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黒風
楽園
そこは富に溢れ、苦しみも悲しみも退屈さも無いという。
楽園は俺達が住むこの国から、山を三つ超えた先にあると言う。
世界から楽園へ向かった人々は、二度と自分たちの国に帰ることは無い。
楽園が余りにも魅力的で素晴らしすぎて、自国に帰ることができなくなってしまうからだと言う。
けれど、世界は楽園で製造された農産物や加工品、消耗品、機械、あらゆるものが輸入され使用されている。
俺達の生活は、楽園で製造された物に溢れていた。
誰もが楽園の存在を知っていた。恩恵を受けていた。
楽園は世界を『侵食』していた。
疑問を抱く奴なんていなかった。