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恐怖探究  作者: 篠田堅
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はやにえ

投稿者:農家Kさん

 モズという鳥を知っていますか?

 日本では大阪府の府鳥に認定されているぷっくりとした可愛らしい姿をしている鳥なんです。


 ですが、そんな容姿とは裏腹に彼らの生態には未だに解明されてない行動がある。これこそが『はやにえ』という習性です。

 捕らえた獲物を木の枝に刺したり、もしくは枝股に挟み込んだりする何とも残虐な習性。秋に最も頻繁に行われるものであり、獲物を保存するための行為では決してないんです。

 不思議ですよね…新しい説によれば捕らえた獲物を食べる際に『固定』のためああする訳で、途中で敵に襲われて逃げたからあんな形として残るとも言われています。

 けど、獲物の種類が壮絶。虫や魚だったら比較的優しい方。酷い時には蛙や鼠といった物を枝に突き刺してくるんですよ。大抵が“首から”突き刺した状態でね。


 おまけに下手をすれば、まだ生きている状態なんです。


 嬲り殺しとしか言い様がありませんよ…。



 私が子供の頃の話だ。まだゲーム機も満足に開発されていない時代。

 よく友達とサッカーをして遊んでいた場所の近所には一風変わった塀を持つ家があった。年季の入った黒ずんだブロックで作られているだけだったら大した物じゃない。


 問題はその上に有刺鉄線が張り巡らされている事だった。


 赤褐色に錆びた有刺鉄線には虫やトカゲが何匹もはやにえとして突き刺されており、その光景は一種の墓場と錯覚出来る程。

 おかげでその家には誰も近づこうとはしなかった。元々廃屋だから訪れる理由なんて誰も持たなかったからだ。


 でも、私には信じる事が出来なかった。

 よくあの道は通っていたんだ。だから自然とあの塀を見る事が多く、そのはやにえの光景が印象づけられた。

 おかげで有刺鉄線の“どこ”に“なに”があるのか大体覚えられるくらいに…。


 だからだった――時折、そのはやにえが消えている事に気付いたのが始まりだった。

 子供だった私は『誰かが片づけている』のかも――と想像してたけど、当時も思えばおかしい事に気がついていた。


 ――誰も近寄らない廃屋にどうしてそれだけを掃除する人間が現れるのか?


 この疑問を抱えたまま、いよいよ廃屋が解体される話が出てくる頃。

 ついに私はあの塀を調べてみる事にした。

 門は板によってバリゲートの如く封鎖された状態。だから私は『乗り越える』という選択をしたのは至極当然。


 だけど、ここで思わぬハプニングが起きた。有刺鉄線に服が引っかかってしまった。おかげで塀の上に乗ったまま有刺鉄線から抜け出そうと暴れる私がいた。


 これが私の『命拾い』した理由。


 服を解こうと躍起になっている途中、ふと冷たい風を感じた。

 身震いをする程に冷えた空気、今まで有刺鉄線に向けていた目をゆっくりと上げてみた。



 廃屋の窓から何者かがへばりついてこちらを覗いている。



 ――人間じゃない。


 見てすぐさま思った事。髪も生えていない、服も来ていない、肌も青白い…。


 私は一刻も早くここから逃げ出そうと急いだ。だけど有刺鉄線は未だに服に引っかかったまま。

 これを合図とするように『奴』も動き出した。“どかどか”とけたたましい足音を響かせ、廃屋を走り回る。その音が向かう先は…視線を追うとそこは玄関……。


 服が取れた!


 だけど、今度は靴紐が引っかかった!


 急いだ。死ぬほどこの場から離れようと暴れまわった。

 玄関が静かに開いていく。“ずるり”と手が這い出てくる。


 ――見ちゃだめだ見ちゃだめだ!!


 目を瞑っていたかった。けど私の意思に反して目は固まったように瞳孔を開きっぱなしにしていた。

 ついに『奴』が上半身を露出しかけた時、私は塀から足を踏み外した。

 その拍子で有刺鉄線が靴紐に絡まったままの私の靴は脱げてしまう。重力に従って落ちた私は空き地の地面に強い衝撃と共に倒れ込んだ。

 背中を強打して悶絶する中、『奴』の事を唐突に思いだし、背中が泥で汚れるのを構わず後ずさりした。


 ――そして、私の靴を『青白い手』ががっちりと掴んだ。


 その後、どうやって家に帰ったかは私は覚えていない。


 持っていかれた靴の事は私が正直に話しても、私が不注意で失くしたから嘘を付いているとして真剣に取り合ってもらえず、ただ怒られるだけとなった。


 後日、あの廃屋は解体された。そこで私の靴が見つかる事はなかった。



 あの廃屋の住人は何者だったのか――。


 今はどこでどうしているのか――。



 私は未だにはやにえを見ると、あの事を嫌々ながらも思い出してしまう。 

リハビリホラーです。

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