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灼熱の犬飼さん ~おおかみむすめの高校生活~(龍焔の機械神)  作者: いちにちごう
灼熱の犬飼さん2 ~おおかみむすめの高校生活+魔法少女~(東京湾物語2・龍焔の機械神)
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灼熱の犬飼さん2 その4 05 ~うん、そうだよね、一人ぐらいしかいないよね~

「……」


 鬼越が立つ砂浜の前には何も無くなっていた。


 砂面が塗れ、かろうじてそこに水の魔物と呼ばれる異の存在がいたことを伝えている。


「……」


 魔法少女は尻餅をついて鬼越に引きずられてからまったく動けずに、その光景を震えながら見ていた。


 そして本来はそれを自分がしなくてはならなかったのだ。


 鬼を倒すために得た力を本来の目的に使えず、しかも倒すはずだった鬼が自分の代わりに討伐してくれた。


(いったいなんのために私はこんな姿にまでなって……)


 魔法少女がそうやって茫然自失となっていると、金棒を肩に担いだ鬼が近づいてきた。


「さぁ、続きをしようか」


 鬼が魔法少女を見下ろして再戦を促す。


「そ、それは……」


 引けてしまった腰は元に戻りそうも無い。


「まぁちょっと意地悪な言い方だったかな。アタシも水の魔物とやらをぶっ倒して随分と気が晴れたので、今は戦闘は満足だ。だからもうお前の気持ちが十分であれば今日は寮へ帰るか山本堵炉椎やまもとどろしー


「――!?」


 その名を呼ばれて魔法少女マジカルドロシーの体がビクンッと跳ねた。


「ゃ……ぇ……ぃ」


 どこの国の言葉か分からない言葉を口に出す魔法少女。


 鬼越の長台詞の最後に唐突に出た名前。山本堵炉椎――それは鬼越が属するクラスメイトの一人の名であり、それはあの委員長の名である。彼女は誰からも委員長と呼ばれているので、その名を失念している者も多いが、これが委員長の正式名称である。


「ぃ、い、いや、どろしーなんて名前の、他にもいっぱいいますよね? 私はマジカルドロシーですよ、髪赤いし眼鏡かけてないし山本堵炉椎さんとは別――」

「この国の電話帳なり住所録を最初から最後まで全部調べたとして、堵炉椎さんは多分一人だけだと思うぞ?」


 それを聞いて魔法少女ががくんとうな垂れる。


「うん、そうだよね、一人ぐらいしかいないよね」


 観念したのか、魔法少女マジカルドロシーは自分が山本堵炉椎であり委員長であることを認めた。ほんとなんつー名前を付けやがったんだと親を恨む。父か? 母か? ちなみに母は椎菜しいなという名で、少女時代なら良いだろうが37歳になった現在を考えると中々考え込まざるを得ない名前である。そして自分もいずれはそうなる。


「しかしマジカルドロシーと名乗った時点ですぐにバレるとは思わなかったのか委員長?」

「……名前にも強い言霊が込められているから、変に違う名前にするとゼファーから力が届かないと言われて」

「なるほど。確かにそれは分かるな。ゼファーというのはあのカカシの名か?」

「うん」

「それはそうと委員長、アタシがずっと気付かないとでも思ったか? お前の殺気というものに」


 魔法少女――魔法少女になっている委員長の前に金棒を下ろしながら片膝を突いて、鬼越が訊く。


「最初の転校当日からお前から鮮烈な殺気を浴びているのもずっと気付いていたぞ」


 鬼は当然のことながら人間より身体能力が高いので、五感に関する能力も高い。そして戦いを専門とする種族である。殺気を感じる力も高いし、同一の相手から何度も殺気を浴びていれば誰から向けられているものかも分かってくるようになる。


「委員長がその戦闘装束でカカシを連れて現れた時『そこまでしてアタシのことを倒したいのか』と逆に嬉しくなった。さっきは腰抜けと言ってしまったが、そこまでする勇気は認めるぞ」

「……」


 あまりにも戦いに対する心構えの違う相手の言葉を聞いて、委員長は自分が情けなくなった。


「……鬼越さん、なんで私が鬼越さんに戦いを挑んだか話さなきゃ」


 鬼越は委員長からの殺気をずっと感じ、それが委員長からのものだとずっと知っていても、今まで黙っていたのだ。そんな相手に対して、今までの経緯を秘密にしておくのは、あまりにも無謀だと委員長も悟った。


 鬼越の戦いっぷり(暴走っぷりとも言うが)を間近に見せ付けられて、すっかり委員長から毒気が抜けてしまった様子。だから全てを話しての贖罪を選ぶ。


「――どうやら委員長の事情を聞くのは場所を移してからになりそうだな」


 しかし耳の良い鬼越は、海の方から聞こえてくる異音に気付いたらしく、そちらの方に顔を向けていた。


「……?」


 委員長も海の方を見ると、海上を小柄な艇体の水上機械がこちらに向かって航行してくるのが分かった。水上保安庁所属の水陸両用戦車だ。そしてキューポラから上半身を出している女性戦車長は、鬼越には見覚えのある顔だった。陽子とヒトミを助けた時にやって来たあの戦車だ。


 水保の戦車は真っ直ぐこちらに向かってくる。朝から目撃情報のあった水の魔物を追っていたが、鬼越に最後の一体の退治を、先を越されてしまった形だ。電波探信儀からの失探が続いていたのかも知れない。元鉄車帝国兵ほどではないが、水の魔物も電探などに引っかかりにくい。


「やはり事情聴取とかあるのだろうか。アタシはあまり目立ちたくないのだが」


 水の魔物が消えてしまったのは水保側も分かっているのだろうが、事後処理と消滅した現場検証のために上陸しようとしているのだろう。そういった面倒くさいことには極力巻き込まれたくない鬼越の顔が渋る。


「だったら私が」


 だいぶ腰の感覚が戻ってきた委員長が立ち上がる。


「いいのか、任せて?」

「うん、それぐらいは任せて」


 せめてそれくらいは魔法少女としての責任を果たさないと色々申し訳ない。


「そうか、ならば任せた。状況終了後再び参る」


 鬼越はそう告げると金棒を担いで崖を登り沿岸道路の先へと消えた。


「……」


 さて、水保の保安員にはなんて説明しようかと今から台詞を熟考する委員長であった。




 二人は一端高校に戻り、それから寮への帰り道を一緒に歩いていた。


 委員長はまさか戦いの舞台が校外に展開するとは思わなかったので通学鞄の類は置きっぱなしであり、鬼越も金棒を入れておいたバッグを回収したかったので一度学校へ戻った。


 それから再び寮への帰り道を一緒に歩いているのだが、それだけ長い時間歩く時間があったのでお互い色々と話が出来た。二人とも普通に下校時の女子高生姿である。


 委員長も変身の解除は一人でも可能だった。それも含めてゼファーは委員長を一人でも行かせたのだろう。高校へ一旦戻るまではマジカルバトンと言う名のバールを剥き身で持ち歩いている女子高生というのも凄い絵図らだったが、隣りに剥き身の金棒を担いだ赤鬼(鬼越)がいなければ確実に陸保への通報対象になっていたに違いない。鬼越に関しては金棒を丸出しのまま持ち歩いていても「それが普通」と誰も不思議がらないのは、良いのか悪いのか。


 それとは別に、魔法少女となっていた時の委員長は到着した水保のお姉さま方に水の魔物出現の事情を訊かれていたのだが、母から受け継いだ8人の高官の名前が彫られた許可証を見せると、滞りなくすんなり進んだ。すごい。これだけとっておいて魔法少女関係の物は後は全部捨ててしまいたいところだ、特にあのカカシ。


 それはいずれ実行するとして、現状の説明を保安員相手したのだが、鬼越が望んだので彼女の名前を出すわけにも行かず、自分がマジカルバトンという名の鉄塊バールでぶっ叩いて倒したと伝えた。いずれは自分が本当にやらなければならないのだが「出来るのだろうか?」と今から不安になる委員長であった。


 そうやって鬼越の手柄を自分のものにしなければならないのも申し訳なかった。


「まぁ別に手柄が欲しくて倒したわけでもないしな」

「でも魔法少女って水の魔物倒したらちゃんと政府からお給料出るから」

「そうなのか? じゃあ今度飯でも奢ってくれ」

「うん、それは約束する」


 そんな風にしてまるで長年の親友のように委員長と鬼越は穏やかに会話しながら歩いていた。


 お互いの距離というか関係に不思議な安定感が生まれていた。委員長は鬼越と戦って、その直接的な強さもそうなのだが、精神的な強さも感じてすっかり陽子を取られた復讐戦への意気込みが削れてしまったのだった。


 だから委員長は、自分のアレルギーと、それにまつわる入学当初からの陽子への想いを全て話した。相手は自分の想像以上に聡明な相手だと分かったので、全てを隠すのは無駄だと知ったからだ。


「なんだアイツは結構心配していたが、嫁にしたいほど好いてくれる者がちゃんといたのだな、しかも入学当初から」


 委員長の告白を聞いて、まず鬼越が言ったのがそれだった。思わず苦笑してしまう。


「まぁ同姓であるのが難ありだが、アイツもいざとなったら同姓でも良いと言っていたような気もするし」

「……そんなこと言ってるんだ」

「アイツも他に同属がどれだけいるか分からんし、普通の人間でアレを嫁に貰おうという猛者が現れるのもかなりの確立だと思うからな」


 人間とは似て非なる亜人類の人知れぬ苦労を鬼越が語る。ちなみに鬼越はいざとなったら里の誰かと見合いをするのだろうから、意外に嫁の貰い手には苦労しない様子。


「しかし、アタシがほんの少し遅れてこの町にやってきたのなら、委員長は本懐を達成できていたのだな。それは済まないことをした」


 それを聞いて委員長は首を左右に振った。


「鬼越さんと戦って、今こうやって冷静な気持ちになって一緒に歩いていると、なんとなく分かったのよね。犬飼さんとなんの問題もなく一緒の部屋になっていたら、それはそれで鼻血を吹き出す毎日を送っていたような気もするのよ」


 それを聞いて鬼越は思いっきり吹き出した。


「ずいぶん好きになられたものだなアイツも」

「それだけの衝撃だったのよ犬飼さんとの出会いは」


 動物アレルギーで動物好きな委員長にとっては本当に僥倖だったのだ。


「まぁなんだ、お前が陽子に、秘密の想いを抱いているのはアタシも黙っていよう」

「どういうこと?」


 委員長の心からの吐露を、鬼越は自分の胸に秘めておくと言い、委員長はその申し出に当惑する。鬼越がこのまま陽子に全て話して、委員長もせっかくお近づきになれると思っていた陽子もふもふとは永遠の別れになると覚悟していたのにである。


「だからお前も鬼の一人が鉄車怪人であった事実は黙っておいてもらいたい」


 鬼越は、お互いが一つずつの秘密を持っているのだから、それを交換条件にして両者とも黙っていようと提案したいのだった。


「理由はお前が魔法少女として現れて最初にアタシに向かって言った話と同じだ。お前も鬼だから同じように怪人になる可能性は高い、と」


 委員長は偶然の産物として鬼貫の話を聞いたが、委員長の話の中で鬼越が一番気になっていたのはそこであったらしい。


「アタシも鬼であるから悪役であるのは自認する。怨まれるのは慣れている。しかし里からめいを受けた外の世界の見聞の役目もある。それを実行するには、そのようは負の要素は極力減らしていた方が良いのは分かるだろう?」

「……それでいいの?」


 交換条件としては、委員長の方が非常に重く、鬼越にとってはそれほど重いようには思えない委員長は、やはり困った顔になる。


「それでいいんだ。アタシはこれ以上話が複雑になるのを好まん」

「……うん」


 委員長も申し訳なく思うが、それ以上は口を噤んだ。鬼越がもういいと言っているのだから、自分はそれに従うのが償いなのだろう。


「……私にそれを教えてくれた保育士の人はどうなるの?」


 しかしあと一つだけ気になることがあるので、それだけ最後に訊いた。


「思わず口を滑らせてしまったものは仕方ない。だがアタシが今一度願えばもう少し口は堅くなるだろう。何しろこの国には鬼に嘘を吐いたら大変な目に合うという伝説も多く伝聞されているわけであるしな」

「……確かにそれは最高に強力な口止めね」


 それに鬼越は保育園の皆の命の恩人の一人でもあるのだ。その恩人との約束を見闇に破るようなことは今後もしないだろう。

 生まれながらにして悪役であるはずの彼女は、色んなところで人助けをしていたりする。


(……私、その意味でも最初から負けてたんだろうな)


 正義の魔法少女を継承したのに、正義のために水の魔物を倒せないばかりか、怖がって蹲ってしまっていた自分を、委員長は心底恥ずかしいと思った。


「……」

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