鋼鉄の乙女 4
「ここは最後の砦だったハズだ」仁科秀幸が外の男の信条と行動に同意するかどうかは知らないが男は先刻、彼が思っていたことを機械化された拡大音声で絶叫した。
「我々はこの機械化された”世界”に断固として反旗を翻す”自然人”である。ここは我々と思想を同じくする者達のその最後の最後の牙城であったはずだ。あの輝かしき過去、機械は我々の忠実な手であり足であり、奴隷であった。その上に君臨する王を造り出すための施設であったはずだ、ここは。だからこそ、我々は君たちを栄えある同志とみなし、陰となり日向となり協力を惜しまなかったハズだ。それなのに、ああ、それなのに、この所業は!? この仕打ちは!? これは我々に対する純然たる裏切り行為だ。文明の行き着く先? 時代の流れ? その潮流の中に毅然と立つ姿こそが先人達の想いを受け継ぐ先では無いのか? この裏切り! 大いなる背信!! この人と機械との関係の理想の堕落した姿に我々には失望する!! 裏切り者には制裁を、理想の敗残者達に永久の安らぎを!!」その宣言と詰めかけた自称自然人の呼びかけが終わると同時、問答無用とばかりにその破壊を現実化する武器が壮大で勇壮な曲と共に打ち込まれていく。
男の言葉がだんだんと意味を無くし、喜劇的ともいえる哄笑となるにつれてその破壊は広がっていった。
講堂の中は混乱の渦に飲み込まれていた。最初、その喜劇的な行動に対して無責任に囃したてていたものも、事が現実の破壊という段階に至ってはじめてその重大性に気づいたようであった。あるものは硬直し、あるものは泣き喚く中、生徒の安全を護るという名目で講堂の裏にいた武装化兵らの行動は遅速だった。
なぜならこれは予想されていた災害ではなかったからだ。災害の方向は目の前の機関車であるハズだったのだ。そのために彼らの行動は遅きにすぎた。




