灼熱の犬飼さん2 その4 03 ~ほう、ちゃんと縞模様の下着をおめしになっているとは、中々古風な鬼娘殿ですな~
再び月曜日放課後、校舎裏。
退治する赤き鬼と赤き衣に身を包んだ少女。
「魔法少女マジカルドロシー、推参」
鬼越の前に降り立った赤き少女はそう名乗った。
「マジカル、ドロシー?」
「マジカルドロシーです! そこで区切らないで!」
どうも彼女にはマジカルドロシーという名前にこだわりがあるようで、鬼越の呼び方にそこは強調した。
「まずは訊こう。これは何のための果し合いなのか?」
「あなたを倒す、それだけ」
魔法少女が簡潔に目的を告げる。
「アタシが力及ばず倒されるのはやぶさかではないが、そうしてアタシを倒した後、何を望むのだマジカルドロシー?」
しかしそれでは余りにも簡潔すぎて、鬼越も不満の様子。戦うのは構わないのだが、自分が全力を懸けるに値する相手なのかもっと知りたい。
「私の要求はあなたにこの町から出て行ってもらうこと。出来れば鬼の里と呼ばれる場所に帰って欲しい」
魔法少女が再び目的を告げる。すらすらと出てくるところから見ると、そう訊かれるのは予想して喋るべき台詞を予め練習していたのだろう。
「この町から出て行くのは無理な話ではないが、鬼の里に戻るのは無理だ。一生かかるほどの役目を持って里から出てきたのでな」
「だってあなた、いつの日か怪人になるかも知れないんでしょ、あの黄色い鬼のように! 危険因子を早急に排除するのも正義の味方の務め!」
そこでようやく魔法少女が、感情的な台詞を口にした。
「黄色い――鬼貫のことか。中々情報通だなお前」
練習済みの淡白な台詞が続いたままだったら、このまま帰ろうかと思っていた鬼越だったが、彼女が意外な秘密を持っているのを知って考えを改めた。どうやらこちらも最後まで付き合わなければならないらしい。
「アイツは勧誘されて兵になったのだから、アタシも勧誘されなければ兵にも怪人にもならないぞ」
「でも怪人になった黄鬼とあなたは同属! ならばあなたも怪人となって暴れだす可能性は非常に高い!」
「アタシを排除しようとする理由としてはこじつけが多いようだが?」
もっともな意見を述べる鬼越。鬼越にしても戦う理由としてはまだ物足りない。もっとアタシを熱くしろと心の中で叫ぶ。
「問答無用! 鬼は倒されるべきもの!」
それを聞いて、ようやく鬼越がニヤリと笑った。
「ああ、それは確かにこじつけとしても限りなく正解だな」
鬼は生まれながらにして悪役だ。それは鬼越だって心得ている。
「だが、倒しに来た相手に対して全力を持って応じるのも、鬼の役目」
そしてそんな悪役の役割――倒しに来た相手に全力を持って立ち向かう。それも十分以上に心得ている。
鬼越は持ってきた長いスポーツバッグのジッパーを開くと、中身を取り出してバック自体は投げ捨てた。
「……か、金棒」
鬼越が上端が下になるようにドスンと地面に立てた、棘が何十本と付いた鉄の棒を見て魔法少女がおののく。
「アタシの友人が、なぜ鬼なのに金棒じゃないのだというので、今回の見聞の命ではこっちを持ってきた」
対トーマスホガラ戦用決戦武器であった爆槌も、倒すべき相手がいなくなってしまったので普段持ち歩く意味が無くなってしまったのだろう。大きくて重いので邪魔でもあるし。
「さて始めようと思うが――お前の方は二対一か? 正義を名乗るには卑怯ではないか?」
魔法少女の後ろに静かに佇立するカカシを見て鬼越が問う。
「こ、これは……そう、武器! あなたが持ってる金棒と同じ武器!」
「ではお前が手にしてる大釘抜きはなんだ?」
「これは……これも武器! 私、二刀流だから!」
「なるほど、アタシも二刀流の剣豪とは相見えたいと思っていたところだ。いつもの倍は力が出せそうだ」
「――!」
更なるヤル気(殺る気)を見せる鬼越。どんどん悪い方向にしか進んでいかない現状に、委員長は寒気を覚えた。
「しばし待たれよご両人」
そんな状況下、今まで黙っていたカカシがそこで口を挟んだ。
「娘殿が戦いに臨む理由、我輩には余りにも利己的過ぎるように見受けられまするが」
鬼越の方はそれで理由としては許したのだが、これから新魔法少女となった彼女のパートナーになるこの可愛いマスコット(?)は、納得がいかなかった様子。
「我輩は水の魔物を相手にして戦うのなら協力は惜しまぬですが、自分の都合だけの戦いであれば力は貸しませんぞ」
「ちょ、ちょっと!?」
そしてこの土壇場になっての力貸さない宣言。戦いのパートナーまでが悪い方向に進ませようとしない。
「あんたが『戦いに躍動する鬼殿のおヒップも見たい』って言うからあんな恥ずかしい追伸まで書いたんじゃない! どうしてくれるのよ!」
「なに、今の娘殿は単体でも強い。あの金棒でぶん殴られても骨が砕けるくらいですぞ」
一応、即死は免れるらしい。この魔法少女用スーツも中々の防御力……という問題でもない。
「相手も二対一は卑怯だと言っておられたし、とりあえず娘殿一人で行って来なされ」
「そっちにいるカカシはお前よりも物分りが良いようだな、アタシはどちらでも構わぬのだが」
戦闘開始直前の自分をそっちのけで言い合っている二人(二人?)に、早くしろ的に鬼越が突っ込んでくる。
こんなド変態よりも物分りが悪いと言われて魔法少女も何ともいえない怒りを覚えるが、このド変態が戦いに介入してくれないのは非常に困るのも確か。
「あ、あの……鬼越さん?」
「なんだ?」
「きょ、今日はその……中止って、ことで……」
「却下」
鬼越の瞳が、委員長の願いを断ち切るようにギラリと光る。
「ここまで体の芯を熱くしてくれたんだ。それが冷えるまで少しお付き合い願おうか」
もう待てんといった風に、鬼越が金棒を振り上げた。加減というものがまったく加わってない一撃が魔法少女へ振り下ろされる。
「!?」
それを魔法少女は横っ飛びでかわす。直前まで立っていた場所に金棒が叩き付けられ、地面を抉り爆発でもしたかのように土砂が吹き飛ぶ。多分普通の人間だったならば逃げ遅れてペシャンコだ。
「……う、あ」
魔法少女は魔法少女としての身体能力をフルに使ってその惨劇を回避したあと――そのまま逃げ出した。
「正義の味方を名乗る者が勝手に逃げるな!」
もちろん鬼越はそれを追う。金棒を振り回して。
「これは戦略的撤退です!」
「それを逃亡というのだ!」
魔法少女が逃げ出して、赤鬼がそれを追う。
一人残される形になるカカシは、魔法少女を追う鬼越のスカートに風を送ってめくってみた。縞パンだった。せっかく果たし状をもらったので、鬼越も全力勝負のために園児からもらった勝負パンツへと寮に戻った時に穿き替えてきたのだった。
「ほう、ちゃんと縞模様の下着をおめしになっているとは、中々古風な鬼娘殿ですな」
しかしその着用する下着の理由を知らないカカシは、それを鬼が古来から着用する虎縞下着と思った様子。
「さて、我輩は事が終わるまで年若き淑女の皆様のおヒップでも観賞させていただきながら待ちますかな」
カカシはどうしようもなくろくでもない台詞を残すと、自分も校庭の方へと片足跳びで跳ねていった。




