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恐怖探究  作者: 篠田堅
24/44

踏切

投稿者:花屋経営者Pさん

 さっそくですがちょっとしたテストをさせていただきます。


 まず立ち上がって背筋をしっかりと伸ばした状態を保ってください。

 次に目を閉じて力を抜きつつ自分のバランス感覚を感じながら静かにそのままの形を……。

 すると、意識しないにもかかわらずアナタの身体は左右前後とゆらゆらと揺れるようになります。

 

 この状態を約30秒間感じていてください。

 時間が経てばテストは終了です。


 どれくらい揺れを感じましたか?


 普通に揺れる程度だったらアナタは何の問題はありません。

 ですが、腰が曲がったり足が傾いたりするほどの勢いがあるならば……。


 アナタはきっと“催眠術”というモノにかかりやすいのかもしれません。


 ならばご注意をさせていただきます。

 できるだけ『同じリズムで刻む音を出す物」がある所には近づかないよう心に留めておいたほうがよろしいかと……。


――――――――――


 昔の事だ。Kは久しぶりに友達のYと遊びに出かけた日だった。

 場所は東京都の都会としてなじみ深いあのS区。

 両手いっぱいの買い物袋を持ちながらKはこれから駅へと帰るべく向かう所だった。

「明日の学校って何かあった?」

「そういえば生物の実験あったよ。ネズミの解剖実験だとか」

「うっそまじっ!」

 明日で休みが終わりとなると休日で緩みきった意識にとっては気が滅入る事実だろう。

 人ごみを避け、なるべく人気の集まらない道を歩いていくと、踏切に差し掛かった。

 いざ渡ろうとするが、唐突に警報が鳴り始め、すぐにバーが下ろされて進行を妨げられる。

「あーここって開かずの踏切で有名なんだよねぇ。五分以上は待たなきゃ開かないって」

 なるほど、ここがあの俗に有名な“開かずの踏切”かとKは意外な顔をして目の前の踏切を見た。

 けたたましい警報の音がここら一面を響かせ、今か今かと電車の通過を知らせ続ける。

 やがて、一編成目の電車が通り過ぎていく。車以上のスピードによって起こる突風がK達の顔を撫でていく。

 電車は通り過ぎた。しかしまだバーは上がらない。次なる電車の通過を予測させる。

「やっぱり来たよ電車」

Yは分かっていたと言わんばかりの顔でうんざりしていた。そんな顔をKは苦笑しながら相槌を打つ。

 しばらくしてようやく二編成目の電車が通り過ぎていく。二度目の突風がまたしてもK達の顔を撫でた。

「あーもう苛々する!」

 最初に根を上げたのはKだった。

 それはそうだ、警報の点滅と警報の同じリズム、未だ動かないバー、棒立ちになる状態、よほど我慢強い人でなければこの状況は誰でも嫌になるくらいだ。

「うん……」

 相槌を打ってきたY……だがどこか様子がおかしい。

 気分が悪そうだと察したKは「大丈夫?」と心配して聞くが、Yは遠慮しがちに「いや、全然大丈夫だよ!」と明るく返した。

 気のせいだと考えたKはそのまま視線を前に戻して踏切で待つのを再開した。


 ようやく三編成目、四編成目と順調に電車は通り過ぎていったが、さすがに長すぎてKは堪忍の緒が切れかかっていた。

 途中まで警報のランプを目で追ったり警報を左右と別々の耳で聴き分けたりとこの場で持て得る限りの暇つぶしを実行してみたが、限界があった。

「やっぱ別の道通ろうよ! ここ長すぎ!」

 半ば切れながら意義は認めないと言わんばかりの勢いで隣のYに言う。

 だが、今度はYは返事を返してこなかった。

 まるでぼぉーと踏切を見つめ続けているかの視線をしながらこの場に突っ立っている感じだった。


 ここでKは本気でやばいと感じた。

 もうすぐ五編成目の電車が来るが、それよりYが何かとんでもないことをしそうな雰囲気を漂わせていて堪らなかった。

 あと数百メートル、意を決したKは強引にYの手を引いてこの場から離脱することにした。

 待つ努力を泡に返す行為だが、この違和感を払拭するにはこれしかない。

 駆け足で数十メートル離れたと同時、後ろからふあぁぁんっ! って汽笛(?)が鳴り響いた。線路をガタンゴトンッと音が何度も連続して聞こえてくる。

 これを最後に警報がようやく消え、振り向き際に進行止めのバーが上がる様子を目にした。

「ちょっとK痛いってばっ!」

 Yがいきなり暴れ出す。Kは良く見るとYの掴んでいる腕を爪が食い込むほど握りしめていた。

「いきなり引っ張るんだから驚いたよもぅ……」

 少々怒った顔でYはKを諌めつつ、腕を振り払った。

 掴まれた腕を痛そうに擦るYを見つつ、Kは安堵して「やっぱ気のせいだったのかな?」と心の中で思った。

「ほらっ、はやく渡らないとまた電車来ちゃうよ!」

 今度はYからKは腕を掴まれ、踏切を渡るよう催促された。

 Kは違和感を払拭し、元のYに戻った事を喜びながら踏切を渡っていく。

 そして、踏切を渡り切る途中……どこからか小さな声で一言。


「ちっ、あと少しだったのに……」



踏切の噂として、今の二つの警報の音が微妙にずれて鳴らされているのは文部科学省が催眠防止として鉄道会社に規定で言い渡した設定との話があるそうです。

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