9番目のアリス
思い出すのは、一つの風景、草原を走る小さな子供達、風薫る丘、せせらぎの中で私は、それをみつけた。
その少年の手を離れ、空を飛ぶのは、小さな小さな機械仕掛けともいえないような小さな紙飛行機、私はいつものようにその紙飛行機にその小さな身体を預ける。それはいつものいたずら、小さな妖精の気まぐれ、でも、私はそれをやめた。
身を預けた紙飛行機はまるでふかふかの毛並みの絨毯のように私を包み込み、薔薇のゆりかごのように私を心地よい眠りに誘う。
どこまでもどこもでも、その心地よさの中に居たくて私は、自分の小さな小さな翼を、それでも精一杯に広げて、飛べるだけ遠くにと、それを風にのせる。
それでも、終わりはやってくる。
す、とんと、その小さな紙飛行機は今までにはありえないほど綺麗に草原の海原に着地する。興奮に顔を真っ赤にした少年が、彼女のもとに辿り着き、彼女の乗る紙飛行機を大事そうに抱える。
そこで初めて彼女は彼を見つけた。
彼のその手は様々な飛行機をまるで魔法のように創り出す。彼は知らないけど、彼女はいつも彼の側にいた。彼の創り出す小さな飛行機達はとてもとても居心地が良かった。
最初のそれは、愛という言葉さえ知らない小さな妖精の純粋たる好意であり行為であった。そうして、それは、幸か不幸か、見えないはずの彼女に彼は気づいてしまった。かすかな気配に、見えないモノにそうするように彼は語りかける。彼女は、歓喜し落胆する。
長い時間を過ごすうちに彼女は彼の事を愛してしまっていた。しかし彼は彼女の存在に気づいても彼女の声は彼には届かない。
だから、扉が開くと同時に飛び出していったのだ、彼の元に、他の誰にも奪われないように、そうして待ち望んでいた声が響く
「ドロシー、力を貸してくれるかい、この我が儘な私の頼みを、この世界を否定せざるを得なかった私の頼みを、今でも私に力を貸してくれるかい私の愛した可愛い娘」
「Yse,My Master(しょうがないわね、助けてあげるわ) I stand by you(私はいつでもあなたともに)」