その解析による予想が大体あっているのをスズは伝えた。


「やっぱりそうだったか。でも、あなたのような物がいる痕跡は分かってたんだけど、まさかそのまんま女の子みたいな機械によって支えられていたとは、さすがに思いつかなかったわ」


 しかし、その内部作業用機械自体は、この機械使徒の中には一体も発見されなかったのだ。これがこの機械巨人の解析がままならない理由でもあった。


「まぁそれでもコイツを発見できてからいくらかの技術は解析してモノにできたんで、我が疾風弾重工はこの国では一番の重工業会社として君臨してこれたわけだけども」


 この巨体に秘められた超越技術オーバーテクノロジーから解析できた技術をフィードバックすることにより、疾風弾重工は他を圧倒する技術力を得た。そしてそれがそのまま、この国有数の資産を持つ財団組織の根幹となっている。


「それを色々踏まえて改めて説明すると、とりあえずあなたには色々修理が必要だと思うのよ、脚とか記憶とか」


 一通り大まかな説明を終えると、雪火は車椅子に座る機械仕掛けの少女に切り出した。


「それはそうなのですが」


 現状のスズは、右膝から下を失ってしまったので歩行ができないばかりか、空を飛ぶこともできない。車椅子という補助無しで動けるようにならなければならないのが、とりあえずの最優先だろう。


「記憶回路に関しては私たちがいじってしまったらあなた自身が壊れてしまうだろうから手出しできないけど、多くの人間に囲まれて、多くの会話を経験したら記憶が戻るかもしれない。これは人間に対する記憶の戻し方の処方だけど、あなたにも通用するかもしれない」


 記憶回路の欠損がそれで回復するのかどうかは不明だが、人間との会話を重ねる内に自分が使える語彙がたまり、そこから何かを引き出せるかもしれないのは確かだ。新たな情報取得も優先順位が高いとスズも理解する。


「と言うわけであなたに交換条件を提示したいと思うの」

「交換条件ですか」

「そう。あなたの右足と記憶を修復するのと引き換えに、あなたの活動データをサンプリングさせて欲しいの」

「私の行動情報収集ですか?」

「そうよ。せっかく動く個体としてあなたと出会えたのだから、あなたのことを解析できる限界まで解析して、更なる技術の取得を望みたい。そしてここに突っ立ったままの機械使徒こいつも動けるようにしてみたいしね」

「それが全て成功して機械神の中に戻る方法が整ったら、私はすぐさまここから消えてしまうかも知れません。私には感情がないので恩を感じることも、裏切りに罪悪感を感じることも無いでしょうし。自分の目的を達するために全力を尽くすと思います」


 機械の彼女は機械の彼女らしく自分に施された機能であり枷を素直に伝えた。


「そういう正直なところ、逆に信用できるね」


 雪火はそれを聞いてクスリと笑った。


「人間っていう笑顔の裏では平気で嘘を吐く生き物に比べたら、今のあなたの言葉の方がよっぽど信頼度は高い」


 彼女も財団総帥という重責にあるのだから、そのような行為には何度も遭遇してきたのだろう。だからこそ、スズの素直な言葉は信用できると。


「了解いたしました。私も提示された交換条件を承諾したいと存じます。私自身の修理必要規模を考慮すると、このような潤沢な資金がある組織で拾ってもらったのは幸いだったと思考します」

「そうそう。素直でよろしい」


 いかにも機械少女らしい正直な利己的な答えに、雪火はまた笑った。


「というわけでスズには、条件の一つとして学校に通ってもらいます」

「はい?」

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