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悪役令嬢は物語に支配された世界を、文明で解放する  作者: 南蛇井


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第8話 魔導農具発明

乾いた風が吹き抜ける中。


レオナは無言で農具を分解していた。


錆びついた鍬は、すでに原形を半分失っている。


刃は外され、柄は分解され、部品ごとに並べられていた。


その手つきは迷いがない。


まるで最初から構造を理解していたかのように。


セラは横で工具を渡しながら、小さく息を吐く。


「本当にやるんですね……」


「当然よ」


レオナは淡々と答える。


「原因が分かっているなら、対処するだけ」


シンプルな理屈だった。


村人たちは少し離れた場所から、その様子を見守っている。


ざわざわと不安げな声が広がる。


「壊すつもりか……?」


「ただでさえ少ない農具なのに……」


誰も止める勇気はない。


だが、理解もできない。


やがて。


レオナは一つの小さな石を取り出した。


淡く光るそれは――魔石。


村ではほとんど使われていない、貴重な資源。


セラが確認する。


「それを使うんですか?」


「ええ」


レオナは頷く。


「出力は最低限でいい。目的は補助」


魔石を刃の付け根部分に固定する。


さらに、簡単な回路を刻む。


金属に細い溝を彫り、魔力の流れを通すための“道”を作る。


その作業もまた、迷いがなかった。


村人たちはただ見ている。


理解はできない。


だが――何か異様なことをしているのは分かる。


しばらくして。


レオナは手を止めた。


「……こんなものね」


組み上がったそれは、一見すると普通の鍬。


だが、よく見れば刃の一部に魔石が埋め込まれている。


簡易的な――魔導農具。


レオナはそれを手に取った。


軽く振る。


魔力がわずかに流れる。


問題なし。


「完成」


その一言に、周囲がざわめく。


「完成って……」


「そんなもので変わるわけが――」


一人の村人が思わず声を上げた。


「壊れるぞ!」


焦りと不安が混じった声。


当然の反応だった。


未知のものに対する拒絶。


だがレオナは気にしない。


「試す」


一言だけ。


それだけで十分だった。


レオナは畑へと歩き出す。


乾いた土の上に立つ。


そして、鍬を構えた。


セラが少し身を乗り出す。


村人たちは固唾を呑む。


レオナは何も言わず――振り下ろした。


その瞬間。


ざくり、と。


これまでとは明らかに違う音が響いた。


硬かったはずの土が、まるで柔らかい土のように割れる。


さらにもう一振り。


軽い。


明らかに軽い。


土が抵抗しない。


「……え?」


誰かが呟く。


レオナはそのまま動きを続けた。


一定のリズムで耕していく。


ざく、ざく、ざく。


土が次々と掘り返されていく。


深く。


均一に。


そして何より――速い。


圧倒的だった。


従来の数倍の速度。


それでいて、労力は半分以下。


数分も経たないうちに、一角の畑が見違えるように整えられていた。


ふわりとした土。


空気を含み、水を受け入れられる状態。


レオナは動きを止めた。


「こんなものね」


息も乱れていない。


まるで大したことではないかのように言う。


沈黙。


村人たちは、言葉を失っていた。


誰も動かない。


誰も声を出さない。


ただ、目の前の光景を理解しようとして――できない。


やがて。


一人が、震える声で言った。


「……なんだ、それは」


誰に向けたわけでもない問い。


だが答えは一つ。


レオナはあっさりと言う。


「改良しただけよ」


それだけ。


特別なことはしていない、という口調。


だが。


その“だけ”が、常識を覆していた。


セラが小さく笑う。


「……やっぱり、こうなりますよね」


半ば確信していたような声。


レオナは鍬を地面に立てかける。


「問題はないわね」


すでに次を見ている。


「次は収穫効率の確認」


村人たちが一斉に顔を上げる。


「収穫……?」


「ええ」


レオナは淡々と続ける。


「耕作だけでは意味がない。結果が必要」


その視線は、畑の先へ向けられていた。


(どこまで改善できるか)


それが重要だ。


村人たちはまだ呆然としている。


だが、空気は確実に変わっていた。


絶望だけだった場所に――


わずかな可能性が生まれている。


風が吹く。


先ほど耕された土が、柔らかく揺れる。


それはまるで、この土地が息を吹き返したかのようだった。

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