第51話 使者派遣
王城。
早朝。
空はまだ薄暗い。
城門前。
数台の馬車。
護衛。
そして。
一人の男。
王国使者。
立っている。
緊張が顔に出ている。
当然だ。
今回の任務。
前例がない。
成功の保証もない。
むしろ。
失敗の方が現実的。
背後から足音。
振り向く。
宰相。
静かに歩み寄る。
「準備はいいか」
短い確認。
使者はすぐに頭を下げる。
「はっ」
声がわずかに硬い。
宰相は一瞬だけ見つめる。
その様子を。
すべて理解している。
だが。
何も言わない。
言葉で軽くなる任務ではない。
代わりに。
一枚の書簡を差し出す。
重厚な封。
王家の紋章。
「これを」
使者は両手で受け取る。
その重さ。
紙ではない。
責任。
王国の命運。
それが詰まっている。
「必ず届けよ」
静かな命令。
使者は深く頷く。
「必ず」
短い返答。
だが。
内心。
分かっている。
届けるだけでは終わらない。
問題はその先。
受け取るかどうか。
応じるかどうか。
そして。
最悪の場合。
拒絶。
その時。
何が起きるか。
想像したくない。
城門が開く。
重い音。
新しい道が開く。
同時に。
戻れない道。
使者は一歩踏み出す。
馬車に乗る。
護衛が配置につく。
「出発!」
号令。
車輪が動く。
ゆっくりと。
そして。
確実に。
王城を離れていく。
城壁の上。
兵たちが見送る。
誰も声を上げない。
ただ。
静かに。
見送る。
その意味を知っているから。
これは。
ただの使者ではない。
最後の賭け。
王国の。
遠ざかる城。
近づく外の世界。
景色が変わる。
整った石畳。
やがて土道。
さらに進む。
村。
人影が少ない。
空き家。
荒れた畑。
使者は無言でそれを見る。
現実。
王国の現状。
何も言えない。
言葉がない。
ただ。
進むしかない。
時間だけが過ぎる。
日が昇る。
完全な朝。
その光の中。
使者は前を見つめる。
その先にあるもの。
辺境。
そして。
グレイウッド。
噂の都市。
未知の存在。
期待と不安。
混ざり合う。
護衛の一人が小さく呟く。
「……本当にあるのか」
誰も答えない。
分からないから。
だが。
進めば分かる。
必ず。
使者は書簡に手を置く。
その中身。
まだ見ていない。
見る必要もない。
重要なのは。
“内容”ではない。
“相手”だ。
この旅。
王国の意思を運ぶもの。
そして。
結果次第で。
すべてが変わる。
風が吹く。
馬車が進む。
道は続く。
長く。
果てしなく。
そして。
その先で待つのは――
拒絶か。
受容か。
それとも。
まったく別の未来か。
誰にも分からない。
ただ一つ。
確かなこと。
この瞬間から。
物語は。
再び。
大きく動き始めた。




