第53話 到着
街道の先。
緑が広がる。
近づくほどに。
それは“異常”になる。
整然と並ぶ畑。
均一な成長。
無駄がない。
使者は目を細める。
「……ありえない」
思わず漏れる。
護衛も無言。
否定できない。
これまで見てきた土地と。
あまりにも違う。
同じ国とは思えない。
馬車は進む。
さらに奥へ。
やがて。
見えてくる。
壁。
だが。
城壁ではない。
閉じるためのものではなく。
区切るためのもの。
整備された入口。
人の出入り。
活気。
使者の呼吸が一瞬止まる。
「……都市だ」
誰かが呟く。
その言葉。
否定できない。
門を通る。
瞬間。
世界が変わる。
音。
人の声。
笑い声。
足音。
すべてが。
溢れている。
市場。
人で埋まっている。
だが。
混乱はない。
整っている。
秩序がある。
店が並ぶ。
食料。
布。
道具。
どれも。
質が高い。
そして。
量が多い。
「……」
使者は言葉を失う。
護衛の一人が小さく言う。
「多すぎる」
それが正しい。
供給が。
過剰。
ありえない状況。
さらに。
目を引くのは。
人。
いや。
人だけではない。
獣人。
耳と尾。
普通に歩いている。
会話している。
笑っている。
差別の気配がない。
自然すぎる。
使者の思考が止まる。
「……なぜ」
答えはない。
ただ。
現実だけがある。
さらに進む。
通り。
広い。
舗装されている。
段差がない。
無駄がない。
馬車がスムーズに進む。
そして。
視界に入る。
柱。
灯り。
昼だというのに。
淡く光っている。
「魔導……か」
誰かが呟く。
理解はできる。
だが。
規模が異常。
個人の技術ではない。
都市全体に。
行き渡っている。
使者は息を吐く。
整理しようとする。
だが。
追いつかない。
情報が多すぎる。
常識が壊れる。
「案内を頼みたい」
門番に声をかける。
自然に。
丁寧に。
対応される。
敵意がない。
むしろ。
普通。
それが一番の異常。
案内人がつく。
歩く。
都市の中心へ。
途中。
子供たち。
走っている。
笑っている。
健康。
飢えも。
不安も。
感じられない。
使者は立ち止まる。
その光景を。
ただ見る。
王国では。
見られないもの。
胸の奥がざわつく。
比較してしまう。
してはいけないのに。
止まらない。
やがて。
視界が開ける。
中央区画。
広場。
人が集まる。
活気。
秩序。
すべてが共存している。
「……これが」
言葉が続かない。
誰も。
続けられない。
理解したから。
これは。
ただの都市ではない。
“完成された場所”。
王国が目指していたもの。
いや。
それ以上。
完全に。
追い抜かれている。
使者はゆっくりと息を吸う。
そして。
確信する。
「……勝てない」
小さな声。
だが。
誰も否定しない。
否定できない。
この瞬間。
王国とグレイウッドの差は。
完全に可視化された。
覆らない現実として。
使者は前を見る。
この都市の主。
レオナ。
その存在の大きさを。
ようやく理解する。
これは。
個人ではない。
“文明”。
それを相手にしている。
背筋に冷たいものが走る。
だが。
任務は変わらない。
進むしかない。
どれだけ現実が重くても。
使者は一歩踏み出す。
都市の奥へ。
その中心へ。
そして。
すべての始まりの場所へ。
向かう。




