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悪役令嬢は物語に支配された世界を、文明で解放する  作者: 南蛇井


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第4話 レオナの本音

グレイウッド公爵邸。


広い屋敷の一室で、荷物の整理が進められていた。


大きなトランクがいくつも開かれ、衣服や書類、道具が整然と並べられていく。


その中心にいるのは――レオナ・グレイウッド。


いつも通りの無表情で、淡々と仕分けをしていた。


「これは持っていく。これは置いていく」


迷いがない。


必要か不要か。


ただそれだけで判断している。


その横で。


侍女セラは、明らかに怒っていた。


「納得いきません!」


ぱん、と勢いよく衣装箱の蓋を閉める。


「どう考えても理不尽です!」


レオナは視線も向けずに答えた。


「そうね」


あっさり。


あまりにも軽い返答。


セラの怒りがさらに強まる。


「そうね、じゃありません! 婚約破棄に追放ですよ!? 普通なら――」


「普通なら?」


レオナは手を止め、少しだけ首を傾けた。


「泣いて、抗議して、取り消しを求める?」


「そうです!」


即答。


だがレオナは小さく息を吐いた。


「非効率ね」


その一言で、空気が止まる。


セラは言葉を失った。


レオナは再び作業に戻りながら、淡々と続ける。


「そもそも王都の構造自体に問題があるのよ」


「……は?」


話が飛んだ。


だがレオナは気にしない。


「例えば農業」


指を一本立てる。


「生産性が低すぎる。手作業に依存しすぎている上に、土地の管理も杜撰」


次に二本目。


「物流」


「輸送経路が非合理的。中継地点が多すぎるせいで時間もコストも無駄にかかっている」


三本目。


「税制」


「徴税の仕組みが複雑すぎる。中間で抜かれる分が多く、結果的に全体効率を下げている」


淡々と、次々に問題を列挙していく。


まるで講義のようだった。


セラはぽかんと口を開ける。


「……えっと……」


理解が追いつかない。


なぜ今、その話になるのか。


レオナは結論を出した。


「つまり」


一拍。


「非効率」


静かに言い切る。


セラは頭を抱えた。


「お嬢様……」


思わず呟く。


「今の状況、分かってます?」


レオナは手を止めずに答える。


「ええ」


「追放ですよ?」


強調する。


人生が大きく変わる重大な事態。


だが。


レオナはようやく手を止め、セラを見た。


その表情は――


どこか、すっきりしていた。


「自由よ」


静かな一言。


セラが固まる。


「……自由?」


「ええ」


レオナは窓の外へ視線を向けた。


王都の街並みが広がっている。


整っているようで、どこか歪な都市。


「ここには制約が多すぎる」


貴族のしがらみ。

王家の意向。

形式だけの慣習。


「何をするにも、無駄な許可と調整が必要」


わずかに目を細める。


「効率が悪い」


そして。


再びセラを見る。


「辺境は違う」


その声は、ほんの少しだけ強かった。


「何もない」


だからこそ。


「何でもできる」


セラは言葉を失う。


その発想はなかった。


追放は罰。


苦難の始まり。


そう思っていた。


だが目の前の主は――


まるで新しい仕事を与えられたかのように話している。


レオナはトランクを閉じた。


「準備はこれでいいわね」


ぱちん、と鍵をかける音が響く。


セラはしばらく黙っていたが、やがて小さく息を吐いた。


「……本当に変わってますね」


半ば呆れた声。


レオナは特に否定しない。


「そうかしら」


「そうです」


即答だった。


少しの沈黙。


そしてセラは、ふっと小さく笑った。


「でも」


顔を上げる。


「嫌いじゃありません」


レオナは一瞬だけ目を細めたが、何も言わなかった。


代わりに、次の指示を出す。


「出発準備を整えて」


「はい」


セラは力強く頷いた。


もう迷いはない。


主が進むなら、自分も進む。


それだけだ。


屋敷の外では、すでに馬車の準備が進められていた。


王都を離れる時が、近づいている。


レオナは最後にもう一度、部屋を見渡した。


長く過ごした場所。


だが未練はなかった。


(さて)


静かに思う。


(どこまでできるかしら)


その瞳には、わずかな興味が宿っていた。


――追放ではない。


これは。


新しい実験の始まりだ。

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