魔女への鉄槌(マレフィスマレフィスガム)
新たなる時代の幕開け、そう銘打たれた情報は、アンダーグラウンドに小さな波紋を立てた。ただ、その小石には、無視できない名前がついていた。すなわち、教授 R.J.ノイマン、と
そのさざ波は、大言壮語、虚言と名のついておかしくないものだった。そこに自らの魂さえ機械化した教授の名がついていなけれれば、いわく…、人と子を為すことのできる機械と その衝撃は、その真偽を問う前に封鎖された。
しかし、人の飽くなき好奇心はそれさえも暴き立てる。
「なんということをするのですか、あなたは」人との円滑な対話の為だけに造られた教授の立体映像に向かって、白銀の髪の美女は鬼女もかくやと思わぬ形相で睨み付け、手にした報告書を叩きつける。
「やれやれ、ミス・レイン、あなたもですか、あのような私の名を語る虚偽に踊らされるとは、実に実に嘆かわしい」足音高く訪れたその空間に声だけが響く。
投げ出された分厚いレポートは、教授のホログラフを通り抜け、そして、教授そのものともいうべきこの空間に一時固定され、再び極めて紳士的に彼女の手へと戻される。
「限定空間における重力制御ですか、次は何をたくらんでいらっしゃるのですか教授」冷ややかな目で彼女は睨み付ける。
「あまりおどろかんのだな」いささか拍子抜けしたていで教授のホログラフが肩をすくめる。
「今更、これぐらいで…、実用化のメドがたったら、そちらのほうもいつも通り詳細なレポートをお願い致します。お気づきの通り緊急措置としてこの空間は閉鎖させて頂きました。いかなあなたとはいえ、繋がっていなければどうしようもないでしょう、所詮外界に残っているのは|劣化コピー(不完全体)でしょうから」
「興味ぶかいレポートだ。ミズ・レイン、しかし君たちは大事な事を見落としていないか」
「ミス、です。プロフェッサー」
「子供は親が居なくとも育つものなんだよ、それこそが私の求めた幻想、この身に息づく遺志は、ただそれだけのために」
「では、私達も思うようにやらせていただきます。プロフェッサー、やはりあの娘達を止めてはくれませんか」
「わかりきった事じゃないかね。それに…」
「それに?」
「思春期の娘達が親の言う言葉など聞くものかね、止めたければ、止めて見せたまえ、それでつぶれるようならそれまで、さぁ、配役は与えられた、役に合わせて、踊りたまえ」
「なにもかも、そうあなたの思い通りにはいってたまるものですかっ!!」
「それすらも考慮のうちだよ、ミス・レイン、さぁともにこの物語の転がる先を見てみようじゃないか」
「…お聞きの通りです大佐、予定通り、作戦名”眠れる黒い羊”作戦を開始してください」
「狂人の戯言など、どうでも良い、私は私の仕事をするだけだ。雷鳥、出陣」