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恐怖探究  作者: 篠田堅
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宵の海

投稿者:フリーターKさん

 母の実家は六回もの電車の乗り換えを行うことによってようやく辿りつけるところにある。

 俺のおじいさんは漁師なんだが、実家は家が海に近いということもあって長期の休日に入れば海を見るのをついでとしてよく遊びに行っていた。

 でも、終電が過ぎて帰れなくなってしまっても俺は母の実家にだけは泊まることを嫌った。

 万が一、帰りの足が無くなった日は必ず近くのホテルで寝泊まるようにしていた。

 別におじいさんやおばあさんが苦手だとかそんな理由じゃない。

 あの家にいると見てしまう場合があるからだ……。


 高校生の頃、春休みを利用して俺は母の実家に遊びに来た。

 おじいさんやおばあさんは歓迎してくれてちょっとした歓迎会を行ってくれたりと楽しい日を過ごし、いざ帰ろうとした時に携帯に電車が止まって動かないメールが入った。

 この事を詳しく話し、もし良ければ泊まってもいいか? と尋ねると「よかよか、気にせんでよか」と気前よく俺を泊めてくれることになった。


 さっそく案内されたのは離れの小屋で「わりい、こらえてーや。部屋はここしかねぇけぇ」と済まなそうにおばあさんは言ったが、外で寝るよりマシなので「大丈夫だよ」と言った。

 波の音が聞こえてくるので窓を開けてみると、目の前には堤防の下にある海がしっかりと見えた。

 母の実家は堤防の傍にあり、一番上に作られた道に沿って家は建てられていた。

 持って来てもらった布団を敷いてもらっている間、俺はおばあさんから話を聞いた。

 方言なので聞き取れない所もあったが、簡単にするとこう言っていた。

「一つだけ約束して欲しい。深夜まで起きずに早く寝てくれ。あと窓を開けずに必ず閉めた状態にしておくこと」

 何やら真剣な表情で言い聞かすように言ってくるのでこの時は従うように頷いて納得してもらった。

 

 こうして深夜、情けないことだが俺はおばあさんの言葉もどこか彼方にして布団の中で携帯をしながら起きていた。

 電気の差し込み口があるので充電器につなげたまま当時ハマっていた携帯ゲームをしていた。

 電球もあるのだが、はやく寝ることを立て前で約束した以上後ろめたくて一応付けずにそのまま真っ暗な状態にしていた。なので明かりは携帯の光だけだった。

 携帯で確認して深夜12時を過ぎてしばらくした頃だ。

 シュー……シュー……シュー……。

 妙な音が聞こえてきた。どんな音かと例えれば、ボールの空気が抜けている時のあのシューって音と水滴が熱い鉄板に落ちた時の音が混じったような感じだ。それがリズム良く三回でだ。

 何の音だろうか? と俺は携帯をいじるのを一旦止め、音の聞こえる方向を耳を澄まして探ってみる事にした。

 けどこの離れは海に近いので波の音が良く聞こえてしまう。なので探すのには苦労した。


 探しているうちに音はなんと徐々に大きくなってきていた。

 ここでようやく俺は音はこの離れの中で発しているものではないと気が付いた。

 なんせ同じ場所で音に強弱なんてあるはずがないからだ。

 となると、目ぼしい場所はと探してみると、窓が目に入った。

 方向からして窓を開けてすぐの外だとわかった。


 俺はおばあさんから言われたことが頭を過ぎったが、見たいという好奇心に逆らえず、静かに窓を開けてしまった。

 一センチほどの隙間を開けてから俺は物音を立てないように覗いてみた。

 

 人影、いや影そのものだった。

 人型の影が堤防の道をゆらゆらと揺れるようにして進んでいるのが見えた。

 身長は100センチいくかどうか微妙な所。子供の身長くらいだった。

 人の歩き方とは思えないふわふわした歩き方をして道を進んでいく姿を俺はジッと眺めていたが、突如としてシューという音が聞こえなくなると同時に影が動きを止めた。

 何をするのだろうか? とジッと眺めていると、すごい勢いで身体を自分の方へと向けてこちらを見てきたのだ。

 まさか気付かれた!? ここからあそこまでは100メートル以上は離れているのに影は自分の事が良く見えているかのようにずっとこちらを向いて来ていた。

 さすがに「やばいっ!」と感じた俺はなるべく音を立てないように急いで窓を閉めて布団へと潜り込んだ。


 潜ってから数分後、再びあのシューって音が聞こえてきて近づいてくるのがわかった。

 あいつがやってきたんだ! 俺はより深く布団を被って何も見ないようにした。

 音はすぐそばにあいつがいるように近く、どうやらぐるぐると回りを回っているように強くなったり弱くなったりと変化した。

 俺は震えながら「南無阿弥陀仏……南無阿弥陀仏……」と必死に唱えてどうかここにはやってこないようにと願った。

 

 どれくらい耐えていただろうか? いつのまにか俺は眠りについていて気が付くと朝を迎えていた。

 自分が無事であったことを必死に神様へ感謝して、俺は離れから急いで出ていった。

 まだあいつが居そうな気がして一刻も早く離れたかったからだ。

 

 約束を破ったことがばれてしまうのは仕方なかったが、背に腹は変えれずに俺は昨日起きた事をおばあさんに話した。

 おばあさんは「そうけぇ、お前もみーたか……」と静かに頷き、それ以上何も言わなかった。

 どうやらおばあさんやおじいさんはあいつを見た経験が何度もあるらしい。


 話によれば、この辺りではよく水難事故が起きていたらしい。

 夜の海になると、見つけてもらえなかった者達が海底から想いを陸へと上げ、探してもらえるよう呼びかけてくることがあるそうだ。

 港の漁師達が言うに、あのシューって音は息が出来なくて苦しんだ者が出す音なんだそうだ。

 何も手を加えなければ無害だが、不用意に姿を現すと“引きこまれる”可能性があるらしい。これまで特に子供が夜に居なくなる事がこの近くで何件かあったとの事だ。

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