灼熱の犬飼さん2 その3 01 ~まるで恋をする乙女のようにときめきの瞳の輝きを放っている鬼越。うん、気味が悪い。~
翌週休み明けの月曜日、登校時間の高等学校下駄箱付近。
「お?」
自分の上履きが納められている下駄箱の蓋を開いた鬼越は、彼女らしからぬ頓狂な声を上げた。
「どうしたの珍しい声上げちゃって?」
同じように上履きに履き替えていた陽子は、鬼越の変な声に気付いた。
「え、なになに、ラブレターでも入ってた?」
「そうかも知れぬ」
「え!? マジで!? ちくしょーっまさかミユキに先越されるとはっ!」
一人でおかしな状態になっている陽子は置いといて、鬼越はその場で封を開いた。「これが恋文というものなのか」と一瞬鬼越は思ったが「鬼に恋の文など送ってくる者など居まい」とすぐにその考えは霧散した。
「おおぉ?」
そして中身の文面を見た瞬間、再び彼女らしからぬ声が出てしまった。
「……とてつもなく素敵な贈り物を貰ってしまったようだ」
「え? なに、また縞パン?」
「果たし状だ」
それを聞いた瞬間「ぶほぉっ!」と陽子は吹き出してしまった。
「は、は……はたしじょう!?」
「ああ、しかもアタシが鬼であることを分かって送りつけてきたのだ。その揺るがない勇気、わくわくする」
まるで恋をする乙女のようにときめきの瞳の輝きを放っている鬼越。うん、気味が悪い。
鬼越が陽子相手なら隠すものでもないだろうと中に入っていた便箋を彼女にも見せた。
前略
赤鬼、鬼越魅幸殿
貴女へ果し合いを申し込みます
本日16時、体育館裏まで一人で来られたし
「すげー、ほんとに果たし状だよこれ」
まさかそんなものが実在して、自分が実際に見ることになるとは思わなかった陽子は素直にびっくりした。
「しかし最後の一文が気になってな」
「へ?」
追伸、ミニスカートを絶対に穿いてきてください
文面の最後にはそう書き添えられている。
「絶対?」
「絶対」
その「絶対」という文字が妙に引っかかる二人が言葉を繰り返す。
「でも今のミユキは制服なんだから別にいいじゃない。そのまま行けば」
「まぁそうなのだが、変に気になってな」
「……で、行くの?」
「無論だ」
戦いの種族である鬼が戦いを申し込まれたのだ。行かなくては矜持に反するばかりか、里に残る仲間達に立つ瀬がない。
「しかし本日はアタシあての荷物が夕方くらいに届く予定になっているのだが……困ったな」
だが鬼越には先約があったらしい。
「え、そうなの? じゃあボクが代わりに受け取っておいてあげるよ」
鬼越のその予定には、陽子が代理人としての声を上げてくれた。
「それは非常にありがたい申し出だが、お前は友人の一人が果し合いを申し込まれたと言うのに心配はしないのか?」
別にしてくれなくても一向に構わないのだが、陽子が特に動じたりもせず普通なのが気になったのだ。多分こういう場面では「一緒に行こうか?」などと、行かないまでもとりあえず言うのが普通なのではないかと思う。
「だってミユキだったら大概の相手は一人でぶっ飛ばせるでしょ? 敵わないのは鉄車怪人くらいで」
「……それは頼られているのか変なもの扱いなのか」
「ボクが始めてミユキに体育館裏に呼び出された時も、クラスのみんなはボクに対してそんな感じだったよ」
「……お互い難儀な体に生まれたものだな」
多分陽子なら鬼越とやりあっても走って逃げれば大丈夫などと言われたのだろうと鬼越自身も推測する。そしてそれは正解である。
「二人ともおはよう、どうしたの?」
鬼越が便箋を再び封書にしまい鞄に入れたところで後ろから声がかけられた。
「あ、委員長おはよう」
今日も眼鏡に三つ編みのばっちり委員長スタイルの委員長がそこにいた。陽子が朝の挨拶をする。
委員長も寮生活なので同じ場所から登校するのだが、意識していないと意外に顔を合わさないものである。
「おはよう委員長」
「鬼越さんは下駄箱になにか入っていたみたいだけど」
遅れて鬼越が挨拶すると、委員長はそんな風に返した。鬼越が下駄箱から封書を取り出すところからの一連の流れを見ていた様子。
「なにかしら、ラブレターでももらったのかしら?」
更なる委員長の追及。委員長らしく注意対象にするのだろうか。
「残念ながらその類の文ではなかったな」
「そう? あなたのことを殺したいほど恋焦がれている人もいるんじゃないの?」
「恋するほどの私怨か……それも否定できないな」
委員長の詩的な指摘に、鬼越は感慨深げな顔になる。
「鬼とは恨みをかってなんぼの生き物だ。どこで誰がどれくらいアタシにそんな想いを抱いているかなんて正直分からん数だ」
「……私ちょっと職員室に用事があるから先に行くわ」
委員長はそう良い残すと、自分たちの教室がある方とは違う方向に歩いて行った。
「あ、うんまたあとでね」
陽子が声をかけるが、委員長は既に廊下の角を曲がるところだった。
「殺したいほど恋焦がれ、恋するほどに怨む、か」
廊下を進みながら独り語ちる。
確かにこの気持ちはある意味恋なのかもしれないと、自分で改めて口にしてみて委員長もそう思った。
「……」




