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恐怖探究  作者: 篠田堅
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カブトムシ

投稿者:会社員Oさん

 皆さんはカブトムシやクワガタが好きな方ですか? それとも嫌いなほうですか?

 あれって子供のころでは憧れの的ではありましたが、大人になるとそこら辺にいるような昆虫と変わりない価値観へと変貌しているんですよね。

 けど手で暴れる際に発揮する小さな昆虫ながらのあの怪力には今頃になってその凄さに驚かされることがしばしばとあります。

 私の実家は山梨の峠に沿った所にあるんですが子供の頃では夏になるとよく林の中へと入って友達と仲良くカブトムシ採りで遊んだものです。

 自慢じゃないですが本当にたくさんいました。誇張だとは思いますが私の実家の近隣にある林は日本でカブトムシが採れる場所ベスト3に入るくらいだと実感してます。

 そんな子供時代を過ごしてきた私ですが、今もまだカブトムシが好きかと問われると奇妙な答えを出してしまうことがあります。

 正確に言えば、市販のカブトムシはなんともないけど“野生”のカブトムシだけは触りたくもないと答えるような……。

 本当によくわかんない答え方だとは自分でも思っています。これにはちゃんとした理由があるんですよ。


 もう記憶がぼんやりしているからはっきりとしないけどちょうど小学四年生くらいの歳でしたか。

 学校も夏休みに入って私は大量の宿題があるという事実も頭の中から彼方へと飛ばして遊びまくっていました。市民プール、お祭り、水族館と子供の頃の記憶というのは本当に楽しいことは十年以上経ってもしっかりと覚えているモノです。

 社会人となった現在の私で言う自堕落な日々を過ごし、下旬を迎えると楽しいことは今度は子供である私自身が探すようになった日の事、当時親友であったSが自転車に乗って私の家の前までやって来ました。

「これから虫採りいくんだけどO(私の名前)も行かない?」

 虫籠と虫採り網を装備したSからの催促は刺激を求めていた私には望んでいたモノでした。すぐさま日射病予防の帽子を深々と被って父から買ってもらったお気に入りの虫籠を持って来て大急ぎでSの元へと駆け寄りました。

 そのまま自転車に乗って当時通っていた小学校の私を含んだ同級生が良く知る虫採りの穴場という場所へと私とSは立ちこぎをして大スピードで向かいました。

 

 今では通行人にとっては危なっかしい運転をしてましたから子供の頃の自分を叱ってやりたい気分が少しあります。

 こうして虫採り場へと辿りついた私とSは一緒になって虫採りに夢中になりました。

 蝶やカマキリと子供の頃の私は飼育方法や食物連鎖も満足に知らない癖に後先考えずに捕まえた昆虫を手当たりしだい虫籠に詰め込んでいたものです。

 おかげで捕食者によって食い散らかされた昆虫の死骸が虫籠の中には何匹か横たわっていた経験がありました。当時はどうしてか本当に原因がわからなかったです。


 小一時間ほど虫採りに励んでいると、唐突にSから

「そういえばこの前カブトムシが良く採れる場所見つけたからさ、行ってみようぜ!」

 とにこやかに行ってきました。

 この提案には私は純粋に乗りました。私は子供の頃はカブトムシが超が付くほど好きでしたから食いつくようにその場所へ急ぎました。


 Sについてくるがまま林の中を進んでいくと、そこにあったのは葉がうっそうと茂った大きな木でした。(今ではわかりますがシラカシの木だったそうです)

 幹はボロボロで年代を思わせる風貌でゴツイ枝が印象に残っています。

 その木を見つけるや、私達はさっそくカブトムシばかりかクワガタが木にいるのを見つけ、足音をなるべく立てないように慎重に近づいて行きました。

 私もSも興奮を抑えつつ虫採り網を構え、一気にカブトムシ達が集まっている樹液の場所目掛けて虫採り網を振り下ろしました。

 結果は大量。これまでにない規模で私とSはカブトムシやクワガタを手に入れることができました。


 早速私は捕らえたカブトムシ達の観賞を虫籠の中で楽しむ中、Sは

「すごいだろ、この木って樹液が大量に滴っているからかなり寄って来るんだ」

 と“こんな所を知っていたんだぞ”と自慢するかのように私に説明してきました。

 なるほど、確かに上から幹を伝うようにしてたっぷりと黒い樹液が流れ落ちている。

 私は樹液の流れる元を見ようと顔を上に向けてみたりはしたのですが、生い茂る葉で隠れて木の上部はまったく見えませんでした。

 見えないならしかたないと興味を失った私は続けてSとしばらく虫採りをすることになり、夕方になる頃には共に自分達の家へと帰って行きました。


 夜になって仕事から帰って来た父にさっそく自慢するように虫籠から何匹かカブトムシを見せびらかしました。

「うわっ、これは臭いな!」

 ですが父はカブトムシ達の臭いに嫌悪感を感じていたそうなので、私は「臭いってなんだよ」と笑いながらしぶしぶ虫籠へと戻しました。

 実は試しに私も臭いを嗅いでみましたが、なるほどこれは臭いと考えちゃったくらいです。たとえでいうなら生ごみと腐った卵を混ぜたような臭いでした。


 そんな虫採りから数週間過ぎたある日、私は家の中で算数の宿題を頭を悩ませながらやってた時でした。

 遠くからパトカーのサイレンの音が聞こえてくるや、ふと私は鉛筆を止めて音の音源を捜すことに集中が向きました。

 なんせ私の当時住んでた場所は田舎そのものでしたからパトカーのサイレンの音なんて珍しいモノだったからです。

 しかし、しばらくすると離れていくパトカーのサイレンと共に私はそれへの興味を失いました。思えば深く興味を持たなくて良かったと今では逆にそう考えてます。


 そう考える原因は夜の時でした。

 お風呂から出て扇風機で涼んでいる途中、母が

「O、S君からお電話来てるわよ」

 と呼んできたんです。

 何を言いに電話をしてきたんだ? と蒸し暑いのを我慢しながら私は母から受話器を受け取り、「はい、もしもし? Oだけど……」と受話器に話しかけました。

「……聞いたか?」

 静かな声でSは私にそう言ってきました。いつもの元気そうな声でないSの様子に私は一瞬誰だ? と思ったくらいです。

「え、何?」

「だから、今日○○(林の名前)で来ていたパトカーの話を聞いてないのかっ!」

 よく聞いてみると、Sの声は何だか震えているようにも聞こえていました。

 それよりパトカーが○○に来ていたのかという事実に私は驚きつつ、私はSに何を伝えたいのか再度聞き直しました。

「俺も母ちゃんから聞いたんだけどよ、何でもあの林の中で“首つり死体”が見つかったんだって! それも数日前から行方不明になってた人らしい」

 

 私の周りから音が消えた気がしました。

 そんなモノがある林で私とSは虫採りに行ってたという事実は身体の体温を冷やすには十分でした。しかもこれだけでは終わりません。

「おまけに警察が張ってた黄色いテープ……どうも俺達が前に来たあのでっかい木の所を中心に張られてたらしいぞ」

 その後、私はどうやって受話器を切ったか良く覚えていません。

 

 あの日から、私は虫採りをしたことがありません。

 ちなみに、あの時とったカブトムシやクワガタは全部外へと逃がしてしまいました。

 今でも思い出そうとすると嗚咽感がこみ上げてきます。父と嗅いだあの時のカブトムシの臭いを。

 きっとあれは樹液と一緒に混ざった……。

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