愚鈍な女(ドロシー)
それはまさに喜劇的な光景だった。今、まさにフィアナに肉薄するミサイルがコミカライズされ、ぽむっという、気の抜けた音をたてて爆散し、その漫画的な爆煙の中を鋼鉄の機関車が無傷でくぐり抜ける。
それは、おもちゃとなったミサイルが、ダメージを与えるハズがないという共通認識の具現化、そう、それはまさに”不思議の国のアリス”にふりかかる不条理
その意志に呑まれた操縦士の駆る飛行機が、喜劇的な変化をとげ、繰り手の意図を無視して蒼穹を駆け抜ける。
対照的にその非現実は、コーディネーター 仁科 秀行の意識にフィードバックされ鋼鉄の機関車は、蒼穹をさらなる速度とさらなる自由をもって駆け抜ける。
それこそがKi.A.I.Systemの真骨頂、そう、それは世界をすら塗り変え得る。
その不条理の中、ただ一機、現実を保ったまま、大佐は己の飛行機を操り続ける。そこにあるのは己の現実を貫き通す確固たる意志。
大佐の信じる現実と仁科 秀行とフィアナが創り出した非現実が侵食しあう
「仁科 秀行、どうしてだ、どうしてそこまでその機械人形に、教授の創る世界の破壊に手を貸す」
「大佐こそ、何故、そこにいるんですか、大佐こそ教授の思惑をもっとも理解している僕と同じ所にいる人じゃないですか」
「やはり、気づいてしまったからだというのか仁科 秀行、それがそのものであると、俺達が感じていた機械の中に宿る本質だと、それを愛している自分に気づいてしまったからこそ、そこにいると言うのか仁科 秀行」
「そう、だからこそ僕はあなたの前に立つのです。大佐」
「ならばやはり、私はお前を否定する。それを知っていながらそこに立つお前を否定する。なぜならばお前は過去の私だからだ、そうしてこの不条理を理解し力にできるのがお前だけだと思うな仁科 秀行、そして鋼鉄の妖精、この世界は私も経験済みだ仁科 秀行、ドロシー、力を貸してくれるかい、この我が儘な私の頼みを、この世界を否定せざるを得なかった私の頼みを、今でも私に力を貸してくれるかい私の愛した可愛い娘」
「Yse、My Master(しょうがないわね、聞いてあげるわ)、I stand by you(私はいつでもあなたともに)」