鋼鉄の乙女 5
そこに描き出された風景は、悲惨の一言に尽きた。死者こそまだ出ていないものの、血と悲鳴がそこかしこを埋めていた。
呆然とするその中に、場違いなファンファーレが響きわたる。その音とともに講堂の奥の暗闇から現れたのは、この場には不似合いな装飾のほどこされた黒い機関車だった。それが、中途半端に敷かれた儀礼用の線路の上を、もどかしいほどにゆっくりと走ってくる。
「乗りなさい!」鋼の機体から響いたその音声はまるで救いのようにその場にいる者達に木霊した。そして、そこにいる者達が、次々と自力で、あるいは人に手を貸しながら、未だ破壊の続く中、その中に次々と呑み込まれていく、そうして、彼、仁科秀幸は自分の未来を閉ざしたその鋼鉄のカタマリへと呑み込まれていった。
「初めまして、そして、ようこそ私の中へ」彼が通されたのは心臓部だった。そして声とともにその壁面に灯りがまるで彼を誘導するかのように瞬く、幻想的なその光景に見とれるようにして彼は歩を進める。そして、その手が行き止まりと思われる壁に触れた。途端、彼の体を包み込むようにして壁が迫ってきた。個性的とは言い難い悲鳴とともに彼はその中に吸い込まれていった。
気を失っていたのは数秒の事だろうか、暗闇の中、居心地の良い椅子に座らされ、目の前では緑の信号灯が明滅している。引き寄せられるように彼がそこを向いたのをまるで見計らったかのように声が響く。
「個体情報の登録を開始致します。貴男の名前を入力してください。…心拍数に多少の異常が見られます。落ち着いて下さい」ぼう、としたまま、問われるままに自分の名を告げる。
「OK、個体情報の走査を開始します。指紋照合、虹彩チェックOK、声紋照合、個体情報の登録が終わりました。では、目覚めの儀式を、あなたの想いをその口唇に!!」
そして彼と彼女との儀式は成された。
「OK、仁科 秀幸をRD505、”絡みつく蛇”のマスターとして認証します。リンク開始、同調率、10、20、30、50%を越えました、80%、私を信じて、そして私達を信じて、MAX!! Ki.A.I.System発動 Aura感知システム、シグナルグリーン、変動フィールド展開開始、座標軸範囲指定開始、クリア、未来値設定、クリア、固定します。 Your Order is Mine(貴男のお望みのままに)!!」
外の光景が多重写しになり、そのうちのひとつが選択された時、彼の目の前にはその光景が当たり前のように広がっていた。そこには先ほどまでの穏やかな時流の続きが当たり前のようにそこでは展開されていた。
その青空の下で静な声が響く「我が名は絡みつく蛇、原初にその願いと引き替えに禁断の果実を渡した者」




