第6話 辺境到着
長い旅だった。
王都を出てから数日。
整備された街道は徐々に途切れ、やがて土の道へと変わり、最後には――道と呼べるものすら曖昧になっていた。
馬車は揺れる。
何度も、何度も。
セラはすでに疲労を隠しきれていなかった。
「……想像以上ですね」
小さく呟く。
その言葉に、レオナは書類から顔を上げることなく答えた。
「そうね」
短い返答。
だが、その目はしっかりと状況を捉えていた。
やがて。
「到着しました」
御者の声が響く。
馬車がゆっくりと止まる。
レオナは扉を開けた。
外へ降り立つ。
そして――
目の前の光景を見た。
荒野だった。
風が吹き抜け、乾いた土が舞い上がる。
緑は少ない。
地面はひび割れ、ところどころに雑草が申し訳程度に生えているだけ。
「……これは」
セラが言葉を失う。
村があった。
いや、“村だったもの”と言った方が正しい。
家々は崩れかけている。
屋根は抜け、壁はひび割れ、修繕された形跡もほとんどない。
人影が見える。
だが。
誰もが痩せ細っていた。
子供も、大人も。
顔色は悪く、動きは鈍い。
活気というものが、まるで存在しない。
レオナはしばらく黙ってその光景を見ていた。
驚きはない。
動揺もない。
ただ、観察する。
視線が動く。
家屋の構造。
配置。
人口密度。
資材の有無。
そして。
ゆっくりと歩き出した。
セラが慌てて後を追う。
「お嬢様、危険では――」
「問題ないわ」
即答。
周囲の住民たちは、遠巻きに二人を見ている。
警戒と、諦めが混じった目。
レオナはそれすらも観察対象として捉えていた。
やがて。
村の外れに出る。
そこには、畑があった。
……いや。
“畑のようなもの”だった。
土は固い。
耕されていない。
水路も整っていない。
作物はあるにはあるが――
明らかに生育不良。
枯れかけているものも多い。
レオナはしゃがみ込み、土に触れた。
指で崩す。
乾いている。
栄養も足りていない。
しばらく沈黙。
そして。
(これは酷い)
心の中で、そう結論づけた。
セラが隣で顔をしかめる。
「これで生活しているんですか……?」
「していないわね」
レオナは立ち上がる。
「できていない」
はっきりと言い切る。
その時。
後ろから、おずおずと声がかかった。
「あの……」
振り向く。
そこには一人の老人がいた。
背は曲がり、痩せ細っている。
だが、その目にはわずかな責任感が残っていた。
「……あなた方が、新しい領主様で?」
レオナは軽く頷く。
「そうよ」
老人は深く頭を下げた。
「この村の長をしております」
村長。
名乗りはしなかったが、それで十分だった。
レオナは短く言う。
「状況は見た通りね」
「……はい」
村長の声は重い。
一瞬、言葉を選ぶように沈黙し――
やがて、絞り出すように言った。
「食糧が……足りておりません」
風が吹く。
乾いた音だけが響く。
「今年も作物はほとんど実らず……備蓄も底を尽きかけております」
セラが息を呑む。
「そんな……」
村長は続ける。
「このままでは……冬を越せません」
静かな言葉だった。
だが、その意味は重い。
――この村は、近いうちに崩壊する。
レオナは何も言わず、もう一度畑を見た。
荒れた土地。
枯れた作物。
痩せた人々。
そして。
ゆっくりと、口を開く。
「なるほど」
ただ一言。
その声には、焦りも、悲しみもなかった。
あるのは――
理解と、判断。
(原因は単純)
視線が土をなぞる。
(技術不足)
そして。
ほんのわずかに、思考が進む。
(なら)
解決方法も、単純だ。
レオナは村長を見た。
「いくつか確認したいことがあるわ」
その言葉に、村長が顔を上げる。
「……はい?」
レオナの目は、すでに次の段階を見ていた。
これは絶望ではない。
ただの――未整備領域。




