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恐怖探究  作者: 篠田堅
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窓を擦る者

投稿者:会社員Jさん

 新入社員の頃、私は社員寮で生活していた。

 就活時代では親からの仕送りで生活をやりくりしていたが、給料をもらう身になったことで幾分か楽になっていた。

 でも今では社員寮は抜けて普通の割安マンションに居を構えている。

 なんで社員寮なら格段と家賃が安いのにわざわざマンションに生活を移したのかは何も少し贅沢な暮らしがしたかっただとかそんな理由じゃない。


 社員寮はワンルームタイプで一人で生活するには十分すぎる広さの部屋で作られていた。

 寮に入る際、注意事項を寮長から詳しく説明されてから入った当時の私には満足すぎる所だった。

 部屋を見渡していると、ふと妙なモノを発見した。

 窓に掛けられている一見普通のカーテンなんだけど、左右のカーテンをピンで何個も刺して隙間が出来ないように細工されている。

 これではカーテンが開けられない。何故にこんな風にしているのか私にはさっぱりわからなかった。だけど開けられないということは開けるなというワケかもしれないと考えた私は手を付けずにそのままの状態にすることにした。


 入社式や手続きが終わってようやく帰って来たのは夜九時あたり、色々と歩き回ったせいもあってすっかり疲れた私はすぐにベッドへ入った。

 電気を消して少しでも早く脳の休息を取るべく、力を抜いてベッドに身を任せて眠りについていった。


 こんな事にもかかわらず、私は真夜中突然目を覚ました。

 時計をみると深夜一時、やけに冴えた意識で覚醒したものの、起き上がってやるようなことはないので再び眠りに就こうと目を瞑る。

 すると、きゅきゅきゅるるるると変な音が聞こえてきた。

 普段聞くような音ではない音。それが寝ている私の耳にしっかりと入って来る。

 この音は聞こえては止まり、聞こえては止まりと繰り返していた。

 私はこの音が窓をタオルで擦る際の音と似ていることに気が付いていた。


 だけどこんな真夜中だ。夜遅くで窓拭きをするようなモノ好きはいる筈がない。

 となると、誰かが悪戯的な目的で外から窓を擦っていることになる。

 私はベッドから静かに起き上がり、忍び足で音の聞こえる窓(カーテンの引かれた)へと近づいてみた。

 どうやら自分が起きているのにも気づかないでこの音を出す不届きモノは窓を擦っているらしい。

 変質者だったら面倒な気がしたが、これでも私は空手の黒帯をもっていて荒事に慣れていた。


 まずはこっそり外の様子を見て見ようとカーテンをなるべく揺らさないようにし、ピンで止められた部分の隙間から外の様子を覗いてみる事にした。

 片目を上手く使って十円玉くらいの丸い隙間から外の様子を見てみた。


 この時、見なきゃよかったと後に私は後悔する。


 “見知らぬ男が片頬をこちらに向けて窓に擦り付けていたのだ”。


 たまらず驚いた私は慌てて後ろに引っ込み、その場で立ったまま硬直してしまった。

 これによって物音を立ててしまった。「やばい!」と心の中で思った。

 同時に音は消えた。静かになった空間に耐えられなくなった私は急いでベッドの中に潜り込み、ガタガタと震えながら必死で眠りに就こうとした。

 あの男がこちらにやってくるかもしれないという恐怖が私を縛りつけ、震えは中々止まることはなかった。

 必死で神様に助けを求めつつ、私は朝が来るのを待つしかなかった。


 いつのまにか私は再び眠りに就いており、朝を迎えていた。

 寝汗でぐっしょりしたパジャマを急いで着替え、昨日起こった現象を思い出しつつ、私は窓の方へと恐る恐る近づいていった。

 カーテンをめくって調べようとしたが、何だか抵抗感が見に付いてしまい、中々カーテンを外すことができなかった。

 結局怖さに勝てなかった私は別手段として、外から窓の様子を見て見る事にした。

 部屋という狭い空間から見るより外の広い空間からなら不気味さも吹き飛ばせるだろうと考えたからだ。


 さっそく外から回って昨日の夜あんなことが起きた窓を見てみた。

 案の定、窓には変な痕がびっしりと残っていた。手形や顔の形をしたべったりとした痕が……。

 これだけなら予想してた通りで心構えは出来ていたかもしれない。

 でも次に見た光景こそが私をマンションに居を移すことを決心させるには十分なモノだった。


 社員寮を全体良く見てみると、雨戸がありえないくらいに“外からボコボコになるまで叩かれた痕”が全ての部屋の窓にあった。

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