お父さんとお話
今回はキリカの台詞がひらがなばかりの上ちょっと多いので読みづらいかもしれません、すみません。
お散歩で犬が集まりそうな場所へ出かけては確認し、その行き帰りで犬の鳴き声を聞いては突撃して確認する。
そして時々お母さんに怒られる。
そんなふうに日々を過ごしていると、気づけばあれからもう二ヶ月が経っていた。
そろそろこの街の犬は全員確認し終えたかもしれない。
どうやらラグヴァロさんは、この街にはいないみたいだ。
となると、他の街や村に探しに行かなきゃならないなぁ。
そんな事を考えていたある日、お仕事から帰って来たお父さんに呼ばれた。
「な、なぁキリカ? キリカは、ワンちゃんが好きなのかい? もしかして、ワンちゃんを飼いたいのかな?」
「えっ? う、うん、そうなの! わたし、ワンちゃんをかいたいの!」
すごい、どうしてわかったんだろう!?
私一度もそんな事言ったことないのに!
突然お父さんから尋ねられた内容に驚きながらも、私はこくこくと首を縦に振って肯定の返事を返した。
「そ、そうか……わかった。なら、今度の休みに動物屋に行ってワンちゃんを買ってあげるよ。……だから、その……他所様のワンちゃんに突撃するのは、もうやめような?」
「えっ?」
動物屋のワンちゃんを、買ってあげる……?
続いて言われた言葉に、私はぱちくりと目を瞬く。
そしてその言葉の意味を理解すると、私は慌てて口を開いた。
「あ、ち、ちがうのおとうさん! わたしがかいたいのはどうぶつやさんにいるワンちゃんじゃないの! ラグヴァロさんなの!」
「え? ……ラグヴァロさん……? ……ええっと、ごめんキリカ。お父さん、ワンちゃんの種類には詳しくないんだけど……ラグヴァロっていう犬種のワンちゃんが飼いたいって事なのかな?」
「けんしゅ? ……って、え、ち、ちがうの、そうじゃなくて、え、えっと……!」
ど、どうしよう?
勇者様がどうとかって話を、お父さんにしてもいいんだろうか?
でも、それを話さない事には、話が噛み合わないままだよね……。
ラグヴァロさん以外の犬を飼っても意味はないし……ええい、言ってしまおう!
他の街や村に行くにも、お父さんやお母さんの許可を取らなきゃならないし、話してしまったほうがきっといいよね。
「あのね、おとうさん。じつはね……!」
私は意を決して、お父さんに全てを話した。
生まれる前、ゴーデン様に会って、"勇者ラグヴァロの飼い主"という職業を与えられた事。
その昔魔王に挑んで敗れた勇者様達が姿を動物に変えられて今も生きている事。
勇者様達を元の姿に戻せるのは、それぞれの飼い主という職業についた人だけな事。
だからラグヴァロさんを元の姿に戻す為犬になってる彼を探している事。
この街はもう探し終わったから、他の街や村に探しに行きたい事。
それらをわかりやすいように考えながらゆっくり話す私に、お父さんは急かさず静かに聞いてくれた。
途中、驚きに息を飲んだり、顎に手を当て、何かを考える素振りをしながら。
そして全部を話し終えて私が黙ると、お父さんはゆっくりと口を開いた。
「なるほどな……守護神様が下された天啓にあった"使命"というのは、その事だったのか。……古の魔王と勇者の戦いについては、今も伝承やお伽噺として残っているけれど……まさか、敗れて呪いを受け、今もそのまま生き続けている方達がいたとはな。そこまでは知らなかったよ」
「……うん……まおうをたおしたゆうしゃさまのことは、ものがたりになってるよね。わたしもえほんでよんだよ。でも、のろいをうけたゆうしゃさまたちのことは、どこにも……。……かなしいよね。そのひとたちだって、せかいのひとたちのために、ひっしでがんばってくれたのに」
「……そうだな。キリカ、話はわかったよ」
私の言葉に頷きそう言うと、お父さんは一度言葉を切り、まっすぐに私を見て、再び口を開いた。
「けど、キリカ。他の街や村に探しに行くのは、反対だ。行かせられない」
「えっ!? ど、どうして!? なんでだめなの、おとうさん!? わたし、ラグヴァロさんをたすけてあげたい! もとのすがたにもどしてあげたいの!!」
続いて言われた言葉に、私はお父さんに詰め寄った。
すると、頭にポンとお父さんの手が置かれた。
「いいかいキリカ? 今はもう、お伽噺にあるような魔物はいないが、場所によっては治安が悪いし、街道には盗賊が出る場合もある。それに森などには獰猛な獣も」
「そ、それくらいわかってるし、かくごしてるもん! ちゃんとたいさくもかんがえてあるんだよ!?」
「対策?」
お父さんの言葉を遮って言った私の言葉をぽつりと繰り返し、お父さんは微かに首を傾げた。
私は姿勢を正して胸を張り、頷く。
「うん! ぼうけんしゃさんをごえいにやとうの! そのために、ずっとおこづかいためてたんだよ、わたし!」
そして、いい考えでしょう、とばかりににっこりと笑顔でそう告げた。
しかしお父さんは困ったように眉を下げ、首を振った。
そして私の前に膝をつき、目線を合わせる。
「キリカ……それは確かにいい考えだけど、でも、それでも駄目だ。どうしても探しに行きたいなら、私から護身術と治癒魔法を、そしてお母さんから常備薬の作り方を習ってからにしておくれ。でないと、お父さんもお母さんも心配で毎日落ち着かないから。ね、キリカ? お願いだ」
「う……。……それをぜんぶならったら、いっていい? はんたいしない?」
「ああ、しない。約束する」
「……うん、わかった。じゃあ、ならってからにする」
「ありがとう。いい子だね、キリカ」
私が懇願にも似たお父さんのお願いに折れ、頷くと、お父さんはホッとしたように笑い、そう言って頭を撫でてくれた。
……ラグヴァロさん、ごめんなさい。
他の街や村に貴方を探しに行くのは、もう少し先になりそうです……。
「さて、キリカ。お父さんはちょっとご領主様の所に出かけてくるよ。大事なご用ができたからね」
「え、うん……? わかった。いってらっしゃい、おとうさん」
「うん、行ってきます」
お父さんは立ち上がってそう言うと、足早に部屋を出て行った。
私は首を傾げながら、それを見送る。
お父さん、帰って来たばかりなのに、おかしいなぁ?
お父さんはご領主様の元で軍医をやっているんだから、ご用があるなら帰る前にお会いしてくれば良かったのに。
そう考えながらお父さんの部屋を出ると、玄関のほうからお父さんの声が途切れ途切れに聞こえて来た。
「……領主様にお願いしてS級冒険者を手配……いや、領主軍から誰か……待てよ、守護神様の使命という事なら王都の近衛騎士、それか神殿の神殿騎士を護衛に……」
……うん、ちょっと待って下さいお父さん。
何かとんでもない事、考えてませんか?
子供のお小遣いではいくら貯めたといっても冒険者は雇えませんが、優しいお父さんは敢えてそこは指摘しません。




