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ラグヴァロの追想と独白

その昔、俺は侯爵家子息だった。

第3夫人の次男として生まれ、兄弟は腹違いも含めると、10人いた。

11人も子供がいると、与えられる愛情にも差が生まれるらしく、父上のそれは、特出した才能を持つ子供ほど多く与えられた。

第2夫人の子供達は皆一芸に秀でていたようで、そんな子供達を生んだ為か、父上の寵愛も第2夫人が受けていたようだ。

その為第1夫人と、第3夫人の母上は、父上の寵愛を我が物にしようと、子供達の教育に躍起になっていた。

幸いにも俺は剣技と魔法の才に恵まれていた為、両手を広げられるくらいには家での居心地は悪くなかった。

これといった才が見られなかった兄弟達は冷遇されて、いつも肩身が狭そうに見えたから、本当に良かったと思う。

まあそれでも、父上がくれる愛情は第2夫人の子供達ほどではなかったし、母上も、さほど父上の足をこちらに向けられない俺達には、あまり愛情をくれなかった。

けれど、13歳になる年、魔王を倒す為に守護神の祝福が数人の人々に与えられ、俺がその中の一人になると、それは一変した。

父上がご機嫌で毎日のように俺達の住む一角を訪れ、俺は勿論、兄弟達をも可愛がったし、母上は満面の笑顔でよく俺の頭を撫でた。

現金だな、と思いつつもそれが嬉しくて、それまでよりずっとハードになった剣と魔法の訓練も、懸命にこなした。

そして13歳になった日、俺は打倒魔王という目的を掲げて旅立った。

父上の為、母上の為、そして同じ母から生まれた兄弟の為に。

初めのうちは実際に魔物と戦うのはとても怖かったが、恐怖心を無理矢理抑え込んで立ち向かい、倒し、結果近くの街や村の人々から、魔物の脅威が消えたと喜びに涙を浮かべて感謝されると、頑張って良かったと心底思えて、恐怖が消える事はなくとも、次第に薄れていった。

旅をし、魔物を倒し、それを人々に感謝されると同時に『必ず魔王を倒して下さいませ。貴方様ならばきっとできます!』と口々に言われた俺には、いつからか家族の為だけではなく、この人達の為にも魔王を倒すのだと、旅する理由がひとつ、増えていた。

けれど、俺は魔王を倒せなかった。

呪いをかけられ、姿を犬に変えられどこかへ飛ばされて、失意の中、俺はなんとか家へ帰った。

しかしそんな俺を待っていたのは、『犬を息子に持った覚えはない』という父上の言葉と、『貴方のせいであの人が全く来てくれなくなってしまったじゃない!』という母上の言葉と、迷惑そうな顔で俺をみる兄弟達だった。

俺は使用人の手によって路面に投げ捨てられ、呆然と固く閉じられた門を見ているしかなかった。

どうやら魔王は配下を使い、俺が自分に敗れた事を世界中に広めたらしい。

やがてトボトボとどこへともなく歩いていた俺は、自分が魔物から救った村へ辿り着いていた。

ああ、ここの村人達ならば、と村の中へ足を進めた俺だったが、けれど目にしたのは、嘲笑を浮かべて自分を嘲る村人達の姿だった。

その時、絶望が、俺の胸を黒く染めた。


★  ☆  ★  ☆  ★


「勇者ラグヴァロよ、久しいな」


そう言って俺の前に現れたのは、かつて俺に祝福を与えた守護神様だった。

姿を見たのはどれくらいぶりだろうか……犬の姿で無為に過ごす日々は長過ぎて、あれからどれだけの時間が流れたのか、よく、わからない。


「今日は朗報を持ってきた。そなたを人の姿に戻せる可能性を持つ者が、ようやく現れた。名をキリカという。この少女だ」


守護神様が空中に手を翳すと、淡い光が正方形に形を成し、そこに赤ん坊が映し出された。


「まだ生まれたばかり故、行動を起こすのは先であろうが、この少女なら、きっとそなたを見つけ出し、元の姿に戻してくれよう。……勇者ラグヴァロよ。もうしばらくの辛抱だ。この少女の様子は、時々夢という形でそなたも知れるようにしておく。会える日を心待ちにしていると良い」


守護神様はそう言って穏やかに笑い、姿を消した。

俺は虚ろな目で映し出されたままの赤ん坊を見たが、すぐに目を閉じ、蹲った。

……誰かを信じたり期待したりすることは、もう、疲れた。


★  ☆  ★  ☆  ★


守護神様が仰った通り、あれから俺は時々少女の夢を見た。

初めは何故か、鳥や猫などに『あなたはラグヴァロさんですか?』と聞いていた。

声をかけるだけで飛び立つ鳥や、威嚇の末に引っ掻く猫に時折涙目になりながらも、少女は決して確認する事を止めなかった。

そのうちに犬だけに的を絞って確認するようになり、毎日のように突撃していた。

どれだけ経っても、何度俺ではない事に残念そうに眉を下げても、少女は絶対に見つける事を諦めなかった。

そんな少女の姿を夢に見る度、暗く絶望に染まっていた俺の心に、段々と光が射していく。

どんな場所へも立ち入り、必死に俺を探す少女の姿に、何故だか胸が痛んで涙が滲んだ。

そうして何度も繰り返し夢に見るうちに、俺は決心した。

少女を待つだけではなく、自分からも、少女の元へ歩みを進めようと。

1日も早く、一時(いっとき)でも早く、少女に会いたい、いや、会わなければ。

そして、少女の…………から…………を…………なければ。

少女の…………は…………で…………だ。

少女に会ったらすぐに………を…………へ…………してやる。

その為にも、少女が今どこで俺を探しているかを確認しなければ。

夢に少女が出てくる度、その周囲に見知った景色や建造物がないかと、俺は意識を集中させる。

キリカ、俺も君を探す。

そう遠くないうちに、必ず会おう。

俺は今日も、夢の中の少女に、そう告げた。

後半の…………の部分は、今後のネタバレ防止の為の処置です。

ご了承下さい。

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