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灼熱の犬飼さん ~おおかみむすめの高校生活~(龍焔の機械神)  作者: いちにちごう
灼熱の犬飼さん1 ~おおかみむすめの高校生活+鬼ムスメ~(東京湾物語1・龍焔の機械神)
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灼熱の犬飼さんその5 06 ~「「イヤだね!」」~

「鬼のーパンツはー! よいパンツー!」


 高らかに歌いながら鬼越が爆槌を振り回す。


「強いぞー! 強いぞー!」


 アルトよりも更に低く、それでいて美しくのびやかな歌声で、戦いの歌を赤き鬼が歌う。


「虎のー! 毛皮で出来ているー!」


 園児たちが贈り物をくれた時に歌っていた歌を、鬼越も歌っていた。


 始めは自分を血戦の覚悟へといざなうために「鬼の~パンツは~」と何気なく呟いただけだったのだが、一度口にすると妙に楽しくなってきてしまって、いつの間にか大声で歌ってしまっていた。


「強いぞー! 強いぞー!」


 爆槌が唸り、その爆圧が怪人へと攻め入る。


「五年ー! 穿いても破れないー!」


 その爆煙の中から伸びた怪人の腕を、鬼越は紙一重でかわす。少し避け切れなかった高速で伸びた指先が鬼越の頬をかすり血が出たが、それすらも楽しい。


「は、は、は、……――あはははははは!」


 そして歌だけではたまらなくなり、鬼越は笑い出した。


 鬼越はこの戦いに高揚していた。外の世界にこれだけの猛者がいるとは思わなかった。前回の接触でもある程度の力の差は感じていたが、実際に戦って理解した。自分に戦い方を教えてくれた鬼の里長と同じかそれ以上。


「あっはっはっはっはー! 強いぞー! 強いぞー!」


 それがあまりにも楽しすぎて、このままこの戦いで果ててしまっても良いような気持ちになっていた。


「十年ー! 穿いても破れないー!」


 一般兵が変身しただけの簡易型だとしても、やはり怪人と名乗るだけあって相手は強い。鬼として生まれた強靭な体幹を利用しての立ち回りだったが、上には上がいるものだと思い知らされた。そしてそれだけの強敵と出会えて、己の全開を用いて戦えるのが最高に嬉しい。


「強いぞー! 強ぃ――ぐは!?」


 高らかに戦いの歌を歌い続ける鬼越に、怪人が最大限に延ばした腕がヒットした。胴に直撃を食らってふっ飛ばされた鬼越は地面に叩きつけられたが、すぐさま体制を立て直す。しかし怪人の方も好機とみたのか、更に踏み込みもう一撃加えてきた。鬼越は爆槌をかざして怪人の更なる一撃を受け止めた――が


「ぐぅ、」


 しかし鬼として生まれた強い肉体を持ってしても、その一撃に地に膝を突かされた。爆槌自体は怪人の攻撃を受け止められるほどに頑丈なのは証明されていたが、鬼越の体がそれに着いていけなくなった。


(ここがアタシの限界か……だが)


 己の力を限界まで奮い、これだけの強敵をここまで翻弄させた。


(……楽しいな、この楽しさのまま死んでいけるのなら本望か)


 怪人が重々しく腕を振り上げる。


 片膝を突いた鬼越は、疲れたかのように爆槌の槌部分を下にして地面につけ、防御する姿勢を解いた。


 自分の全力を出し切り、そしてその戦いの中で死んでいく。なんと幸せなことだろう。戦いの種族として生まれた鬼にとっては一番の死に方だ。蒸気侍の探索など最早鬼越の頭には無い。目の前の戦いだけが鬼越の体を熱く満たしていた。


 腕を振り上げた怪人が頭上へと近づいた。このまま頭を叩き潰すつもりなのか。それでも鬼越の身体能力であれば今から全力で後ろに跳べばかわせるだろう。しかし鬼越はなんだかそうしたくなくなってきていた。


(……だが、鬼として生まれたのに正義の味方として死んでいくのは、やはり鬼らしくないな)


 戦いに生きる血筋である鬼という生き物として生まれてきた鬼越にとっては、ここで死ぬのは惜しくないが、その点ひとつだけが心残りであった。悪役であって悪人ではないのだが、やはりそれでも正義のために死んでいくのは、鬼としては気恥ずかしい。


「……」

「――こっちだ怪人!」


 そんな心地好くも複雑な終焉の気持ちに包まれていた鬼越の耳に、聞き慣れたといってもいいあの女の声が聞こえた。

 二度目の誰何を受けて怪人が振り向くが、流石に一度食らった攻撃には二度は反応しないらしく、ゆっくりと体勢を崩さないように振り向く。そんな落ち着いた動きを見せる怪人の肩口に高校の女子制服がぶつかった。怪人もあわてずそれをハエでも払うように腕で落とすが


『――!』


 それは筒型のクッションに制服の上下を着せたものだった。


「空蝉の術――!?」


 その光景を見て思わず叫んだ鬼越の驚きを遮って「うぉおおりゃあぁあっ!」と言う声と共に、銀色の槍が再び怪人の胸部へと突き刺さった。


 またしても不意をつかれてバランスを崩した怪人が、背中から庭に沈んだ。園丁が轟音と震動に包まれる。


 奇跡的に二度目の飛び蹴りを成功させた陽子がバックステップを踏みながら鬼越の下にやってきた。


「お待たせ! ボクも今から加勢するよ!」


 制服を使った撹乱を成功させた引き換えに陸上用ビキニユニフォーム姿となっている陽子が、立て膝のままの鬼越に言う。


「お前忍びの者だったのか!?」


 しかし鬼越はそんな処に驚いていた。


「いや、そういうわけじゃないけど……それにこれくらいの術ならこの園の子たちはみんな使えるみたいだよ」

「なんと!?」


 この園は忍びの者の育成教室だったのかと更なる驚きが鬼越に及ぶ。


「というかさっき自分から死のうとしてなかった!? なんか頭差し出しちゃって!?」


 制服を着せたクッションを投げつける瞬間、鬼越が戦意を失っていたように見えた陽子がそう質した。


「すまん、この戦いがあまりにも楽しすぎてここで死んでも良いと思っていた」


 鬼越が素直に己の気持ちの暴走を謝罪する。


「……さっきボクに『そこの狼女死ぬにはまだ早いぞ』とか言ってたのはどこの誰だよ!」


 傷口から伝わってくる気分の悪さを抑え込むように、陽子が大声で怒鳴る。


「ミユキは園のみんなから貰った鬼のパンツ――勝つためのパンツ穿いてるんでしょ! 負けちゃダメだよ!」

「……そうか、そうだったな」


 戦いの愉悦のまま死のうとしていた自分を、鬼越は恥じた。自分は小僧と小娘から貰った贈り物を身につけているのだ。彼ら彼女らの気持ちを危うく無駄にするところだった。


 正義のために死ぬのが気恥ずかしいのなら、正義のために勝って生きればいい。戦いに生きる血筋の者ならば、戦い抜いて道を選べばいい。


「お前がその格好で戦いに出ると女子プロレスラーのようだな」


 それを教えてくれた陽子への照れ隠しのように鬼越はそんな風に言いながら立ち上がる。


「あらためて他人に指摘されると恥ずかしい! ボクもそう思ったけども!」


 とりあえずおへその辺りを押さえながらの陽子の返し。女子プロレスというものを知っている鬼越の知識にもぴっくりだが、格闘技の一つなので知識の一つとして覚えていたのだろう。


「しかし……この戦いを楽しみここで死んでも良いと思ってしまったのは、やはりこの怪人を倒すにはアタシ一人の力では時間稼ぎにしかならないということでもある」


 起き上がろうとしてもがいている怪人を見ながら、鬼越も自分の力をそう称する。限界がすぐ近くにあったからこその高揚感であったのも否めない。


「二人の力を合わせればどうにかなるんじゃないの?」

「アタシもそう熟慮した処だ」


 無敵に思える怪人だが、陽子の飛び蹴りや鬼越の爆槌によって転倒させられ、自重によるダメージは蓄積されてはいる。陽子と鬼越の一人ずつではそれ以上のダメージを負わせられないかも知れないが、それが二人同時となれば、一人での限界を破ることは可能だろう。


「結局のところこの怪人というものはどうすれば倒せるものなんだ?」

「ある程度のダメージを負わせた後に、強い一撃を食らわせると怪人の体の組織の一部が崩れて、そこから連鎖爆発状態になって怪人を構成している体組織を崩壊させられる……ってなってるらしいよ」


 鬼越の問いに陽子がそう説明する。戦車から放たれるトリモチ弾は動きを封じる以外にも、その衝撃でダメージを蓄積させる用途もあるらしい。


「詳しいな」

「それも中学の時に習うんだよ」

「だから普段は駆逐車両が大砲をぶち当てて始末、という訳か」

「そういうこと!」


 怪人が身を起こして体制を整え始めた。そろそろこちらも覚悟を決めなければならない。


「ミユキ、策は?」

「爆槌に残された力を全解放、それを二人の全力を持って叩き付ける。それならば砲弾並みの力は発揮できるだろう。策としてはそれが選択肢の一つ」

「なかなかシンプルでイイじゃない? ボクそういうの大好き」


 傷を負った陽子も体力を消耗した鬼越もあまり長く戦えるような体の状態じゃない。だからこその一撃必殺。


「失敗したらどうなるの?」

「二人とも爆槌の爆圧で吹き飛ばされどこかへ叩きつけられる。治癒が追いつかなければ相手に踏み潰されてそこで終わりだ」

「痺れる展開だね。選択肢ってもう一つあるっぽいけど」

「これだけの騒ぎになっているのだ、あと十分かそこいらで正式な駆逐隊も来るだろう。それまで相手を翻弄しつつ逃げ回れば良い」


 鬼越はそう告げながら陽子の方に顔を向ける。陽子も鬼越の方を向く。身体が限界に近い二人とも対策法としてはそちらの方が良いだろう。


 だがしかし、二人は同時に口を開き


「「イヤだね!」」


 見事なハーモニーを見せてニヤリと口元を歪ませながら再び怪人の方に、不敵な笑顔を向ける。


「ミユキは勝つためのパンツを穿いてるんだもんね、逃げるも負けるも無いよね!」

「ああ、ここで逃げでもしたらこれをくれた小僧と小娘に顔向けできん」

「破けたスカートから鬼の縞パンがちらちら見えてなかなかセクシーですよミユキ女史」

「お前の方はパンツ丸出しだがな」

「これはユニフォームです!」


 二人はそう言い合いながらも、鬼越が構えなおした爆槌を陽子も掴んで、再び立ち上がった怪人へその闘志を向ける。


「ボク、全力で走るけど、着いてこれる?」

「お前はアタシの腕の振りに合わせられるのか?」


 鬼越がそう言いつつ陽子の様子を伺うように横顔を見ると、彼女はとても良い表情をしていた。全てのしがらみを捨て去って、未来へ突っ走ることを決めたような晴れ晴れしい顔。


(……お前は、強くなったのだな、前に進むために)


 陽子は陽子自身で己の中に敷いていた枷を取り除いたのだろうなと、鬼越はそう思いながら再び怪人へと顔を向ける。


「でもさ、思ったんだけどあの怪人も強敵だけど本当に強敵っていったら」


 計ったように二人同時に動いて間合いを合わせている時、陽子が唐突に言った。


「なんだ?」

「一昨日のクッキー作りの方がよっぽど強敵だったよね」

「まったくだ」


 二人して苦笑する。あの溶岩だか隕石だかに比べたら目の前の怪人の方がよっぽど組みし易い相手のように思えてきた。


 そしてその時は訪れる。立ち上がった怪人が庭に落ちていた小石を踏んで一瞬姿勢を崩したのを二人は見た。


「――今だ!」

「うぉおおおぉおお!」


 瞬間、二人は駆けた。


「鬼ーのパンツはー!」


 同時に二人で爆槌を振り上げながら飛び上がり、鬼越がそう叫ぶ。


「いいパンツー!」


 陽子もつられるようにして叫ぶ。


「強いぞー!」


 そして渾身の力を込めて振り下ろし


「強いぞー!」


 二人の全ての力を込めた打撃に続いて全開放された爆槌の一撃が怪人に放たれた。


 その一撃で怪人の体組織の一部が遂に崩れ、そのまま連鎖爆発崩壊を起こして、周囲は大爆発に巻き込まれる。陽子も鬼越も掴んでいた爆槌も一緒に吹き飛んだ。


「うわぁああぁああ!?」

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