たぐり寄せられる意図
救いの天使は戦闘機の形をしていた。
眼下に展開されるその光景は線路をはずれて激走する鋼の偉容だった。
襲撃は、警告も威嚇もないいきなりの本気、のはずだった。自身の戦闘機が「はーい、こちらドロシー、恋人達の時間を邪魔して悪いんだけどわたしもお仕事なの、ごめんねぇ」等といきなり和やかな自己紹介等を始めなければ、だ。
彼女の中で、男が半ばあきらめつつ「…ドロシー、仕事中は口を挟むなと言わなかったか」と言うのに相変わらずの調子で「ドリィって呼んでくんなきゃ、言うこと聞かないって言わなかったかしら、わたし」と戦闘機のコクピットに浮かぶ小人大の彼女が窘める。
「ドリィ?」不毛な会話の再開はフィアナによって遮られた。
「そう、Serial No.9(シリアルナンバー・ナイン) Drothy、ようこそ、我が妹、そしてGood-Bye!!」
「…どういうことよ、それ」和やかとも言える口調で告げられる言葉に不審げにフィアナが返す。
「線路をはずれた機関車、開発名”絡みつく蛇” 固有人核名フィアナは過激保護団体”自然人”によって強奪された。そして私達問題対策組織”魔女への鉄槌”による解決を開始、という筋書きなのよ我が妹、ち・な・み・に問答は無用よ、It's Show Time!!(イーッツ、ショー・ターイム)」
「…システム”たぐり寄せる意図”起動」
ハイテンションな彼女の中で男は不機嫌に呟く。その声に答えて自身が呑み込まれていく、それは例えるならば巨大な一つの生物の器官として組み込まれていくという感覚、それはこの機体が生まれた時からずっと自身の身体であったというような錯覚を生み出す。
外部スクリーンに映し出されるその光景の中で、五機の戦闘機が、一つの意志のもとに統合され、有人ではあり得ない軌道を描き出す。
それは美しい連携だった。それが、自身に襲いかかる害意でさえなければ
「いいわ 受けてたってやろうじゃないの、人の恋路を邪魔する奴に相応しい末路を用意してあげるわ、ダーリンいくわよ」
「ちょっと、待て、なんでこうなるんだ? だいたいあの戦闘機、お前と同じ系列だろうが」
「簡単な事よ、うちの会社も一枚岩じゃないって事」
「よーするにどこをどう考えてもお前の行動のせいというわけか…」
「済んだ事は言ってもしょうがないでしょ、とりあえず振り切るわよ」
「無理だ、振り切れるわけない。相手は戦闘機で、こっちはただの機関車だぞ!!」
「ダーリン、そんな事言わないの、あなたが私を信じてくれるなら、あなたが力を貸してくれるなら、物理法則すら、因果律すら私はそれをねじ曲げて見せる」その会話の最中、ありえない軌道を見せてミサイルが弾着する。
「…ちなみにこれが、その実例」
『信号黄色、搭乗員は身体を固定してください』
「言っている場合かっ!!」
「もう一度言うわ、あなたが私を信じてくれるなら、あなたが力を貸してくれるなら、私は貴男の意志を現実にして見せる。…でっ、も、愛する人とともにっていうのもそれはそれで美しいと思うのよ」
「ただの鉄の塊がそういうことをさらりと抜かすな!!」
「あら、失礼ね。身長170cm、プラチナブロンドのグラマラスな美人という基本設定を与えられているわ」
『信号、赤色』
「このままだと、そういう結末を迎えるわよ、いいの?」
「いいわけがあるかっ!!」
「OK,Ki.A.I System発動、Your Order is mine!!(お気に召すまま)」
「曲率変換システム”スレイプニル”起動」その機能はあらゆる曲線を直線へとねじ曲げる。すべての路はただの直線道路と化し、彼女はその中をあり得ない速度で駆け抜ける。
「七人の小人起動、ハンプティ・ダンプティ、壁から落ちた(Fallen Down)」呪文のようなその声に、ミサイルが機体に触れる前に爆散する。
「Ki.A.I systemの変動フィールドを確認、マスター、気合い入れてっ」あり得ない現実同士がぶつかる中でドロシーも悲鳴のような号令を自身の主人に向かって飛ばす。
「「あなたの思いが現実となる、あなたの望みが現実となる。あなたの意志が現実を侵す」」
「「Your Order is Mine!!、It is My Order!!(それが私達の存在意義だから)」」