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恐怖探究  作者: 篠田堅
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彷徨う者

投稿者:中学生U君

 家族全員で久々の旅行へ行った事だった。

 場所は温泉宿として有名なK温泉。父と母と叔父と妹と僕は高速道路を使って長い時間をかけて予約していた宿に辿り着いた。

 さすがに有名な場所であって風流も抜群な所だ。辿り着いた瞬間、妹が大はしゃぎし始めたくらいだった。

 部屋に案内されてからはさっそく両親からの注意事項、荷物の整理と忙しい事があったが終われば待っているのは豪華な海鮮料理の夕食。

 僕と妹は特に期待して荷物の整理に取り組み、全員より早く終わらせる事が出来た。


 夕食が済んだら次は温泉。野球部に所属していた僕にとっては温泉の効能の一つである『疲労回復』はとてもありがたかった。

 温泉は露天風呂の造りだから視界に広がる山の景色を楽しんだりと僕は心身共に癒しを享受した。

 しだいに夕闇が下りてくる静寂に包まれかけた山の景色、隅々まで見渡しているとふと一点に視線が集中した。


 そこは河原で一筋の大きな川が流れている場所なんだけど、何かモゾモゾと動いている。

 暗くてよく見えなかったけど、なんて言うか黒いビニール袋を切り開いたモノを上から被っているとかそんな感じの物体が河原を歩いていた。

 その物体はだんだんと下流に沿って少しずつ進んでいた。

 僕はしばらく温泉で逆上(のぼ)せやすいのも忘れながらジッと見ていたけど、動きがいきなり止まる。

 「何が起こるんだ?」と思いながら、僕はその物体を凝視していたけど、後から来た父と叔父の声によって意識を戻すことになった。

 返事を返してから慌てて視線を戻すと河原にはあの物体は消えていた。

 今一度もっとよく見渡してみたが、見つかる事はなかった。


 もやもやとした心残りのまま僕は温泉に出た後は自分達の部屋に戻った。

 そこには妹と母も温泉に入っていたらしく、誰も部屋にはいなかった。

 この状況を美味しく考えた僕はこれぞとばかりにバックからゲーム機を取り出して敷かれていた布団の上へと飛び込んだ。

 このままゲームに夢中になって数分が立つ頃だった。


 風が窓から吹いて来ていた。

 一つだけ窓を開けていたのでこの地方特有の冷たい風が僕の左半身に当たる。

 何度も何度も当たるモノだからしだいに温泉で暖まった体は冷えていく。

 風に不快感を感じた僕は一旦、ゲームを中断して布団から起き上がり、窓を閉めに向かった。

 窓から顔を出してみると冷たい風が一気に顔を叩き出す。風がこれから勢いを強めていきそうな予感の中、僕は補助錠付きの窓に手をかけた。


 だけど止めた。耳に何やら変なモノが風と混じって聞こえてくる。

 集中してかすかに聞こえる音を聞き分ける。本当にかすかなモノだった。


「……どおぉぉぉぉ……こおぉぉぉぉ……?」


 重低音のようにかすかに振動を伝わらせる音だった。

 人間が出すにはありえないような音声……。

 僕は先ほどの件のこともあってすぐさま窓を閉め、何事もないように部屋にいて後から温泉から出てきた家族を迎え入れた。

 話しても信じないかもしれないって事もあるが、家族にはこの旅行を余計なことで困らせたくない事もあって何も話はしなかった。


 それからは何もなかった。家族全員何も問題なく帰ることができた。

 だけど、僕としては夜に起きた突風がたまらなく怖かった。

 だって吹く度にガタンガタンと窓を揺らす音が何だか“アレが僕を探している”みたいに思えたんだから……。

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