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悪役令嬢は物語に支配された世界を、文明で解放する  作者: 南蛇井


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第59話 聖女視察決定

王都。


大神殿。


静寂。


高い天井。


差し込む光。


揺れる燭台。


その中心。


一人の少女が跪いている。


聖女。


リリア。


祈りの最中。


目を閉じている。


呼吸は静か。


周囲の空気さえ。


整えられているかのよう。


だが。


その均衡は。


長く続かなかった。


足音。


石床に響く。


急ぎ足。


不釣り合いな音。


祈りの場には似つかわしくない。


リリアの眉がわずかに動く。


だが。


目は開かない。


祈りを優先する。


足音が止まる。


一瞬の躊躇。


そして。


声。


「聖女様」


抑えた声。


だが。


焦りが滲む。


リリアはゆっくりと目を開ける。


光を受ける瞳。


静かに振り返る。


神官が一人。


頭を下げている。


「何かしら」


穏やかな声。


だが。


その裏に。


微かな違和感。


神官は顔を上げる。


迷い。


一瞬。


そして。


告げる。


「王国より報告が届きました」


短い言葉。


だが。


空気が変わる。


リリアの視線が鋭くなる。


「内容は?」


神官は息を整える。


そして。


続ける。


「辺境の都市……グレイウッドについてです」


その名前。


初めて聞く。


だが。


なぜか。


引っかかる。


リリアは静かに問う。


「それが?」


神官は一瞬だけ視線を落とし。


言う。


「王都を上回ると」


沈黙。


時間が止まる。


リリアの表情がわずかに揺れる。


理解が追いつかない。


「……どういう意味?」


静かな声。


だが。


圧がある。


神官は続ける。


農業。


工業。


医療。


教育。


通信。


治安。


すべて。


優位。


簡潔に。


だが。


正確に。


伝える。


リリアは黙って聞く。


途中で遮らない。


最後まで。


すべてを。


そして。


沈黙。


長い。


考える。


整理する。


だが。


結論は出ない。


「……ありえない」


小さく呟く。


だが。


否定しきれない。


報告は。


具体的すぎる。


嘘には見えない。


リリアはゆっくりと立ち上がる。


衣が揺れる。


光が差す。


その姿。


神聖。


だが。


その内側。


揺れている。


「……神託は?」


問い。


最も重要な点。


神官は答える。


「ありません」


即答。


リリアの目が細まる。


それが。


異常。


これほどの事象。


世界の均衡を揺るがす可能性。


それに対して。


神は沈黙している。


ありえない。


「……なぜ」


誰に向けたものでもない。


問いが零れる。


答えはない。


神官も。


沈黙。


リリアは一歩歩く。


祭壇へ。


手を置く。


冷たい石。


現実。


確かめるように。


「……見なければ」


小さく言う。


結論。


自分の目で。


確かめるしかない。


神託がないなら。


なおさら。


自分で判断する。


聖女として。


世界の均衡を守る者として。


リリアは振り返る。


神官を見る。


「準備を」


短い命令。


迷いはない。


神官が深く頭を下げる。


「はっ」


すぐに動き出す。


足音が遠ざかる。


再び。


静寂。


だが。


先ほどとは違う。


張り詰めている。


リリアは窓の外を見る。


王都。


広がる街。


だが。


その向こう。


見えない場所に。


グレイウッドがある。


未知。


理解不能。


そして。


不安。


胸の奥に。


小さく。


確かに。


芽生えている。


「……何なの」


呟く。


答えはない。


だからこそ。


行く。


確かめるために。


その正体を。


善か。


悪か。


あるいは。


そのどちらでもないのか。


まだ。


誰も知らない。


だが。


一つだけ確かなこと。


宗教が。


動いた。


それは。


世界が動くということ。


静かに。


しかし確実に。


均衡が揺らぎ始める。


その中心へ。


聖女は向かう。


光を背負って。


あるいは。


その意味を問いながら。

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