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悪役令嬢は物語に支配された世界を、文明で解放する  作者: 南蛇井


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第57話 王国報告

グレイウッド。


来賓用施設。


静かな部屋。


机。


椅子。


簡素。


だが。


無駄がない。


使者は座っている。


目の前。


白紙。


報告書。


ペンを持つ。


動かない。


書けない。


理由は単純。


言葉が足りない。


「……どう書く」


小さく呟く。


誰も答えない。


護衛たちは部屋の端。


黙っている。


同じだ。


見たものは同じ。


理解したことも同じ。


だが。


表現できない。


使者は深く息を吐く。


整理する。


一つずつ。


農業。


安定供給。


余剰生産。


“飢えがない”。


書く。


ペンが動く。


だが。


止まる。


それだけでは。


伝わらない。


工業。


魔導具の量産。


品質の均一化。


これも書く。


だが。


まだ足りない。


通信。


距離の無効化。


即時伝達。


統治の効率化。


書く。


それでも。


足りない。


医療。


予防中心。


病の抑制。


教育。


多種族統合。


知識の継承。


治安。


犯罪ほぼゼロ。


水道。


全域供給。


すべてを書く。


羅列。


事実。


だが。


それだけでは。


意味が伝わらない。


使者はペンを置く。


額に手を当てる。


理解する。


問題は。


“要素”ではない。


“構造”。


すべてが。


繋がっている。


単体ではない。


全体。


システム。


それを。


どう書く。


沈黙。


長い時間。


やがて。


使者は顔を上げる。


決める。


遠回しは不要。


飾りも不要。


事実だけ。


そのまま。


ペンを取る。


そして。


一行。


書く。


『グレイウッドは王都を上回る』


止まる。


その一文。


重い。


だが。


嘘ではない。


むしろ。


控えめ。


続ける。


『農業・工業・医療・教育・通信・治安、すべてにおいて優位』


さらに書く。


『単一分野ではなく、全体として完成されている』


ペンが進む。


止まらない。


もう迷いはない。


書くべきことは決まった。


現実。


それだけ。


『王国との格差は拡大中』


『人口流出は必然』


『現状のままでは、王国の衰退は不可避』


一つ一つ。


積み上げる。


冷酷な事実。


だが。


必要な報告。


護衛の一人が呟く。


「……そのまま出すのか」


使者は手を止めない。


答える。


「それしかない」


嘘は意味がない。


隠しても。


いずれ露呈する。


ならば。


今。


正確に伝える。


それが役目。


書き終える。


最後に。


一文を加える。


ペンがわずかに止まる。


そして。


書く。


『本件は交渉ではなく、要請とすべき』


静寂。


意味は明確。


立場が逆。


王国が。


頼む側。


それを。


公式に認める。


使者はペンを置く。


手がわずかに震えている。


だが。


止まらない。


書き切った。


現実を。


そのまま。


逃げずに。


使者は報告書を見る。


重い。


紙一枚。


だが。


内容は。


国家を揺るがす。


護衛が低く言う。


「……荒れるな」


使者は小さく頷く。


「間違いなく」


だが。


それでいい。


いや。


それしかない。


この現実を。


受け入れなければ。


王国に未来はない。


使者は立ち上がる。


報告書を手に取る。


次は。


送る。


王国へ。


この現実を。


そのまま。


突きつけるために。


そして。


もう一つ。


やるべきこと。


レオナとの対面。


まだ終わっていない。


むしろ。


ここからが本番。


使者は扉へ向かう。


覚悟は決まっている。


逃げない。


この現実から。


そして。


その中心から。


扉に手をかける。


開く。


外の光。


グレイウッドの空気。


その中へ。


再び踏み出す。


すべてを背負って。

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