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灼熱の犬飼さん ~おおかみむすめの高校生活~(龍焔の機械神)  作者: いちにちごう
灼熱の犬飼さん2 ~おおかみむすめの高校生活+魔法少女~(東京湾物語2・龍焔の機械神)
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灼熱の犬飼さん2 その1 02 ~ぃぃんちょぅ?~

「いやぁごめんね委員長、つき合わせちゃって」


 放課後の時間。


 校庭の一角に棒高跳びの設備一式が揃えられている場所に、陽子と委員長の二人がいた。陽子は陸上用のスポーツウェア、委員長はセーラー服のままである。


「な、なにいってるのよ、クラスメイトが困ってるのなら手伝うのは当然でしょクラス委員なんだから」

「そういってもらえるとありがたい」


 陽子がそう言って伸びをしながら空を見上げる。お昼を過ぎてくらいから徐々に雲が出始め、今では薄曇りである。


「いやー、イイ部活日和だー」


 全身に毛が生える狼人にとっては体を動かす絶好の気候だ。


「なにがいい部活日和よ、結局授業の殆どサボってたじゃない。日直だって全然やらなかったし」

「うわははは、ごめんごめん」


 委員長の突っ込みに陽子が苦笑しつつ答える。


 午前中はかなり強烈な夏日だったのだが、午後から涼しくなっていた。そのおかげで大分体調の回復してきた陽子は、放課後からの部活動だけは出ようと思っていたのだ。もちろん午後の授業は全て机に突っ伏した状態で回復に努めていたのもあるが。


「それにしても授業全部寝て潰して部活だけ出るなんてとんだ遊び人よね」

「あはははは、めんぼくないです」


 ペコリと頭を下げる陽子。


「でも委員長が手伝ってくれるって言ってくれて助かったよ。せっかく棒高跳びの道具借りられる日だったからね今日は」


 専用の高い支柱を見上げながら陽子が言う。


 陽子は鬼越との大喧嘩等の接触の後、そして鬼越が自分の下に帰ってきてくれてからは、普通の人間に合わせて運動するのを止めてしまっていた。


 具体的に言うと、走り高跳び程度の高さでは背面跳びやベリーロールなどを使わず、自分の跳びたいように跳べば一番上の目盛りのバーですら越えることができるようになっていた。鬼越との大喧嘩(怪人相手の共闘も含まれる)はそれだけ陽子の狼人としての体質を活性化させていた。


 陽子は普通の女の子として生きたいとずっと願っていたのだが、普通の人間に囲まれて生きるには、普通とは少し違う自分は普通以上のことをしているのが普通なのだろうと陽子自身も思うようになった。


 いざと言う時に、持って生まれた強い力を使って困っている誰かを助けてあげられるのが自分にとっての普通。それが鬼越との接触で学んだことだった。


 その為には今まで普通だと思って取っていた行動へ、自ら制限をかけていたようなものを取り外さなければならない。例えば高飛びのバーは背面跳びでなければ飛べないという感覚を。


 そういう訳なので自ら制限を解除してしまった陽子にとっては、走り高跳びのバーはほぼ無意味な物となってしまったが、陽子自身は高跳び自体は続けたいと思っていた。そうなってくると通常のバーの高さでは足らなくなってきてしまったので、陽子は陸上部の顧問にお願いして棒高跳び用の施設を貸してくれないかとお願いしてみたのだ。やはり目の前に架かるバーを背面跳びで越えるのに挑戦したいという、陸上女子としての想いはずっと続いている。


 そんな陽子の想いが通じたのか、棒高跳びの選手も毎日バーを使っての実戦練習をしている訳でもないので、走りこみの日などは陽子に貸してもらえることになった。そして本日がそうだったので陽子は、元気も回復してきたので校庭に飛び出してきたという訳だった。


 しかし走り高跳びのバーならまだしも、それよりも高い位置にある棒高跳び用のバーを一人で設置するのは非常に無理があるので、誰か手伝ってもらえる人がいないだろうかと陽子は探していた。


 巫女の彼女は「家の手伝いがあるから」と早々に帰ってしまうし、鬼越は最初からいないしと困っていた。


 そんな中、なんとなく手持ち無沙汰気に帰り支度をしている委員長を発見、陽子はダメ元でお願いしてしてみたところ


『い、犬飼さんがこまってるんだったら、そ、その、手伝ってあげなくも、ないよ……?』


 突然頼みごとをされてびっくりしたのか変にドモりながら、委員長は承諾してくれた。


「いや~、委員長にはいつも怒られてばかりだから、ボクの頼みなんて聞いてくれないと思ってたよ」

「そ、そんなことないわよ、私は委員長なんだから同じクラスの生徒が困ってたら手伝うのは当然でしょ!」

「それさっき同じこと言ってたよ」

「もう! 手伝わないわよ!」

「あはは、ごめんごめん」


 そんな風にして、二人は棒高跳びの道具一式の準備を始めたのだった。陽子は「委員長はバーを引っ掛けるときに一緒にやってくれるだけで良いよ」とは言ったものの「クラスメイトを手伝うのはクラス委員長の役目だから」と押し切られ、用具倉庫から一緒に物を運んだりしている。


「どうしたの委員長、なんかびくびくしてるような感じだけど……ボクのせい?」


 そんな風にして一緒に運んだり一緒に設置しているとお互いの体が接近することもままある。そうして触れ合うほどに近づくと、委員長が妙に緊張しているような変におどおどしているように見受けられるので陽子が訊いてみた。やっぱり狼人がこれだけ近くにいると怖いのかも知れないと、陽子も自分で思うのだ。


「な!? そ、そんなことないわよ!」

「ボクは半分狼だけど、別に委員長のことを食べようとしているわけでもないから――」

「そ、そんなのわかってるわよ!」

「……ぃぃんちょぅ?」


 その全力否定に陽子の方が萎縮してしまった。


「……」

「……」

「……な、なんか大声上げちゃってごめん」

「い、いや、ボクの方こそなんか変なこと言っちゃってごめん」


 二人同時にぺこぺこと頭を下げる。


「じゃ、じゃあ委員長、バーを上げるから手伝ってね」


 一通り準備が終わったので、陽子が妙な雰囲気になってしまった場を変えるように言う。


「う、うん」


 委員長も気持ちを切り替えるように素直に頷く。


「じゃあ、いくよ、せーの!」


 マットの上に置かれたバーを、二人して手にした刺又さすまた状の道具の股部分へ同時に引っ掛けて持ち上げて、予め固定しておいたフックに引っ掛ける。


「よいしょ、と」


 正式な競技場に置いてあるものはバーが電動で昇降するものが設置されているが、高校にあるものは基本的には走り高跳びのロングバージョンみたいなものなので、そのような便利機能はない。そんな理由なので人力で全てをまかなう場合は物干し竿のように長い道具を用いてバーを設置しなければならないのだ。


 陽子はこの引っ掛ける時にどうしても二人必要なので、委員長にお手伝いをお願いしたのだった。今はまだ低い位置なので女の細腕でも持ち上がるが、これ以上高くなったらどうしようと思う陽子でもあったが。


「ありがと委員長、落っこっちゃったらまたお願いね」


 陽子はそう言いながら自分の持っていた刺又状の道具を渡すと、スタート位置へと走った。


「……」


 委員長が駆けて行く陽子の後姿を静かに見つめる。


(……犬飼さんの方から誘ってくれるなんて……ちょっとテンション上がってしまったわ)


 陽子の顔が目の前に来て変な行動を取ってしまった。


(だいじょうぶ……ばれてない、ばれてない……)


 陽子のお尻でぽんぽん飛び跳ねる銀色の尻尾を見ながら、委員長は心の中で概ね平常を保てたと安堵する。




「いっきまーす!」


 軽く右腕を上げながら宣言をすると、陽子は駆け出した。


 髪が流れ、ビキニウェアに包まれた胸がその拘束を打ち破るように揺れ、腰の後ろの尻尾が跳ねる。綺麗に筋肉が乗った手足が躍動し、銀色の体を高速で前進させる。


「うぉりゃあぁあ!」


 支柱の直前で空に向かって翔る。宙に銀の絵の具で描いた見事な螺旋が出来上がった。まるで打ち出された矢が回転しながら天に向けて飛んでいくようにそれは――


 がすっ


「あ」


 今まさに跳んでいる陽子の声と、支柱の脇で見守る委員長の声が見事にシンクロした。


 宙に掲げられたバーを陽子は背中のギリギリのラインで通過していくように見えたが、背中でギリギリということはその先にあるでっぱりには当たってしまうということで。


「うはっ」


 陽子の尻尾が引っかかって外れたバーと共に、陽子本人もマットの上に落ちてきた。


「いやー、やっぱり最初から3メートルは高かったかな」


 コロンと一回転して正座の姿勢になりながら空白になった二本の棒を見上げる。


「……す、すごい」


 陽子に対する様々な思いは全部すっ飛ばして、委員長の口はただその言葉だけを口にした。


 走り高跳びの女子ワールドレコードは2メートル程度だが、陽子はそれから1メートルは上を跳んでいる。今は失敗してしまったが、ほんの少しだけバーを低くすればクリアできるのは委員長にも分かる。


「へへへ、ほんの一ヶ月前まではこれの半分くらいの高さでバーを落としてたのに不思議なもんだね」


 唖然とする顔を隠さない委員長の言葉にテレながら、陽子は立ち上がる。


(……あ)


 その一連の流れで、何気ない動きのままお尻の食い込みを直す仕草に委員長はドキッとしてしまった。


(……ぇ、えっ)


 更には陽子が委員長の方に近づいてくる。


 無防備な姿で無防備に近づいてくる狼人の少女の姿に、委員長の胸が沸騰する。


(え、な、なにっ?)

「委員長それ一つ貸して。バー落っことしちゃったから」


 内心ドギマギする委員長の気持ちをすり抜けるように、陽子が手を伸ばした。


「あ……う、うん」


 何ともいえない昂揚で一瞬わけが分からなくなった委員長が促されるまま片手に持っていた刺又状の道具を渡す。そして「せーの」という陽子の掛け声を聞きながら、知らぬ間にバーを元の一緒に位置に戻していた。


「じゃあまた落としたらお願いね」という言葉と今使った道具の一方を委員長に残して陽子は再び駆けていった。


「……」


 委員長の中ではまだドキドキが続いていた。


(……なんだろう、この天国にいるような時間は)


 委員長が思わず心の中で独り語ちる。


 肌もあらわなコスチュームで必要最低限の場所だけ隠し、己の体に秘められた力を全力を使って高い棒を目指す。そしてそんな一生懸命な姿の彼女をこんな間近で見ていられる。


 彼女に触れるということさえ除けば、正に至極の時間を過ごしていた。


 今朝の一時間目と二時間目の間の休み時間に陽子の服装に注意した後、陽子と巫女の彼女が会話しているのを委員長は遠くに聞いていた。例え席が離れていても注意して聞いていれば、自分に対する話し声は拾えるものである。


 陽子の格好を指摘するのを巫女の彼女が揶揄するのももちろん聞こえている。


(……ちがうそうじゃない。私はもっと犬飼さんが肌を露出してもふもふしているところが見たいのよ!)


 委員長が心の中で叫ぶ。


 陽子の格好を注意するのも、実は陽子に近づき陽子と会話するための方便なのだ。


 更には自分が陽子を注意するのが、自分を普通の人間扱いしてくれているのだという陽子自身の弁護も聞こえた。


(ごめんなさい。人間扱いというよりも動物扱いの方が大きいかも)


 その言葉に委員長は心の中で謝る。何しろ委員長は彼女の動物的要素もふもふぶりに心射抜かれてしまったのだから。


 そんな風にしてもやもやとした一日を過ごしていた委員長は、放課後になって元気が回復してきた陽子が今日の部活はどうしようかと迷っているのを見る。


 実は委員長も、陽子が放課後に手伝ってくれそうな人を探しているのを察知していたのだ。


『私は委員長だから手伝ってあげなくてもないわよ』と、自分の役職の権限を持って近づくのは可能なのだが、今日の午前中になんだか厳しく言い過ぎたような気もするので、委員長は躊躇してた。


 そんなそわそわしている委員長の方に、陽子の方から近づいてきたのだ。


「あのー、実は委員長、放課後空いてるんだったら手伝って欲しいことがあるんだけど」


 しかしてもうし訳なさげな顔でお願いしてくる狼人の少女。もうこれが見れただけで委員長にとってはごちそうさまでしただった。


 なんという僥倖! 神様ありがとう! いるかどうかわからないけれど!


「い、犬飼さんがこまってるんだったら、そ、その、手伝ってあげなくも、ないよ……?」


 というわけでドギマギが抜けない委員長は、おかしなテンションのままそう答えたのだった。

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