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悪役令嬢は物語に支配された世界を、文明で解放する  作者: 南蛇井


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第5話 侍女セラ同行

グレイウッド公爵邸の中庭。


出発の準備は、すでに整っていた。


荷を積んだ馬車が一台。

護衛も最低限。

かつての公爵令嬢の移動とは思えないほど、簡素なものだった。


屋敷の使用人たちは遠巻きにその様子を見ている。


誰も近づこうとはしない。


誰も声をかけようとはしない。


追放される主に関わることは、すなわち自分の立場を危うくする。


それが、この屋敷の“常識”だった。


そんな空気の中で。


ただ一人、迷いなく前に立つ少女がいた。


「レオナ様」


セラは真っ直ぐに背筋を伸ばし、深く一礼する。


そして顔を上げた。


「私も行きます」


はっきりとした声だった。


周囲がざわめく。


使用人たちの視線が一斉に集まる。


だがセラは一歩も引かない。


レオナはその様子を静かに見つめていた。


「……そう」


短い返答。


驚きはない。


昨日の時点で、すでに覚悟は決まっていたのだろう。


それでも確認するように言う。


「仕事が増えるわよ?」


淡々とした口調。


脅しでも、試しでもない。


ただの事実確認。


セラは即答した。


「慣れてます」


一切の迷いなし。


その言葉に、ほんのわずかだけ間が空く。


レオナは小さく息を吐いた。


そして。


ほんの少しだけ――口元を緩めた。


「そう」


それ以上は何も言わない。


許可も、感謝も、引き止めも。


だが、それで十分だった。


セラは再び頭を下げる。


「これからも、お仕えいたします」


その声は、どこか誇らしげだった。


周囲の使用人たちは、複雑な表情でそのやり取りを見ている。


誰もが思っていた。


――なぜ、ついていくのか。


追放された主など、捨てるのが普通だ。


安全な王都に残る方が、ずっと賢い。


だが。


セラにとっては違った。


理由は単純だ。


「レオナ様が行くなら、私も行く」


それだけだった。


レオナは視線を周囲へ向けた。


並ぶ使用人たち。


しかし――誰も前には出ない。


沈黙。


それが答えだった。


「……そう」


再び、小さく呟く。


期待はしていない。


むしろ当然の結果。


合理的判断としては、正しい。


(リスクを避けるのは合理的)


だからこそ。


(非難する理由はない)


ただ一つだけ、事実が残る。


――同行者は一人。


レオナはセラへ視線を戻した。


「人手は少ないわね」


「問題ありません」


即答。


「むしろ管理しやすいです」


「……そう」


ほんのわずかに、楽しそうな気配が混じる。


レオナは馬車へと向かった。


足をかけ、乗り込む。


中は簡素だが、機能的に整えられている。


セラも続いて乗り込んだ。


御者が合図を待つ。


レオナは最後に一度だけ、屋敷を振り返った。


長年過ごした場所。


だが。


そこにあるのは、ただの建物だった。


「出発して」


静かな命令。


御者が頷く。


手綱が引かれる。


車輪が軋み、ゆっくりと動き出す。


王都の門へ向かって。


屋敷の人間たちは、その背中をただ見送るだけだった。


誰も呼び止めない。


誰も手を振らない。


ただ――


一台の馬車が、静かに去っていく。


馬車の中。


セラは窓の外を見つめながら、小さく息を吐いた。


「本当に出てしまいましたね」


「ええ」


レオナは書類に目を落としたまま答える。


すでに次のことを考えている。


「まずは現地の調査ね」


「……早いですね」


「時間は有限よ」


当然のように言う。


セラは苦笑した。


だがその顔は、どこか楽しそうだった。


馬車は王都の大門を抜ける。


外の世界へ。


整えられた石畳が、やがて土の道へと変わる。


振り返れば――王都が遠ざかっていく。


レオナは一度も振り返らなかった。


ただ前を見ていた。


(さて)


静かに思う。


(ここからね)


何もない場所。


だからこそ。


何でも作れる場所。


馬車は進む。


新しい世界へ向かって。

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