第47話 聖女の疑問
神殿。
白い回廊。
静寂。
足音が一つ。
規則正しく響く。
一人の少女。
聖女。
白衣。
金の刺繍。
澄んだ瞳。
その表情に。
わずかな違和感。
立ち止まる。
窓の外。
王都が見える。
かつては賑わっていた景色。
今は。
どこか静か。
「……減っている」
小さな呟き。
人の流れ。
明らかに薄い。
その理由。
最近、何度も耳にしている。
“辺境の都市”
“グレイウッド”
噂。
最初は。
ただの誇張だと思っていた。
だが。
回数が多すぎる。
内容が一致しすぎている。
「食料が余る都市」
「病が消えた街」
「種族が共に暮らす場所」
ありえない。
常識が否定される。
聖女は目を閉じる。
祈るように。
だが。
心は静まらない。
違和感。
大きくなっている。
その時。
背後から声。
「また考え事か」
振り向く。
神官。
年配。
穏やかな表情。
聖女は軽く頭を下げる。
「少し……気になることが」
「辺境の都市、か」
言い当てられる。
聖女はわずかに驚く。
神官は苦笑する。
「誰もが話している」
事実。
神殿にも届いている。
噂。
いや。
情報。
聖女はゆっくりと口を開く。
「本当なのでしょうか」
問い。
純粋な疑問。
神官は少し考える。
そして答える。
「分からん」
正直な言葉。
「だが」
一拍。
「事実であれば……問題だ」
聖女の目が揺れる。
問題。
なぜ。
「神の秩序を逸脱している可能性がある」
静かな声。
だが重い。
聖女は黙る。
考える。
食料が余る。
病が消える。
争いがない。
それは。
“善いこと”ではないのか。
疑問が生まれる。
「……それは、悪なのでしょうか」
口から出る。
神官は一瞬だけ目を細める。
「判断するのは我々ではない」
視線が上を向く。
天井。
その先。
「神だ」
沈黙。
聖女は俯く。
納得できない。
だが。
否定もできない。
その時。
別の神官が駆け込んでくる。
息を切らしながら。
「報告が!」
空気が変わる。
「勇者が……」
一瞬。
全員の動きが止まる。
聖女の目が見開かれる。
「……どうしたのですか」
声がわずかに震える。
神官が答える。
「消息不明です」
静寂。
言葉の意味が。
すぐには理解できない。
「……え?」
間の抜けた声。
だが。
現実。
「最後の目撃は一ヶ月前」
「以降、連絡なし」
「所在不明」
空気が重く沈む。
勇者。
魔を討つ存在。
神の加護を受けた者。
その存在が。
消えた。
ありえない。
あってはならない。
聖女の心がざわつく。
辺境の都市。
勇者の不在。
神の秩序。
すべてが繋がりそうで。
繋がらない。
分からない。
だが。
一つだけ。
確かなこと。
何かが起きている。
大きく。
見えない場所で。
聖女は顔を上げる。
その瞳に。
迷い。
そして。
小さな決意。
「……確かめます」
誰に向けた言葉でもない。
だが。
確かに。
物語が動き出す。
神殿から。
外の世界へ。
そして。
やがて。
衝突する。
理想と。
神の意志が。




