表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灼熱の犬飼さん ~おおかみむすめの高校生活~(龍焔の機械神)  作者: いちにちごう
灼熱の犬飼さん2 ~おおかみむすめの高校生活+魔法少女~(東京湾物語2・龍焔の機械神)
37/78

灼熱の犬解さん2 その3 02 ~おやつ代は一人500円までですよ~

 その日の午前中の時間帯。


「まだ電探には映らない?」

「ちょっと待ってください――あ、今光りました! 11時の方向距離800メートル!」


 操縦手が操縦席に据え付けられている電波探信儀に映った輝点から距離を目測し告げる。


「……よし、目視でも確認した」


 キューポラから上半身を出している戦車長が双眼鏡で11時の方向を見ると、きらきらと陽光で輝く海面の中で、高波とは明らかに違う形できらきらが盛り上がっている部分を見つけた。


「進路左へ30度修正、現11時方向を正面に」

「了解」

「弾種、トリモチ硬、装填」

「了解」


 目標を発見した車長が矢継ぎ早に指示を出し、操縦主と狙撃手がすぐさま応える。


 陽子たちの通う高校のある地域の沖合いでは、朝の時間帯から追撃戦が行われていた。海上を水保所属の水陸両用戦車が高速で航行している。


 早朝の漁から帰ってきた漁師から「水の魔物を見た」と通報が水上保安庁の方に入れられた。その目撃情報は二体。そして今こうしてその内の一体を捕捉したのだ。


「目標との距離が500メートルになりました」


 電探に映る輝点が近づいてきたのを操縦手が報告する。


 普通は戦車に電波探信儀なるものは付けられることはないが、水上保安庁の水陸両用戦車の場合、主戦場が水面であるので標準装備となっていた。


 しかし開けた水上でも失探してしまうことも結構あるので、あくまでおまけの装備だと認識している戦車乗りは多い。


「400まで詰める。弾は無駄にしたくない」


 500メートルを切ればもう双眼鏡無しでも目標が見える。海面から人の上半身をひょろっと伸ばしたような物体が浮かんでいる。ほとんど透明なので周りの海水がカモフラージュになっているが、経験を積んだ水保の戦車乗りであればちゃんと判別できる。水の魔物だ。


「了解」


 操縦手が更に距離を詰めるためにハンドルを回す。


 トリモチ弾の最大射程は500メートル前後だが、普通は最大射程で当たるものではないので、戦車は更なる接近を行う。


「距離400を切りました」

「よし、第一射、!」


 車長から発砲指示が下令され、既に照準を終えていた射撃手が発射レバーを引く。


 トリモチ弾とはいえ射撃時の風圧は凄いので、戦車長が多少顔を守る仕草をした直後、主砲から砲弾が放たれた。


 それは狙い違わず、海上を航走していた水の魔物の背中にヒットした。トリモチ弾の弾着の圧力は水の魔物の背面を大きく抉り取る。削り取られた体の一部だったものは千切れ飛んで海面へと落ちた。それは海底へ沈むうちに跡形もなく海水に溶け出す。


 しかし直撃を食らった水の魔物はそれでも消滅には至らず、進路を変えようとしていた。


 水の魔物がもっとも好むフィールドは、海岸などの沿岸部である。沿岸道路などに阻まれて戦車の電波探信儀の電波は届かなくなるし、町中よりも水(海)に近い方が湿気が多いので活動に適している。


 そして相手がそのように上陸作戦に適した相手だからこそ、専門駆逐組織として設立された水上保安庁の主要装備も水陸両用戦車なのである。


「次弾装填、弾種、トリモチ硬」

「了解」


 車長が次なる発砲準備を指示し、射撃手が自動装填装置でトリモチ弾を再び選択する。


「それにしてもトリモチ弾って便利ですね、水の魔物にも鉄車怪人にも使えて」

「まったくだわね」


 目標へ向けて舵を取る操縦手がそんな風に言うと、車長もそう答えた。


 水の魔物という異の存在は、相手の体組織の構成防御力を上回る攻撃を連続して当てて、その体を維持できなくなるまで細かくしてしまえば殲滅が可能である。


 つまり少しずつ引き千切っていけば倒せる。もちろん爆撃などで一瞬にして吹っ飛ばすことも可能であるが、被害拡大を考えれば毎回そんなことをしていられないのは想像の通りである。


 元々水の魔物相手には散弾などを使っていたのだが、それでは周りに与える被害が大きいということで初期の駆逐戦では水保側も思うように発砲できず苦戦していた。徹甲弾や榴弾では威力がありすぎて突き抜けてしまい最初から役に立たなかった。一応火炎放射戦車なども有効であったらしいが、超接近戦となってしまうためにごく初期に使われただけらしい。


 そんな苦労の連続の初期での戦いの後、鉄車怪人の足止め及びダメージ蓄積用に用意されていたトリモチ弾が水の魔物にも有効であることが分かり、今では水上保安庁の戦車全車両の標準装備となっている。


 基本は対人用に用いられるゴムスタン弾を戦車砲サイズにスケールアップしたものなのだが、発射されると切れ込みが開いて十字形になる弾頭部分が、グネグネとしたトリモチ状に化学変化するのだが一体いかなる仕掛けによってそうなるのかは、水保に戦車を納入している疾風弾はやてひき重工の企業秘密なので、そこから先はうかがい知れない。


 トリモチ弾は硬度の違いで二種類あり、人体に当たっても最悪気絶程度で済む軟らかいものと、目標にダメージを与えるのも考慮し硬いまま撃ち出して着弾後に軟らかくなって改めて拘束するものとがあり、発砲の際に選択する。鬼越が鉄車怪人と組み合っている時に放たれたのは前者であり、もしヒトミが捕まったままであれば万が一当たった際の園児の体力を考えて、前者の軟らかい弾種でも発砲できなかった筈である。その意味でもあの時の陽子と鬼越の活躍は大きかった訳だ。


「目標が上陸したわ。これ以上の内陸への進行を阻止する。第二射は足元へ発砲、照準!」


 車長の新たな指示が飛ぶ。


 水の魔物も消滅するのは嫌なので、危険を感じれば身を隠しやすい町中に逃げ込む。それでも河川などの水系を目指して移動するので進路を予想するのは容易いが、やはり町の中に逃げ込まれては戦車の図体では追撃は困難になる。


 だから沿岸部を主戦場にしたいのは水保も同じなのだ。


「照準よし」

!」


 水陸両用戦車から第二射が放たれる。それは砂浜へと上陸した水の魔物の肥大化した円錐状の下半身に当たり、相手を前のめりに転倒させた。


「よし! このままこちらも上陸する。上陸後位置固定ののち、連続射撃にて殲滅」

「了解!」「了解です」


 水陸両用戦車も水の魔物に続くように砂浜に乗り上げ、動きが鈍った相手に連続射撃を与える。これだけの至近距離で、下は水面ではなく安定した場所なので、正確無比かつ無慈悲に連続ヒットする。


 とりあえずトリモチ弾(硬)を7発撃ち込んだところで水の魔物は体を維持できなくなり、あとは細切れの水の塊になって砂浜へとバラバラに転がった。


「よし、状況終了を確認」


 それが程なくして溶けるように砂の中に染み込んでいくのを確認すると、戦車長が追撃戦の終了を宣言する。


「ふぅ、とりあえず一体撃破ですね」


 額の汗を脱ぐいながら射撃手が言う。


「もう一体はどこにいるのやら」


 操縦手も息を吐きながら戦闘で強張っていた体の力を抜いた。


「本部へ連絡。こちら六番隊一号車」


 車長は通信用のマイクを取ると水上保安庁本部への連絡回線を開いた。


『こちら本部。どうぞ』

「六番隊一号車、水の魔物一体撃破」


 本部へ通信が繋がると水の魔物の撃破報告をまずは入れる。


『こちら本部、水の魔物一体撃破了解』

「本部へ連絡。今後の追撃続行のために現地休憩を承認願う」


 しかし目撃情報のあった水の魔物はまだ一体残っている。これで終わったわけではないので、再出撃のために三人とも少し休みたい。


 自分たちの基地へ詳しい戦果報告を含め一旦帰れば、ちゃんとした休憩も取れるのだが、ここから水保の根拠地である第参東京海堡に帰還するのは手間なので、現地で休憩時間がもらえるように申請した。


『こちら本部。現地休憩承認、時間は30分。おやつ代は一人500円までですよ』

「わかってます。六番隊一号車了解」


 その申請は問題なく通る。自分たちが休んでいる間は、他に海上を走り回ってる隊がカバーしてくれるだろう。


「とりあえず30分休憩もらったわ、休みましょ」


 本部との連絡を終えた車長が部下にそう促す。


「やったー」

「ふぅ、やっと一息吐けますね」


 休憩の決まった三人は まずは車外に出て砂浜に降り立つと、体を伸ばすストレッチを思い思いに始めた。


「朝ごはん買ってくるわ。何がいい?」


 腕を伸ばす運動をしながら他二名に車長が訊く。車内にも備蓄のレーションは積んでいるが、せっかくの外での休憩なので外での食事を楽しみたい。それに外での休憩の場合は軽食費として一回500円まで支給されるのだ。


「おにぎり!」

「サンドイッチ!」

「じゃあ間を取ってハンバーガーね」


 二人の意見をスルーしての即決の車長。一応間は取ってるらしいので意見は尊重はしているのだろうか。


 しかし即決ならば何のために訊いたのかと二人は思うが、目と鼻の先にファーストフードショップがあるのが見えたで、多分そうなるとは他二名も最初から思っていたのだが。


「じゃあ整備と点検よろしく頼むわ」

「了解です」


 このような待機状態では、戦車長は連絡や物資の補給要請や受け取りのために車外に降りて走り回り、残った者は戦車の修理点検を行うのは、WW2で戦車運用が系統化されてからどこの国でも行われるルーチンワークとなっている。


 と言うわけで愛車の常態維持を任せた戦車長は、部下と自分の分の食料を求めて沿岸道路沿いのハンバーガーチェーン店へと走るのであった。




 戦車長が食料を調達してくるのと同時に、基本整備と基本点検を終えた操縦手と射撃手は、三人連れ立って沿岸道路下のコンクリートで造成された斜めの崖に腰掛けると、そこで遅めの朝食を始めた。


「それにしても東京湾、綺麗になりましたよね」


 朝メニューセットのハンバーガーを頬張りながら、操縦手が感慨深げに言う。


「ほんとね」


 コーヒーを一口飲みながら車長がまったくだと答える。


「こんな真っ青になるなんて15年前は夢にも思いませんでした」


 ハッシュドポテトを齧りながら狙撃手がうなずく。


 この東京湾も以前は、首都近海にありがちのヘドロが堆積した緑色の海、そんな印象だった。


 それが今では南の島並――とまではいかないがかなり透明度の上がった様相を見せている。


 水の魔物が多量に出現するのは東京湾の水質に問題があるとの情報を入手したこの国の政府は、一つの内湾規模の、大掛かりな水質改善計画を打ち出した。


 その計画に則りこの屈指の重工業である疾風弾はやてひき重工が東京湾各所に特殊浄水工場を鉄車戦役後に設置、出現当時はそれこそチャリオットスコードロンでも手に余るほどに出現した水の魔物数を、15年という時間をかけてかなり減少させることができた。最近になって再び増えだしたが、それでも全盛期に比べれば大した数の増加ではない。


 そしてその恩恵として東京湾は、透き通るような蒼き海となったのである。


 東京湾を丸ごと水質改善させるにも相当な技術が必要だが、疾風弾重工は鉄車戦役時に鉄車帝国、そしてチャリオットスコードロンが有したオーバーテクノロジーの数々を入手し、その技術が応用されているとは噂されている。


 しかし疾風弾重工はこの国有数の財団連合である疾風弾財団の中心組織でもあり、疾風弾財団そのものもチャリオットスコードロンの元隊員となんらかの関係があると言われているが、相手が相手であるだけに政府といえども迂闊に立ち入れず、その情報の殆どが非公開なのが現状である。


 ちなみに水陸両用戦車を始めとする水上保安庁が装備する機材の納入はほぼ全て疾風弾重工が行っており、創設から今日に至る運営まで殆どの出資を疾風弾財団が行っているので、ほぼ疾風弾の息のかかった半ば民営組織となっている。


 更には陽子たちが通う高校も一応は公立校なのだが、水保同様に創立から運営までその出資の殆どが疾風弾財団から出されているので、柔軟性の高い半ば私立校のような校風なのはそのためである。


「今日は一日海の上で仕事かな」


 そんな疾風弾重工製の戦車に乗って午前中の大半を海上で過ごしていた戦車長が、自分たちの庭とも言える青き東京湾を見ながら、コーヒーを飲み干しつつポツリと言った。


「そんな縁起の悪いこと言わないでくださいよ」

「そうですよそんな物騒なこと」


 その予想に部下から抗議の声が上がる。


 もう彼女たちにとっては水の魔物という脅威が現れるよりも、それを追い掛け回して一日中狭い戦車の中で波に揺られるのが、縁起が悪く物騒なことである。


 本日彼女たちが家(基地)へと帰り着くのは何時であろうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ