第52話 旅
街道。
馬車は進む。
単調な揺れ。
規則的な音。
だが。
景色は変わり続ける。
王都を出て。
すでに数日。
使者は窓の外を見る。
広がるのは。
荒れた土地。
畑。
だが。
実っていない。
土は痩せ。
人は少ない。
農民の姿も。
どこか疲れている。
「……」
言葉が出ない。
護衛の一人が口を開く。
「こんなものですよ」
諦めたような声。
使者は視線を戻す。
「昔からか?」
問い。
護衛は少し考える。
「いや……」
曖昧な返答。
「前は、もう少しマシだった」
それだけで。
十分だった。
悪化している。
確実に。
馬車は進む。
別の村。
同じ光景。
いや。
さらに酷い。
空き家。
崩れた屋根。
人の気配が薄い。
「どこへ行った」
思わず漏れる。
護衛が答える。
「……噂の都市、でしょうね」
グレイウッド。
名前が頭をよぎる。
人が流れている。
話では聞いていた。
だが。
実際に見ると。
重みが違う。
これは。
“移動”ではない。
“流出”だ。
国が削られている。
少しずつ。
確実に。
馬車が止まる。
休憩。
使者は外に出る。
空気を吸う。
乾いている。
近くの井戸。
水を汲む女性。
細い腕。
やつれている。
使者は近づく。
「水は足りているか」
問いかけ。
女性は一瞬驚く。
そして。
苦笑する。
「なんとか……」
“なんとか”
その一言に。
すべてが詰まっている。
余裕はない。
限界に近い。
使者は何も言えない。
言葉が軽すぎる。
代わりに。
小さく頷く。
それだけ。
馬車に戻る。
再び出発。
しばらく沈黙。
誰も話さない。
やがて。
護衛がぽつりと言う。
「……あっちは違うらしい」
使者が顔を上げる。
「何がだ」
短い問い。
護衛は前を見たまま。
「食料が余ってるって」
静かな声。
信じがたい話。
だが。
今見てきた現実が。
それを否定できない。
ここと。
あちら。
同じ国の中。
なのに。
まるで別世界。
使者は考える。
なぜ。
どうやって。
答えは分からない。
だが。
一つだけ。
確かなこと。
この差は。
放置できない。
いや。
すでに。
放置できる段階を過ぎている。
馬車は進む。
道は続く。
景色はさらに変わる。
荒野。
何もない。
だが。
遠く。
わずかに見える。
緑。
違和感。
この土地には不自然な色。
護衛が目を細める。
「……あれか」
使者も見る。
確かに。
緑が広がっている。
広大に。
整然と。
明らかに。
人の手が入っている。
「……まさか」
誰も言い切らない。
だが。
全員が理解する。
あそこが。
目的地。
グレイウッド。
王国とは。
まるで違う場所。
格差。
はっきりと見える。
目に見える形で。
使者は無意識に息を飲む。
これが。
現実。
王国と。
辺境の。
決定的な差。
馬車はそのまま進む。
境界を越えるように。
別の世界へ。
足を踏み入れていく。
そして。
この先で。
さらに理解することになる。
“差”ではない。
“格の違い”を。




