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恐怖探究  作者: 篠田堅
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流れる

投稿者:大学講師Fさん

 私が修士生の頃は古いアパートを借りて一人暮らしをしていました。親からの仕送りだけに甘えず、二つのバイトを受け持ってまでしての大学通い。

 おかげでバイトから帰って来たらいつも疲れた顔をしてすぐさまベッドに倒れ伏す事が習慣でした。


 ですが、あのアパートは築五十年という物であり、当然防音対策などある筈もなく薄い壁を伝って聞こえてくるお隣の騒音。これが私の安眠を邪魔する事がありました。

 さらにはその隣の住人というのが世間一般で言う所の不良。度胸のない私なんかでは文句一つを言う事すらできません。

 だから少しでも音を耳に入れぬようにと布団を深くかぶって寝てました。


 アパートは二階建てで私の住所は一階。お隣の事だけで不機嫌なクレームを零せるんですが、些細な事はもう一つありました。


 元より私にとっては何の問題にもなり得ない問題なんです。二階に住んでいる人の所から聞こえてくる生活音が少し…特に水回りの騒音がちょっと気にかかっていたんです。



 私の真上に住んでいるのは四人家族。どこにでもいるような父母子が慎ましく住んでいて、悪い噂なんて全然聞かない人達でした。今時にしては珍しい関係が良好な家族と言うべきでしょうか?


 ただ、この前喧嘩をしてるような様子が窺える音を響かせてたのでちょっと心配でした。子供の泣き声もちゃんと聞こえていたからいつもの『お隣』による物とは違う憂鬱感が湧きました。


 翌日になってからは夜にて二階で喧嘩の騒音は聞こえる事はありませんでしたが、その日からでした…。


 代わりに『トイレの水を流す音』が多く聞こえてくるようになったんです。


 朝だけでも十回以上はトイレ独特の下水が流れる音が壁を伝って微かに聞こえてくる。はっきり言って異常でした。

 腹を下していたとしても、トイレの利用回数としてはありえない。


 そんな何気ない事を気にしている内に数日後、なんとあの家族が離婚したという話が聞こえてきました。

 そのままアパートを引き払い、どこかへと別々に住むように彼らは決めたようです。唐突だなと私は思いました。



 結果、私の住む部屋はお隣の不良に悩まされるだけの殺風景な物になりましたとさ――。



 …これで終わりなら他愛ない話で済んだんですが、問題はその後でした。


 ある日、私は疲れを癒やすべく遅めのお風呂に入っていました。そこへしばらく寛いでいると“ごぽごぽ”と変な音が聞こえてきたんです。

 何事かと顔を向けてみると、排水溝から汚水が溢れ出していたんですね。慌てて浴槽から出て何とかしようとしましたが、素人の手に負える物ではありませんでした。


 管理人さんに事情を話して排水管業者を呼んでもらい、原因を調べてみる事にしたんですが…思わぬ事が起きてしまったんですよ……。


 居間で待っていた私の耳に「うわぁっ!!」と業者さんが驚く声が聞こえてきたんです。

 何かあったのか? と疑問に思いながら風呂場に行ってみると、そこには腰を抜かした業者さんが青ざめた顔をしていました。

 私が「何かあったんですか?」って聞くと、業者さんは無言のまま排水管に突っ込んでいたトングのような道具を引きずり出しました。



 ――ごちゃごちゃとした長い髪の毛がたくさん絡まった黒ずんだ塊が出てきたんですよ…。



 その髪の毛ってのがまるで『人一人分』になるくらいの量で思わず背筋がゾッとしました。

 ただ、排水溝の詰まりはそれが原因だったらしく、取り除けばすぐに元通りになりました。


 偶然ですよね? いったい何を流していたんでしょうね、あの家族は…。

 




 

 …そういえばあの家族、『三人』で挨拶回りしていたっけ?


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