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灼熱の犬飼さん ~おおかみむすめの高校生活~(龍焔の機械神)  作者: いちにちごう
灼熱の犬飼さん2 ~おおかみむすめの高校生活+魔法少女~(東京湾物語2・龍焔の機械神)
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灼熱の犬飼さん2 その2 03 ~忘れ物っていうか……確かに忘れ物っていわれれば忘れ物なのかもしれないけど~

 土曜日授業終了の午後。


 委員長は寮には戻らず、電車とバスを乗り継いでとある場所を訪れていた。


「一ヶ月ぶりくらいかしら、帰ってくるの」


 そう、ここは委員長の地元である。のどかな景色が広がる。


 一応は町という括りになっているが、畑や果樹園なども至るところにあり、彼女の実家も御多分に洩れず、家の目の前は作物を育てる土地となっている。


 そんな彼女の家が所有する畑へと委員長がやってくると


「――!」


 何の前触れもなく強い風が吹く。委員長の脚を下からなぞる様に吹き上がった突風は見事に彼女のスカートを舞い上がらせ――その中の黒いインナーを晒させた。


 意外にも委員長はブラックなセクシー系の下着を着用しているのかと思いきや、それはオーバーパンツの黒である。


「……まったく、なんでうちの前に来ると必ず風が吹くのかしら」


 乱れた裾を直しながら委員長が溜め息を吐く。ビル街であれば常にそこにはビル風が滞留しているであろうが、この辺りにはそんな高い建物がある訳でもなく、また山から吹いてくる風にしても遠くに見える山並みからこの辺りまで風が届くこともありえない。土壌的に風の起こりやすい土地なのだろうかと思うのだが、委員長も良く分からない。


 ただ、毎回毎回謎の風にスカートをめくられるのも癪なので、いつの頃からかオーバーパンツをショーツの上に穿くようになった。他人にその痴態が見られる危険などほぼ皆無ではあるのだが、やはりどこか許せないものはあるのだ。


 風の悪戯が起これば、中身がそんな物でも眼福ものな光景であるのは確かでもある。だがそんな風が起こした偶然に嬉しがる者は周りにはいない。人っ子一人いない。首都の隣の県はいえ、田舎な場所は田舎なのである。


 何かいるとすれば彼女の家が所有する畑の中心に立つカカシくらいのもの。


「……」


 畑の中心に立つソレ。


 異常なまでの存在感を見せ付ける――ソレ。


 リアルな人形とかそんな作りではまったく無く、十字に組み合わせた棒に適当な顔を付けて笠を被せ、軍手と衣服をあしらっただけのシロモノ。キングオブシンプルイズベスト。


 顔にしても点や棒だけを描いたぞんざいなものでしかないのだが。


(……なんか見られてるような気がするのよね)


 しかしその異常なまでの存在感により動物の類が寄ってこないので、委員長の家の畑は小さいながらにいつでも豊作である。


「……」


 委員長は積年の違和感を振り払うように、カカシをそれ以上極力見ないようにして家へと急ぐ。今日は大事な話をする為に家に戻ってきたのだ。こんなところで心が乱されてはいけない。


「ただいまー」


 畑を通り過ぎ玄関に辿り着く。山本と表札のかかる家の玄関を通る。靴を脱いで下駄箱にしまう。


「……」


 さっきのカカシほどではないが、ここにも違和感を感じさせるものが一つ長年置いてある。玄関を入って横にある下駄箱の上に鎮座ましましする鉄塊が一振り。


 バールである。


 釘抜きなどに使う大工道具の最上位バージョン。家屋の解体などに使う全長1メートルはあろうかという鉄の塊。


 かなり使い込まれた感じはするのだが、塗装の剥げなどはあまり見られない不思議な一品。玄関先のちょっとしたスペースに、本来なら木彫りの動物や花瓶に活けた花などを置いておくような所にそれはある。


 しかしただの置物という訳でもなく、委員長が気付くとたまに無くなっている時があるので家族の誰かが実際に使っているのだろう――家族といっても基本的には母親だけだが。


「ただいまー」


 玄関を抜け居間に入りもう一度ただいまを言う。


「おかえり」


 テレビを見ながらお茶を飲んでいた女性が振り向いた。委員長のそのほぼ唯一とも言える家族の母親である。委員長に兄弟はいない。父親もいることはいるのだが殆ど家にはいない。別居状態という訳でもなく、母が言うにはあちこちを飛び回る仕事をしているという。前に「マグロ漁船の船員?」と委員長は冗談交じりに訊いてみたことがあるのだが「それに近い」と返された。そんな仕事であるらしい。


「どうしたの急に帰ってきて? なんか忘れ物?」


 娘の突然の帰還だが特に驚いた様子も無く「お茶でも飲む?」と、ポットから急須にお湯を入れ茶箪笥に手を伸ばし新しい湯飲みを取り出すと茶を注いだ。


「忘れ物っていうか……確かに忘れ物っていわれれば忘れ物なのかもしれないけど」


 娘の方も毎日そんな風にしているかのように、テーブルの向かいに座り、出された茶に口をつける。出がらしのいつもの味。美味くもなく不味くもなく、多分それは安心という味。


 急に帰ってきたのにいつもながらの雰囲気。委員長は入寮してから一度も実家には戻っていない。実家に戻る時間を消費するのなら、一つ屋根の下で生活しているあのもふもふを眺めていたい。


「……」


 しかし今日は特別な想い――一つの想いを胸に秘め、ここへ舞い戻ってきた。その理由の中心にあるのもあのもふもふ。


「……母さん」

「なによ?」




「――私、母さんの仕事、継ぎたい」

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