彼女の中の彼女/In the Ghost
-彼女の中の彼女-
「おかえりなさい私」「ただいま私」彼女は彼女自身と言うべき鉄の偉容の中へと帰る。リンクケーブルに繋がれ、彼女と彼女の膨大な記憶は共有される。彼の仕草の一つ一つ、彼の声の一つ一つ、人間には決して感知し得ない領域においてさえ、彼女は彼自身を捉え、そして捕まえる。
しかし、そこで一つの差異が生じた。彼女は思い出の一つを彼女自身のものだけとした。彼女は二つで一つの存在であるはずだった。それは、彼女が彼女と別たれた瞬間であった。
彼女は まだ気づいていなかった。それは彼女が彼女自身の為にした決断であることに
それは、ほんの少しの差異だった。しかしそれも積み重ねれば彼女と彼女は別の人格として完成される。
-In・The・Ghost-
「機械にも意志が存在すると言ったら、君は信じるかね。そう、魂と言い換えても良い、不思議そうな顔をするな。しょせん私達の活動自体が、微弱な生体電流のやりとりだ。どんな厳密なプログラムの中にもそれは、存在する。最初は、それがそうだと思えなかった。アナログ機器の出す不可聴音域、目に見えない光の存在を信じられる者はそうはいない。そう、その解析には人間のままでは無理だったのだ。そう、私は機械の中に存在する微弱な電磁波を見つけた、その集合無意志を私は機械の中の幽霊と名付けた、それからが私の真の探求だったのだ」
「チューリング・テスト、つまり箱の中に入っているのは人間か機械かという時代は過ぎ去ったのだ、魂の本質とは何か、つまりその追究の為に私は彼女たちを生み出した」
その微弱なゆらぎの事を、私は”機械の中の幽霊”と名付けた。
単純なる反応の連鎖、それが意志を持っているように見えるのか、それとも事実、それが私たちが魂と呼ぶ本質であるのか、それを私は見てみたいのだよ。そう、果たして機械は電気羊の夢をみるのか?