あなたに逢いたくて/鋼鉄の乙女1
「ねぇ、来ちゃった。アナタに逢いたくて、我慢しきれなくって、私…」
流れるようなブロンドの髪、少し潤んだ鳶色の瞳の持ち主はそう言って、恥じらうようにバラ色に頬を染めた。それはありふれた恋人達の一風景、その言葉を発するものが鋼鉄の機関車でさえなければ。
彼は早鐘のような自分の鼓動を認識していた。轟音とともに問答無用に学生寮に現れた鋼鉄の機関車の存在に。その眼前に映し出された金髪の美女の立体映像に見覚えはなかったが、彼女の身体の方には、確かに見覚えがあった。空気抵抗のことを考えながらも、意図的に残された旧時代的な装飾品、彼女なりの自己主張のカタマリというべき騒々しさの中の一つの洗練された統一感のある機体のペインティング。彼女の名前はフィアナ、教授、R.J.ノイマンの娘、自動機関だ。
『まさか、ここまでやるとは思わなかった』
ー鋼鉄の処女ー
1
彼は失望していた。
「ハイ、そこでタ−ン」
大広間を埋め尽くす人、人、人の波の中、天井から降り注ぐ音の洪水に流されないよう目の前のちょいと可愛らしげな女の子にステップのリ−ドを取られながら、彼、仁科 秀幸は失望していた」
『ここは最後の聖域だったハズだ。』それがなぜ?…、わかってはいる。一言でいえばそれは時代の流れというものなのだ。自動機関という名前の便利な労働力を手に入れた。これが、その代償なのだ。しかし、ここは最後の砦だったはずだ。
人間の運転士の!!